邪魔
ヤマヅキが残り数体の不審者を片付けようと意識を集中させるが、その死角からスガワラのスーツの袖が入り込む。
気付いた時にはすでに間合いの内側に入り込まれていた。彼女が何か行動する間もなく、スガワラの手が彼女の顔面を掴む。思わずヤマヅキは目を見開いた。
スガワラの手から火花が散る。パリパリと激しい電気の音が耳元をかすめたかと思うと、彼女の全身に熱が走った。
ゴォンッ! という雷鳴に似た轟音が周囲を揺らす。ヤマヅキはスガワラに頭を掴まれたまま、グッタリと力を失ってしまったかのようだった。だらん、と両腕が垂れる。まともに立ってもいられないようで、スガワラの手にもたれるようなかたちで、なんとか姿勢を保っていた。
スガワラはヤマヅキを冷ややかに嘲笑うと、力いっぱいに彼女を蹴り飛ばす。うめき声を上げることもできず、そのままヤマヅキは廊下を転がってうつ伏せに横たわった。
彼女の体からは薄く煙が上がっている。まるで雷に打たれたかのように、体の節々に火傷のような傷跡が出来ていた。
「図に乗るな」
スガワラは低く唸るように言う。横たわるヤマヅキの方へ足音を立てながら歩み、彼女の元へ寄ると、そのままヤマヅキの背を足で踏みつけた。
背中に靴跡が付く。ヤマヅキ自身は気でも失っているのか、指先すらも動かさずにいた。スガワラは足に体重をかけて、虫でも踏み潰すかのようにジリジリとヤマヅキを地面へこすりつけている。
やがて彼はその場にしゃがみ込み、彼女の橙色の髪を掴み上げる。手荒にヤマヅキの顔をのぞき込むと、苦しそうに目を細め、腹立たし気に必死に呼吸する彼女の表情が伺えた。その顔を見て、スガワラは意地の悪そうに口角を上げて見せる。
「これからよく躾をし直してから、貴様を焼き殺してやる。多大なる恨みは怖いか。お前が私にしたことよりも残酷に殺してやる。殺す、殺す……? 地獄に堕ちるのか。 アハハハハ!」
腹の底からの、しかし錯乱したような笑い方だった。気の違った者の、どこか空回りした笑い方。
彼は笑ったまま、その場で手を放す。そして素早く立ち上がって、ヤマヅキの頭を片足で踏みつけた。
頭が揺れる。こめかみから圧迫され、脳の血管が切れそうだった。
眉間に皺をよせ、歯を食いしばる。苦しさに思わず目を閉じる。手に力が入らなかった。
が、彼女の肩に、何かしらが触れる感覚があった。
「ハ!」
虚空から声がする。スガワラは自らのスーツに短冊が張り付いているのに気が付いた。腹部、ちょうど脇腹に位置するところだ。
束の間、衝撃音が鳴る。見えない銃に撃たれたかのようにスガワラは腹部に痛みを感じると共に、数歩のけぞった。
「大丈夫ですか、ヤマヅキ先生!」
虚空からアベの声がする。その姿は見えないものの、アベはヤマヅキの体を必死に抱えていた。その感触が伝わってくる。
アベの声に応えようと口を開くも、ヤマヅキの意識はそこで途切れてしまった。
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