プロット

 ともかくとして死神は取り出したスマホっぽい物の画面をいそいそとスライドさせている。……と。

「あ」

 ……あ?

「ぁぁぁあああっ!」

 突然黒フードガイコツが両手で頭を抱えて叫び出す。

「ホ、ホントだ! カエルじゃなくて力工ノレです。しかもご丁寧にノレは半角で『ノレ』ですよっ!」

 まあ、半角それが正式名だからなぁ……どうやって役所に受理させたのかは私も知らないが。しかしまあ、どうやらあの死神用スマホで情報確認は出来たようで何よりだ。


 ……と私が一瞬の隙を突いて『上半身が人間で下半身が魚のミノタウロス』なんて名前の新興宗教があったら流行りそうだと考えていると、死神はいつの間にか落ち着きを取り戻したか。

「いやはや、とりあえずノレさんが死ななかった原因を解明出来て良かったです。次回からはこういう事がないように気を付けたいと思います。ご協力ありがとうございました」

 と私に向かい深々と頭を下げた。なので私は笑顔で――

「いや、別に私は大した事はしていませんよ。なのでわざわざそんな軽そうな頭を下げて頂かなくても……」

 すると死神はガバッと顔を上げ。

「軽そうな頭って失礼なっ! ちゃんと脳みそ詰まってますよ!」

 嘘吐けガイコツ。スッカラカンではないか。

 っという死神ジョークは置いといて、私は片手をパタパタ振り。

「まあまあ。じゃあ私はこれからタクシーを呼んで、乗らずにチップだけ渡してそのまま帰ってもらわなければいけないのでこれで失礼しますね」

 と言って私は速攻でその場を離脱しようとするが。

「いやいやいや。そんな勝手に帰ってもらっては困るのですよ」

 言って死神が私の首――大鎌を襟首に触れるか触れないかのギリギリに掛ける。


 やはり見逃してもらえないか……


 と私が考えていると。

「本来、貴方はここで死ぬ運命だったので生き延びられてしまうと私が先輩に怒られてしまうのです。ましてやその原因が私のミスともなると一体どうなってしまうのか……? なので申し訳ありませんが既成事実のために貴方にはこのまま死んで頂きます」

 ん~? やはり私を抹殺しに来たのか。まあ、でなければ死神なんてホラー映画の序盤で差し込まれる謎のセクシーシャワーシーンでシャワーを浴びる役ぐらいでしか見かけないからな。

 だが、それはそれとして随分と優しい死神だな? 私が死神の立場だったら問答無用で私の首を刎ねていたところだが――。


 そこに付け入る隙がある!


 ……と考えた私は無抵抗の意を示すため、ゆっくりと両手を上げつつ。

「あ、なるほど。じゃあ殺される前にちょっとだけお訊きしても宜しいですか?」

 ――なんて。悠長に質問と、ニシローランドゴリラの学名が「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」だという事を再認識している場合ではないかもしれないが、私は死神がこの質問に「イエス」と答えるだろうと確信をしていた。


 ――理由は勿論すぐに私を殺さなかったから。


 つまり死神はそこまで切羽詰まっている訳ではなく、ある程度の質疑応答には応じているゆとりがある。……と私は踏んだ訳だが死神の答えは?

「ふむ。まあこちらにも不手際がありましたからね。それくらいは良いでしょう。無論、答えられるものしか答えませんが」

 良し。ここまでは予想通り。なら――

「それで結構です。では、あなたのお名前は?」

「名前? 『ドク口』ですが?」

 ドクグチか。如何にもホラー映画の序盤に出てくる和菓子職人って感じの名前だな。

「あ、じゃあドクグチさん。ドク口さんは私にしか見えていないって話ですが、私があなたに触る事って出来るんですか?」

 この答えも恐らく「イエス」。何故なら死神は大鎌で私を脅してきたから。つまりこれはなんか良くわからない魔法でいきなり魂とオシャレな猫のウンコだけを没収……みたいな事をするのではなく。鎌で首を斬り落とす、魔法ではなく物理で殺すぞ! という脅し方。となれば向こうは私に触れられる訳で、向こうが触れられるのにこちらは触れられないというのは、なくもないが原理的に相当難しいのでイエスだと私は踏んだ。無論、鎌は脅しのためだけの道具だったり、向こうだけが一方的にお触り自由な魔法とかもあるのかも知れないが――答えは?


「あ、貴方まさか私の身体が目当てだったんですかっ!」


 死神だけど殺すぞコノヤロゥ。こっちは物理攻撃が効くのかどうかが知りたいだけなんですけどもぉー!!

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