後述

 しかしそれはそれとして、私は感じた疑問を口にする。

「でも、今の話だと技術が確立していないだけで理論上は可能って事ですよね? どうやってやるんですか?」

「ああ、それはですね。もっと正確には言えば理論上可能というより、あとは技術が追いつけばいいだけという話で、早ければ2〜3年で完成。遅ければ30年くらい、そしてクサければ50年くらいで完成するという話です」

 なるほど。早くて2〜3年、遅くて30年、そして臭くて50年なら水虫だったら80年というところか。それならば私はこの世界に残る一択だな。それで死神からの脅威とはおさらば出来る。


 ――が。


 その死神の方はそうもいかないらしく。

「は、早くて2〜3年は困ります。もっと早く帰る方法はないんですか?」

 と懇願する死神だが、そんなに仕事が大事なのか? 異世界に来てまで仕事の心配とは――もしやドク口は死神の分際で社畜なのか? 死ぬまで働くのが社畜なのに、死を司る死神までもが社畜とは流石は社畜大国日本……呆れてものも言えん。だがしかし、これでもし日本に帰る事があったらメイドカフェ、猫カフェに続く新しいカフェ「社畜カフェ」を経営すれば一儲け出来るのではないか? そう――業務形態としては漫画喫茶と同じで社畜達の業務報告書が本棚にビッシリと並べられているので好きなだけ手に取って読んで良い喫茶店。


 ん――――。


 ……社畜カフェなのに社畜が1匹も居ないって流行る訳ねぇだろっ!


 クソッ。妙な夢を見せられた気分だ。っと内心でセルフツッコミを入れながらドク口と竹中の続きを見ていると、アゴのラインに右手の人差し指と親指を揃えた竹中。

「ん~今すぐとなると――まあ、なくはないのですがあまり現実的ではないですね」

「どうやるんですか? 教えて下さい」

 と身を乗り出すドク口だが。

「ええとですね……ようは私達がやった事の逆をすれば良いだけです」

「逆?」

 頭に特大の疑問符を浮かべるドク口に、私は横から口を出す。

「つまり引っ張り出す技術は確立しているから、私達が元居た世界で同じ魔法を使えば帰れるって事ですよね?」

「その通りです」

 と頷く竹中だが。

「え? いや、それって実質不可能って事ですよね? こっちの世界で今ようやく確立した新魔法を誰が向こうの世界で使ってくれるっていうんですか?」

 いや、だから竹中は現実的ではないと言っていたんだろう? ただ、私としてはそれ以上に気になった事がある。――ので。

「あの、ちょっと気になったんですが。譬え向こうの世界で同じ魔法を使ったとしても、ピンポイントで私とドク口さんを引き当てる事って出来るんですか? ガチャなら別の世界の別の勇者を引き当ててしまったりするのでは?」

「あーそれなら大丈夫です。無料ガチャならそうなってしまいますが、課金すればするほどピンポイントで排出勇者を絞れます。例えば星5の勇者しか出なくしたり、イケメン金髪頭脳派マッチョしか出なくしたり、観光地で一番人気の場所はトイレだと思っている勇者など、かなり条件を絞り込めるので術の開発者である私なら課金もしないで絞り込む事が可能です」

 なるほど。確かに観光地ではトイレに行列が出来るからな……私以外の勇者が全員そう思ってしまうのも仕方がないかもしれない。実際私も22歳まではそう思っていたからな。

 そして術開発者だからこそ、その条件付けの要領で召喚時に私をすっぽんぽんにするという細工が出来た訳か。となると私とドク口の場合、死神っぽい巨乳美少女のガイコツと、何事にも見た目から入る無職童貞を友人に持つ几帳面な不審者……に条件を絞れば簡単に狙い撃ち出来る訳か。


「良かったですねドク口さん。これなら思ったより早く帰れそうじゃないですか?」

 私が100万ドルの営業スマイルを差し向けるも、ドク口は恐らくすっごい不満そうな顔で。

「今の話ちゃんと聞いてたんですかノレさん? 向こうの世界で誰かが勇者召喚ガチャをやってくれないと私達は帰れないんですよ?」

 私ではない。帰るのはお前だけだ。しっかし死神とはいえ神なのに察しが悪いな……やっぱりガイコツだから脳みそスッカラカンなんだろうコイツ?

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