後記

 ――と。ここで扉をノックする者が現れる。なので釣られる形で全員が扉へと視線を向けると――

『お飲み物をお持ちしました』

 という女性の声が。これに対しトノサマ。

「うむ。入れ」

『失礼致します』

 声の後に扉が開かれ、中に入って来たのは2人のメイドで、メイド達は扉が開いたままになるように固定すると、ティーセットと魚肉ソーセージを乗せたワゴンを押して部屋の中へと入って来た。


 おぉ~。本物のメイドなんて友人の家でしか見た事がなかったな。しかし観賞用のソーセージは魚肉ソーセージか。これは8時間はイケ……る……


「な、なんだとっ!」


 私は思わず叫びながらサングラスを外し立ち上がった。

「えっ!? 本当にサングラスしてたんですかっ?」

 いや着替えた時からずっとしていただろう? 今頃気が付いたのかドク口?

「それより急に大声を上げてどうしたんです?」

 私の声に驚き、動きを止めたメイド達が押すワゴンの上のソーセージを私はワナワナと指差し。

「ド、ドク口さんは驚かないんですか? アレ観賞用の魚肉ソーセージじゃなくてお触り用の魚肉ソーセージですよ? お触り用のを観賞するなんて金持ちの道楽以外ありえないッ!!」

「お触り用の魚肉ソーセージッ!? そんな物がある事自体に驚きですよっ。観賞したりお触りじゃなくて普通に食べればいいじゃないですかっ!」

 という事を言われて冷静になって考えてみれば、相手は一国の王様なんだから金持ちの道楽なのは当然か。


 ――なので。私が再び腰を下ろすと、何事もなかったかのように2人のメイドが精密機械のような動きでお茶の用意を始めてくれた。


 その後、仕事の早い頭にアンテナらしき物がついたメイド達はすぐにお茶の用意を済ませて部屋を出て行く。それを待っていた訳ではないが、全員がそれを見届けてから出されたお茶を口にし始めた。

 うむ。ソーセージを眺めながら他人とお茶を飲むのなんて記憶にないくらい久しぶりだが、これはこれで趣があるな……と考えながらティーカップをテーブルの上のソーサーへと戻し私が口を開く。

「では今度はこちらの番ですかね?」

「うむ。宜しく頼む」

 トノサマが頷いていると私よりも先にドク口が。

「あ! じゃあ、もう名前は言ったので私からいいですか?」

「こちらとしてはどちらからでも」

 とトノサマが言うので私はドク口に黙礼を一つ送る。そしてそれをGOサインと受け取ってくれたか死神が紹介を始める。

「えっと、名前はさっき言った通りドク口と言います。元の世界では死神をしていてノレさんを殺しに行ったところ、ノレさんの異世界召喚に巻き込まれて今はここに居ます。そしてその際に全ての神通力や魔法を失ってしまったので、今はただの巨乳美少女です」

「あ〜因みにおわかりだとは思いますがノレって言うのが私です」

 と私は軽く片手を上げて素早く死神の自己紹介に補足を入れた。これに竹中が一つ頷き。

「なるほど。今までの会話の端々でドク口さんはそうじゃないかな? っと思っていましたが――。では勇者殿はどのような人物で?」

「あ、はい。えーっと、名前は力工ノレ。精神衛生上、自分が底辺じゃない事を確認するためインチキ底辺霊媒師を眺めるのが日課だったギリギリ底辺じゃない、多分ギリギリおじさんじゃない、そしてギリギリ人間の形を保ってインチキ底辺霊媒師の付き人をしていた現フリーランスのフリーターです」

 ハーブティーの飲み残しのように爽やかな私の自己紹介が終わると、途端にトノサマと竹中が眉を顰める。

「どの職にもすぐに転職出来るフリーランスのフリーターで……」

「……死神を退ける力。間違いなく勇者ですね」

 こ、この世界のフリーランスのフリーターはドえらく評価されているみたいだが大丈夫か? と不安になるので私は続ける。

「あの~私って元の世界だと魔法や神通力といった物は一切使えない普通の一般人だったんですけど、それでも召喚されたからには評価としては勇者なんですかね?」

 まあ、仮に私を勇者とした場合。一般人と違う点を無理に挙げるとするならばソシオパスだという事と紙一重で2.5ではなく3.5次元俳優だという事だろう。但し初対面の人間にいきなりソシオパスだと告白するほど私は出来た人間ではない…………紙一重でな。

 としているとアゴを撫でながらトノサマが口を開く。

「うむ。ノレ殿はもともと無料ガチャでの召喚なので、わかり易く星1から5でレア度を表せば、星1の勇者という事だな」

 ……ほぅ? つまり私は無課金キャラという事か、実に私らしくて良し!

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