テンプレ
高谷
あらすじ
――目と鼻の先をトラックが横切る。
これは比喩などではなく本当に目と鼻の先をトラックが突っ切って行ったのだ。
もし仮に私が5年間、山でフィジカルを鍛えまくった
まあ、それはそれとして。これは私が車道に飛び出したとかではなく。普通に横断歩道手前で信号が青になるのを「離婚予定のある将来の俺の嫁」を想像しながら待っていただけなのに起きた事だ。
つまり。トラックが車道から外れて歩道に突っ込んでくるという事故……そのまま壁と電柱に激突したという交通事故だった。
私は右手を胸に当てる。
未だに肋骨がドキドキしている。口から心臓の毛が飛び出すかと思った。……この横断歩道は時速100キロで走るボディビルダーと時速98キロで走る力士の接触事故が多いという噂を聞いた事があるが、実際に目にした事はない。なのでボディビルダーと力士の接触事故より先にトラックの単独事故を目撃してしまった訳だが――
私はようやく少し落ち着いたところでトラックに視線を送る。
壁にめり込み、電柱をへし曲げているトラックだが私の位置から運転席の状況や運転手の状態は見えない。しかし安全圏から事の始終を見ていたのであろう学生や会社員。専業主婦に海の専業主婦、山の専業主婦に空専用主婦や主婦専用主婦と、全員が全員トラックを見ながらスマホをいじっているのでウーバーイーツで出前を頼んでいるのだろう。……という事は流石にないと思うので、被害者的立場である私が焦って救急や警察へ連絡しなくても彼等のウチ誰かがしてくれているはずだ。
……などと考えていると。壁にめり込んでいるトラックのフロント部分と壁。亀裂の入った壁のその隙間から何か良くわからない黒い点が這い出てきたような……?
「ゴキブ――ッ!」
いや違う。確かにゴキブリ大の黒い点で、節足動物のような足をカサカサ動かして移動しているがゴキブリではない。かといってゴキブリホイホイでもない。というかあれは生物なのか? ただの黒い点に足が生えているだけのように私には見える。それが這い出てきて這い出てきて、次から次へと――
――と。
ちょ、多過ぎないか? し、しかもこちらへ向かって来ているような……。
そして近付いてきたからなのか数が増えたからなのか、奴等は羽もないのに「ヴヴヴ」と羽虫が羽を羽ばたかせているような音を立てている事に気付く。
耳にこびり付く不愉快な音。まるで――クチャラーが3日間我慢したオナラの音に匹敵する程の不快な音を立てる不思議な虫達は、こちらに向かって来ていたのは事実だが、ある地点からこちらに寄ってこない。まあ、見ていても、聞いていても、謀反を企てていても心地良い虫ではないから寄って来ないのはありがたいが――。虫はその地点にどんどん溜まり始め、群れに群れて徐々に黒い山を築き始める。そしてそこから1分もしない内に、黒い虫の山は人間大の大きさになっていた。
ハッキリ言って気持ちが悪い。ショートケーキの上のイチゴをショートケーキと取り替えるくらい気持ちが悪い。集合体恐怖症の人間ならとっくに発狂して怒りの鉄拳をお見舞いしている頃だろう……私に。と考えていると。
『う~ん。何という事でしょう……』
――あ゛
い、今あの虫の塊が喋ったのか? そ、そんな訳がない。だが、辺りを見渡してもこれだけ近くではっきりと声が聞こえる位置には誰も居ない。
と私が再び黒い塊に視線を戻した時だった。
「――ッ!」
既にそこに居たのは黒い塊ではなく――
真っ黒いフード付きのローブを着た。右手にちゃんと武器になるのか甚だ疑問な大鎌という凶器を持った……誰もが死神を彷彿とするであろうドクロだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます