ハイファンタジー
そうしてカエルとドク口がコードの読み込みを終えると、カエルがパネルに触れて本格的な操作を始める。
「とりあえず今日のところは初挑戦のドク口さんとノレさんがいるので、金額は安くなってしまいますが一番ランクの低いC級のクエストにしておきましょう」
と言いながらカエルが「依頼」「受注」と書かれたパネルの「受注」を押す。するとパネルに「受注するクエストのランクを選んで下さい」という文字の下に特A級、A級、B級、C級と出てきたのでカエルがC級をタッチ。こうしてC級クエストの一覧がパネルに表れる。
『わぁ〜C級なのに結構クエストありますね? あ、映画のエキストラとかありますよ!』
と画面を覗きながら興奮気味に述べるドク口だが――止めておけ。譬えエキストラであってもお前が素顔で映ったらそれは全てホラー映像。登場人物が男しかいないラブコメ映画であったとしても一瞬でノンフィクションホラー映画になってしまう。かといってホラー映画のエキストラだったとしても、主役の怨霊がコンビニで買い物をしているホラーじゃないシーンでもお前が映った途端にホラーになってしまうし、お前の方が主役より目立つ可能性がある。
としていると。
『あ、これなんてノレさんにピッタリの仕事じゃないですか?』
とドク口が指差していたのは――
『全裸で声優をしてみませんか?』
だった。私は首を捻り。
「あ〜確かに私の美声は声優に向いているかもしれませんね?」
『そっちぃ!!』
ドク口が素っ頓狂な声を上げる。
『私は全裸の方がノレさん向きだと思って進言したんですけどもぉ?』
そっちぃ?
「いやドク口さん。ドク口さんはどうも私を誤解しているみたいですけど、私の全裸はあくまでプライベート、あくまで趣味です。仕事での全裸はポリシーに反します」
『全裸にポリシー!?』
ああ、私にだって節度はある。だから職場で全裸になるのは簡単だが、仕事中に全裸になった事は過去一度もない。そして職場で全裸になったのも勤務時間外、あくまで趣味!
「なるほど。ノレさんは趣味を仕事にしたくないタイプという事ですか」
としみじみ頷くカエル。流石だな。わかってくれるか。
――が。
この骨だけに頭の固い死神は。
『なんでそんなとこだけ拘るんですかっ! どっちでも人前で裸になる事に変わりはないじゃないですか!』
「いや、声優ですよ? 中の人が全裸でも視聴者はわからないと思いますが?」
私が冷静に諭すが。
『だったら尚更全裸声優やってみてもいいって事じゃないですか!』
いやだから「見られる見られない」の問題ではなくて「仕事か趣味か」の問題だと言っているだろう? そもそも見られない全裸になんの意味がある? 見られない全裸なんて虚無でしかないぞ……尤も私はその虚無感が好きで趣味にしているのだが。
しかしまあ結局のところ、この全裸声優もやれたとして私とカエルだけだったのでパスとなり、次に我々が目に留めたのは――
『あ、これなんてどうですか?』
と再びドク口が指差したのは。
『ウーバーイーツ配達員に昼飯の弁当を配達する』
というものだった。
「へー。配達員に弁当1個配達するだけで5000円ですか。随分と割の良いバイトですね?」
私が言っていると。
『えっ? ちょ、ソレ……お給金見てなかったんですけど、ウーバー配達員をするよりもウーバー配達員にお弁当を配達する配達員の方が儲かりませんっ!?』
目ん玉ないけど目ん玉が飛び出すような驚き方をするドク口に対して、目ん玉も金玉もある私は冷静に。
「そりゃ儲かるでしょ? 2個配っただけで1万円ですからね」
とゆーか私ならやっすい物をウーバーで注文して、それを配達してきた配達員に弁当を渡すという方法でこのバイトを自宅で完結させるけどな。
とか考えていると――隣のカエルと一瞬目が合う。その後でカエルが呟く。
「2個配るだけでうまい棒のサラミ味500本分とうまい棒のめんたい味500本分の儲けですか……」
『な、なんでワザワザ味を分けて言うんですか。普通にうまい棒1000本分て言えばいいのに……』
と零すドク口だが。
「いや、今うまい棒は1本10円じゃなくて12円ですから1万円で1000本は買えませんよ?」
これは私。
「なるほど。という事はサラミ味が416本でめんたい味も416本。そしてコーンポタージュ味が1本で計833本と余り4円で1万円になるという計算ですね?」
これはカエル。
『細かっ! なんで意地でもうまい棒で換算しようとするんですか!』
これはもちろんドク口だが。
なんでかって? そりゃお前、ウーバーでうまい棒1本だけ注文して配達員を呼び寄せるのが私とカエルの目論見だからだ!
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