前記
というような事をやっていると、私とドク口の話が一区切りしたと判断したか女性が話を差し込んでくる。
「とりあえず今ので異世界にやって来た……という事は理解して頂けたかとは思います。で、自己紹介の途中で話が逸れてしまいましたが、私は趣味でこの国の宮廷魔術師をしている竹中と申します。そして気付いているとは思いますが、私は人間とエルフのハーフです」
えぇ……この国は趣味で宮廷魔術師が出来るのか。と思ったが、私も趣味で宮廷を全裸で歩いていた事があるから人の事は言えないか。
っと考えていると横からドク口。
「あ、ビジュアルが人間離れしてるなーとは思ってたんですけど、やっぱり竹中さんてハーフエルフだったんですね?」
すると。
「それはちょっと頂けないですね金魚のフン殿」
と。キレる――とまでは言わないが、少々表情を曇らせる宮廷魔術師。
「ちょ、もう金魚のフンは止めて下さい。私にはドク口って名前があります! で? 何が頂けないんですか?」
「はい、恐らくですが――ドク口さん達が居た世界では『ハーフエルフ』という言葉は常用されていたのだと思いますが、我々のこの世界ではその言葉は差別用語になっているので使わない方が宜しいかと」
「さ、差別用語?」
頭に疑問符を浮かべるドク口に、私の横でトノサマは静かに頷き。
「左様。斯くいうこの世界でも数年前までは普通に使われていた言葉なので、使用されて逆上するような人物はそうはいない――ウチの竹中もしない部類だ。ただ、世間体等を気にするのであれば使用は避けた方が賢い……という話だ」
「なるほど。しかし何故ハーフエルフという言葉に問題が? 何も問題なさそうですが?」
これを言ったのは私だ。そしてこれはトノサマと竹中。どちらかに向かって言った質問ではないが――答えてくれたのは竹中で。
「まあそうですね。実際その言葉自体に問題がある訳ではありません。問題なのはハーフエルフという言い方です。つまりこれはエルフのハーフだという事はわかりますが、エルフと何のハーフなのかがわからない……というところが問題なのです。延いてはエルフのハーフという事さえわかれば、残りの種族は知る必要がない、エルフと比較してその種族は不必要、劣等種と言っているのと同義……なのでこの呼び方は撤廃されたのです」
「なるほど」
とウンウン頷いているドク口だが――。
確かに些細な問題なような気もするが、核心を衝いているような気もする。そう考えるとさっき竹中が「ハーフエルフ」ではなく「人間とエルフのハーフ」という言い方をしたのも頷ける。となると――
私は口を開く。
「となると、この世界では半ズボンや半チャーハンも差別用語という事なんですね?」
「そうです」
と頷く半エルフ。
「なんでですかっ!? 半ズボンや半チャーハンは丈とか量が半分なだけで何かとのハーフではないじゃないですか!」
死神が何か言っているが、まあ話
「半人前の死神は少し黙っててもらえますか?」
「ヒ、ヒドイ! 一応こう見えて一人前の死神なのにっ!」
え? あなたレントゲン写真と労働力のハーフじゃなかったの?
と私が死神を弄んでいると話に乗ってきてくれたか竹中。
「因みに半人前は差別用語ではありません」
「どぉうしてぇ? 半チャーハンより半人前の方がよっぽど差別っぽいのにぃ!」
「それとこれはどうでもいい話ですが私のフルネームは竹中
「ハーフべぇっ!? それは問題ないんですかっ?」
「問題ないですね。わかり易く言えば女性に『インランビッチ』という名前を付けるようなものなので別段問題はないかと……」
「大問題ですよ! というか差別通り越してただの悪口じゃないですかっ!」
とドク口が驚いているところへ透かさず私。私は敢えてドク口を見ずに竹中に真っ直ぐな視線を向け。
「それで問題ないという事は、私がドク口さんを『ドク口インランビッチ』と呼んでも差別にはならないという事ですね?」
「はい。勇者殿にそう呼ばれるのはとても光栄な事だと思うので、そういう意味では差別ではなく贔屓かもしれませんね」
「嫌ですよそんな贔屓。というよりさっきも言いましたけど差別の前にナチュラルな暴言ですってば!」
と訴える死神だが、別に確認しただけで呼ぶとは一言も言ってないがな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます