SF

 ――とはいえ。山に関して素人の我々は山を突っ切る危険は冒さず、徒歩で回り込んだとしても20分から30分程度の距離なので、依頼主の家までの残りは徒歩で進んで行く事にした。……のは良かったが、歩き始めて10分もしない時だった。


「きゃぁぁああ。だ、誰か助けてぇー!!」


 脳天から尻へと突き抜ける女性の悲鳴が――地面に跳ね返って再び尻から脳天へと突き抜け、私とカエルとドク口のアゴが一斉に跳ね上がる。


「んっ?」

「おやっ?」

『な、なんなんですか!』

「クッ、殺せ!」

 最後の私の台詞以外は誰がどれを言ったかは割愛するが――


 ――山の方か。


 私は山を一睨みするとすぐに顔をドク口達の方へと戻す。それはドク口達も一緒だったか、私とカエルとドク口の視線は1巡すると全員が同時に頷き、足はすでに山の方へと向いていた。

 向いていたが――この時。私は一つ気になる事があった。それは先頭をズンズン進んで行くカエルの背中である。無論、この背中を着痩せしているだけの全裸だと思った訳ではない。そうではなくて――


 どうもおかしい。こいつ――あの女性の声の発生源がどこかわかっているかのように迷いのない足取りである。正直ドク口はどうかわからないが私は多少迷った。何故なら女性の悲鳴は山の方から聞こえたのは確かだが、正確な場所となると――山に音が反射して特定しづらかった。要はやまびこが発生していたからで今も私には「この辺だろう?」という感覚はあるが確証はない。――のに、こいつには迷いが一切ない。何故だ?


 と小首を捻りながらもカエルの背中を追いかけ、山を掻き分ける私達だが――


(シッ)


 カエルが突き立てた人差し指を口に当てている。しかも空いている方の手で私とドク口を制する――というより「しゃがんで」というジェスチャーに見えたので私とドク口は草むらに野グソをする時のようにして身を隠し屈む。

(どうやらお姫様みたいな女性が山賊らしき者に襲われているみたいですね?)

(お姫様?)

 ドク口が小声で訊き返す中、前方を眺め述べるカエルのその視線を追ってみると――確かに人影らしき物があった。


 やはりおかしい。何故見える? はっきり言って私はカエルの言葉がなければ、まだ人影に気付いていなかっただろう。というか言われたところでお姫様みたいな相撲女子や相撲女子みたいな山賊らしき者というのが全くわからない。木々の隙間からかろうじて人影が見える――その程度、それほどの距離がある。


(どうしますか? 早く助けに行った方が良くないですか?)

 私の内心を無視してドク口が囁いてくるが、どうも嫌な予感がする。

(いや、ちょっと待ってください)

 私も小声で囁くと、ドク口とカエルの間を身を屈めたまますり抜けつつ。

(とりあえずもう少し近くで様子を見てみませんか?)

 と言って私はにじり寄り、人影との距離を縮めて行く。そうしてまず最初に目に付いたのは――


 白とピンクを基調とし、フリルが付きまくっている派手なドレスを着た――立て巻きの金髪が特徴的な人物……恐らくこいつが山賊らしき男。実際右手には抜身の曲刀を持っている。

 そしてもう一人。山賊らしき男と対峙している――上半身は裸で数本のでかい棘がついたヘルメットのような肩パットを付けている、左手に酢マホを、右手には釘バットを持ったモヒカンの男……恐らくこいつはお姫様みたいな女性の護衛だろう。

 そして更にもう一人。その護衛の後ろで――腰を抜かして地面にへたり込んでいる。白とピンクを基調としたモヒカンに、フリルが付きまくっている派手な肩パットをした女性……の写真を持っているお姫様みたいな女性。恐らくこの女性がお姫様みたいな女性なのだろう。

 そして更にもう一つ。ここまで近付いてようやく気が付いたが、山賊らしき男の足元には複数の男達が転がっている。わずかに体が上下に動いているので呼吸をしている……つまり生きているのが確認出来る者もいるが、ピクリとも動かない……生死が確認出来ない者もいる。こいつらは山賊男に倒されたお姫様の護衛達だろう。


 最悪だな。いや、最悪というほどではないか……しかしまぁ嫌な予感が見事に的中したのは事実か。

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