外伝

 ――翌日。


 昨日は長い1日だった。トラックに轢き殺されかけ、死神に殺されかけ、異世界に召喚され……実際にはそれらの前に無銭飲食で捕まりそうになった時、素っ裸になって公然わいせつ罪に逃れようとした容疑者と間違われたり、あざとカワイイの対義語は愚直なブサイクとありのままのブサイクと媚びないブサイクの中でどれが一番あざとカワイイか数時間悩んだ結果、私が一番あざとカワイイと気が付いたりと……本当に長い1日だった。


 そんな訳で今日は竹中とドク口と買い物に来ていた。


 朝から町をウロウロしていたので、今は休憩がてらオープンカフェで一服しているところだが――。ドク口は私と竹中が居なかったらどうするつもりだったのか? 昨日はフードを深く被って移動していたので通行人にバレる事はなかったが、今日は行く店、行く店で「死神ッ!」とか「魔王ッ!」とか「家元ッ!」とか言われて毎度私と竹中が言い訳をして事なきを得ていたが……一人だったら絶対弁明し切れなかっただろう? 自分のケツを他人で拭くな……いや、自分のケツを他人に拭かせるな、自分のケツは自分で拭け。とゆーかこの世界ではガイコツがなんの家元に見えるのだ? 華道か? それとも茶道の家元か?

 と考えながら私がカップをテーブルへと戻していると。

「いやー結構買っちゃいましたね」

 とホクホク顔で手荷物を眺めているドク口だが、爆買いしているのはお前だけだ。それより昨日はちゃんと見ていなかったが、私としてはお前が飲んでいるお茶が口を通過した後どこにどう消えているかの方が気になるのだが……? もしかしてこいつは透けているだけで実はちゃんと肉体があるのか? そういえばドク口の体にちゃんと触った事はなかったが――今度触ってみるか? と思ったがセクハラならぬ「アンデッドハラスメントですよっ!」とか言われて裁判にでもなったらややこしくなりそうだからやめておこう。

 としている中でドク口は続ける。

「あとは――スマフォがあった方が便利ですかね? あ、酢マホの方がいいのかな? 竹中さん、酢マホって魔法さえ使わなければ無免許でも所持してていいんですか?」

「ええ、所持するだけなら問題ないです」

 なるほど。やはりそこら辺も車と同じ理屈か。と私が考えていると竹中は肩から提げていた、今にも泳ぎ出しそうなくらい物凄くリアルなカツオの姿をしたポシェットの中をまさぐりながら。

「ですが、実は酢マホってその性能を全て呪文詠唱……つまりアプリであるプリケツに割いているので、魔法以外に使用する事が出来ないんです。なので魔法を使う人はみんなスマフォと酢マホの両方を持ち歩くようにしてますね。私もそうですし」

 と言って生のカツオをブラ提げてきたのかと最初錯覚したほどリアルな磯野カツオのポシェットから出てきた竹中の手には、酢マホとスマフォの両方が握られていた。しかし竹中はそのまますぐにスマフォをカツオのポシェットにしまい、酢マホをだけを目立つようにテーブルの中央に置き。

「逆に魔法を使わない人はスマフォしか持ち歩きません。というかライセンスなしで酢マホを持っているって人の方が稀ですね」

「あーやっぱ便利そうだけどライセンスありきか〜。あ、でも魔法学校に通うのって酢マホ持ってた方が良かったりするんですかね?」

 この質問に竹中は僅かだが眉間にシワを寄せ。

「まあ必要はないですね。基本、演習などで必要な場合はその演習に合わせた性能の酢マホをこちらから貸し出しますので。でも、それでも自分の酢マホを先に所持しておく生徒もチラホラとは居ますけど」

「あ~じゃあスマフォは買うとして、酢マホも買っといた方がいいのかな? どう思いますノレさん?」

 何故いちいち私に訊く? しかしまあ、興味がない訳ではないから乗ってやろう。

 私は考え込むフリ兼ドク口へのリアクションとして「ん〜?」と唸ったあと。

「竹中さん。今の話だと酢マホって複数のスペックがあるって解釈で良いんですよね?」

「はい。流石は勇者殿、察しが良いですね。ちょっと見ていて頂いて良いですか?」

『?』

 見ていろ? どういうつもりだ? っと私とドク口が揃って頭に疑問符を浮かべていると。

「プリケツッ! ステータスオープンッ!」

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