純文学

 結局――。99%が素肌の男の部屋にうら若き令嬢を上げる訳にもいかず、とりあえず私は学食へ行こうとザラメ嬢に提案する。学食ならば私は無料タダでザラメ嬢にお茶を振る舞う事も出来るので都合が良かった。

 そしてザラメ嬢もその提案には簡単にOKしてくれたのだが、問題はどうやって学食まで行くか……だ。さすがに股間にバラの花束だけで行くのは譬え法律が許したとしても、私のプライドが許さない。なので――まずバラの花束を野バラの花束に替えて、あとは胡蝶蘭こちょうらんの花束もあれば露出度的にはギリギリいけるか? と部屋の方を振り向きながら考えるが、コーディネート的にイケてないと判断した私は別の案を模索した。


 結果。普通にジャージを着る事にした。


 無論、着替えがなかったのは事実。ではどうやって服を捻り出したのかといえば、答えは単純でザラメ嬢に購買に行って買ってきてもらっただけの話である。恐らくこれが服を手に入れる方法として一番早かたったからだ。


 という訳でジャージに着替えて部屋を出ると――

「……」

 ザラメ嬢が妙に訝し気な表情で私の全身を舐め回す。

「……? お待たせしました。どうかしましたか?」

「いえ別に……ちょっと腹立たしいだけですわ」

 腹立たしい? っと私が声を出すより先にザラメ嬢は両腕を組むと。

「ノレ様は容姿だけは素晴らしいので、イモみたいなジャージでも妙に似合うのがなんか腹立たしいですわ!」

 あぁ……まあ確かに何を着ても似合うとは良く言われるが、何も着ないのが一番似合うのは間違いないだろ。なのでここは謙遜しつつも話に乗っておこうと思い、私は後ろ頭を掻きながら照れ笑いを浮かべ。

「そうでしたか。実は良く言われるんですよ……お前はイモみたいなジャージだって」

「似合うんじゃなくてイモみたいなジャージその物っ!? いや、とゆーかそーゆーところですのよ! 容姿だけって言われる所以はっ!」

 なるほど。参考になった。ならこれからは容姿以外に磨きをかけるとしよう。


 ――という事で私とザラメ嬢は学食へと移動。


 ランチの時間でもディナーの時間でもない学食に利用者なんてものは殆ど存在せず、席はどこでも座りたい放題だったが、私とザラメ嬢は学生ではないので一応遠慮してすっごい端っこの方に席を確保した。


 ――で。

「それで? エ口豚で活動するつもりだったけど無理だったので私を誘いに来た……みたいな話でしたけど、もしかしてこれから冒険者ギルドへ行こう! って話ですか? 一応言っておくと、私はエ口豚のメンバーじゃないですからね?」

 私が早速質問をしてみると、ザラメ嬢は午後の優雅なティータイムを演出……するかのように後ろ髪を片手で撥ね上げてから、高そうなアンティークのティーカップに入っているウメ昆布茶を「ズズズッ」と啜り。

「勿論それは存じ上げていますわ。ですので今日は冒険者活動ではなく、別の活動にノレ様を誘おうかと思いまして」

「別の活動?」

 私が小首を捻っていると、ザラメ嬢は不適な笑みを浮かべ。

「ええ。ダンジョン配信ですわ」


「…………はあっ?」


 思わず頭の天辺から声がすっぽ抜けたが、一応先に確認しておこう。

「ダ、ダンジョン配信ってあの〜ダンジョンに入ってモンスターを倒したり、お宝をゲットしたりするのを動画配信するっていうアレですか?」

「そう! そのダンジョン配信ですわっ! オホーッホッホッホッ!」

 胸を張って高笑いするザラメ嬢だがアホかっ。何故そんな人が死にに行くような動画を配信出来る? そしてそれをエンタメとして観るデスゲームの主催者気取りのバカ視聴者共がいるのか? だとしたらこの世界の司法やモラルはどうなっている……まさか何の根拠もないのに無条件で配信者は死なない、ダンジョンで無双しまくるからそんなシーンが映る訳がない。とか脳みそお花畑な考えなのか? そんな訳あるか、普通常識的に考えればクリアする人間の裏で何人もの死人が出る……いや、場合によっては死人が出まくる裏でようやくクリアする人間がいる……という状況で、それを動画配信するとか狂気の沙汰どころではなくアホの極致だろう?

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