前書き
私は一頻り得心が行くと。
「まあ、何もしていないのに選ばれたのなら納得です。実際、私が勇者らしいところといえば、毎年クリスマスに男一人でディズニーランドではしゃいでいる事くらいですからね」
「え? あ、いや……確かにそれは限りなく勇者に近いですけど……流石にそれだけじゃ勇者認定されないと思いますよ?」
と隣で頬に汗を垂らすドク口。骨なのにどうやって汗掻いてるんだ? と内心では思いつつ、私は口では別の言葉を紡ぎ出す。
「いや、でも私――毎年クリスマスイヴも男一人でディズニーシーではしゃいでいますが?」
「イヴ、クリスマスと連日男一人で何やってるんですか? でもまあ、そこまでやれば勇者かもしれませんね?」
でしょう? 因みに毎年イヴ前日の23日は自分の送別会なのに最初の乾杯だけしてすぐに帰り、26日は知らない人の送別会で同じく乾杯だけして帰っている。それがここ数年の私のルーティーン。
――と。
「あれ? でもそうなるとノレさんはすっぽんぽんだから勇者として召喚されたって事で、私は
と洩らす死神だが、貴様は一般人ではなく一般
「ええ、その通りです」
と例の女性が私の前まで来て片膝を着く。
あ、くっさ。やっぱクッサ! 近くにきてわかったが思った通り香水臭い……例えるなら春先の花畑で歌っている妖精の足の裏に付いた甘納豆の匂い。
と。そんな微妙な甘納豆の匂いのするエルフっぽい女性が続ける。
「大変失礼しました。自分達の身に何が起きたのかわからず混乱なさっているかと思いますが、今からゆっくりと説明をしますので、ここより
「金魚のフッ……私そんなオマケ扱いなんですかっ!?」
と驚くドク口だが、そりゃオマケだろ。お前なんてドラゴンボールで言ったらバーダックの息子の地球育ちの下級戦士ってところだろうからな。
しかし詳しい事はまだわからないが、一応勇者とそのオマケとは認められたようなので、女性の合図でようやくSP達が銃を下ろし――無事、誤解というか警戒は解けたようだ。
そして大した時間も空けずに女性は何かを思い出したかのように。
「あっと! 勇者殿はこのままでは立ち上がれませんでしたね? すぐに衣装を用意させますのでそのままお待ち頂けますか?」
と未だに全裸のままで伏せていた私に声をかけてきたので。
「あ、どうぞお構いなく」
と日本人らしく遠慮してみた。すると速攻で横から。
「お構いするんですよっ! 服着てもらわないと私が困るんです!」
ドク口だった。
全く……我儘な死神だな。じゃあ仕方がない。
「すみません。じゃあサングラスだけお願いできますか?」
「なんでサングラスだけっ!? 隠すのはそこじゃなくて
という訳で結局普通に衣服が用意されました。
私が着替え終わると、私とドク口は王様と女性に連れられ別の階へと移り、更に移動を続ける。その道中。私は辺りを観察するが――
やはりパッと見の内装だけで言えば中世ヨーロッパのお城という感じだが実際には違う。それはあくまで表面上の造りだけで、例えば灯り一つとってもろうそくなどの「火」ではなく明らかに「電気」である。場所によっては人感センサーで点いたりもしているので、この城は
……となるとここは島根県か鳥取県辺りか? という根拠も自信も貯金もない推理をしながら歩み続けていると、とある部屋の前で女性と王様が動きを止めた。どうやら目的地に着いたらしい。
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