備考

「ええっと、それはわかりました。じゃあ私は一体どういった目的で召喚されたんですかね?」


 ――そう。当然だが一番肝心なのはここ。何故ならこれさえわかれば場合によってはとっとと元の世界に帰れるかもしれないからだ。……ドク口を置いて。

 あ、いや待てよ? 死神をこの世界に置いて帰れれば死神という驚異はなくなると思っていたが、ずっとこの世界に居ればドク口は力を失ったままで私を殺せないのか。というか、この世界に居る限りドク口も仕事にならないから私を殺す必要もない……と考えれば、このままこの世界に棲みつくのも吝かではないか?


 なんて事を考えながら自己紹介もそこそこに切り上げこの質問をした訳だが――


 その答えは竹中が険しい顔付きで答えてくれた。

「それなんですが――実は2000年ほど前。この世界には『Re:ゼロから始める埼玉県生活』という二つ名を持つ異世界からやって来た魔王『この素晴らしい埼玉に祝福を』という魔王が全世界を埼玉県の植民地にしようとしました。しかしそれを阻止すべく立ち上がったのが勇者『転生したら埼玉だった県』でした。そして勇者は見事に魔王の野望を阻止し、その後500年くらいは世界は平和で群馬県の植民地だったのですが――500年の時を経て新たな魔王『埼玉県に出会いを求めるのは間違っているだろうか』が異世界からやって来て再び世界を埼玉県の植民地にしようと試みました。しかしそこでも立ち上がったのが500年前の勇者の子孫達で、子孫達も新魔王の野望を阻止する事に成功しました。そしていよいよ現代、三度みたび異世界から魔王がやって来て――。……と、いうラノベを子供の頃に書いていた私が今回『勇者召喚ガチャ』という新しい魔法を開発したので実験的に召喚してみたところ、ノレ殿とオマケでドク口さんが召喚されたという話ですね」

 なるほど。っと私が静かに頷いていると。

「前半部分いらなっ!」

 隣でドク口が叫ぶが――前半どころか8割くらいいらんかったろう? こんな隙あらば自分語り見た事がないぞ私は。

 と考えながら私は真っ直ぐな瞳で竹中を捉え。

「それで? 三度目の魔王の野望は阻止出来たのですか?」

「ガチャじゃなくてラノベの方に興味持っちゃったよこの人!」

 え? お前は続きが気にならなかったのか? っとドク口をチラッとだけ睨むが竹中の発言に私の視線はすぐに戻される。

「それなんですが実は――平和な時間が長かったせいか現代では勇者の血が途絶えてしまって、なんとかして魔王に対抗出来る勇者の血筋を復活させようと色々と試すのですが、魔王の妨害があまりに酷いのでとりあえず先にからあげ弁当のごはんにゴマを乗せるだけの職人に魔王を倒してもらい、その後にゆっくり勇者の血筋を復活させました……」

 ……。

 ……。

 …………。

「勇者の血筋復活させる意味なっ! 完全に手段と目的が入れ替わってる!」

 と言っているドク口に私が透かさず口を挟む。

「いやいや、手段と目的が入れ替わるなんて破綻と矛盾だらけのクソラノベじゃ必須事項じゃないですか。寧ろ破綻や矛盾がないと良いクソラノベとは言えませんよ?」

「良いクソラノベという単語が既に矛盾してるっ!?」

 とドク口がツッコミを入れていると今度は竹中。

「いや別に矛盾という程ではないですよ? 恐らくドク口さんはクソラノベの事を『うんこみたいなライトノベル』と思っているのでしょうが、実際のクソラノベとは『排泄物うんこについての簡単ライト説明書ノベル』って意味ですからね」

「そういう事ですよドク口さん。つまり良いクソラノベというのは生まれも育ちも上品なうんこの雑な攻略本って事です」

 と私が続いたら。

「もうツッコミどころしかないから、ここしかツッコミませんけど――なんであなた達は今日初対面の異世界人同士なのにそんなに息ピッタリなのですか?」

 うむ。言われてみれば妙に心地良い気もする……と私が瞳を閉じてしみじみと頷いているとトノサマ。

「いや、ワシからすればドク口殿も息ピッタリだがな? ……というかそろそろ話を本題に戻して良いか?」

 ああ、そうだったな。そろそろ閑話は休題としよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る