乱入
「……わかったよ、先生」
重々しい空気に耐えかねたように、ショートカットの女子生徒が口を開く。
「私たち、もうちょっとだけ頑張ってみる。でも約束してよ。絶対助けを呼んできてよ」
きっと彼女の内心では、今すぐ助けてほしいと願っているのだろう。だがそれがアベには無理だと判断して、一生懸命、大丈夫だと言い聞かせているのだ。自分にも、アベにも。
アベは涙が出そうになった。しかしそれをグッと飲みこみ、急いで教室の外へと足を向ける。生徒二人の視線が背中に突き刺さるようだった。恨みがましくも見えるその視線。後ろ髪をひかれるような思いで、アベは見殺しにするための一歩一歩を踏みしめていく。
行く手を阻むバリケードは簡単に壊れてしまった。
と、その時である。アベが扉に手をかける前に、外側から勢いよく開けられた。
ドキン、と心臓が高鳴る。女子生徒らも、悲鳴を上げる寸前だ。
「えっ!」
扉を開けて頓狂な声を出したのは、髪型が無造作に崩れ、スーツにところどころ汚れが付着したスガワラだった。
「……す、スガワラ先生?」
「ちょ、ちょっとすみません、中に入れてくれませんか」
アベが状況を理解するよりも先に、スガワラは半ば強引にアベを押しのけて教室に入ってくる。ぴしゃん、と扉を閉めて数歩進むと、スガワラは力なく膝をついた。
彼の手に持つ警棒は真ん中で直角に折れている。肩で息をし、ぜぇぜぇと辛そうな音を立てる姿を見るに、どこかで乱闘になったのだろう。
「スガ先?! ちょっと、大丈夫なの?」
その辛そうな姿に、女子生徒が駆け寄って背中をさする。白いシャツのネクタイが緩み、第一ボタンが外れかけていた。
「ど、どうしたんですか?」
「ちょっと、ハァ、化け物に遭遇して、しまって……。命辛々、逃げ……ハァッ」
口の端で言葉を漏らしながら、苦しそうにシャツを握りしめる。額から汗が垂れ、木製の床に黒い染みを作っていた。
「無理しないでよスガ先! 一回寝な? ね?」
「すみません……」
スガワラは青ざめた顔をゆがめ、ゆっくりと硬い地面へ横たわる。滅多に使われない教室の床は到底綺麗とは言えないが、今はそんなことを言っている余裕もないのだろう。仰向けになったスガワラは、先ほどよりも呼吸が落ち着いているように見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます