大量出血

 (あった! 熱傷用クリームだ。消毒処置してから塗っておけば大丈夫……)



 アベは未開封のまま置かれているクリームの容器を手に取り、すぐに他の棚を漁る。保健室の備品はところどころなくなっているものもあった。床に転がっている瓶は割れてしまっているものもある。




 彼女が薬品棚を一通り物色するも、新しい消毒液が見当たらない。床に倒れているままの消毒液は、中身がほとんど出てしまっていた。同じく床を這う白い包帯に染み付き、使えそうにない。



 結局、見つかったのは救急箱の中に入っていた小さな消毒瓶だけだった。全身の怪我を診る状況では心許ないが、それでもないよりはマシだろう。




 しかし、消毒液なんて使用用途の広い道具、何本かストックがあってもおかしくはないはずである。予備がこぼれた1本だけとは考えにくい。やはり、誰かこの部屋を荒らした人物が使用したのだろうか。







 と、アベは薬品棚の上に、何やら段ボールが積まれているのを見つけた。彼女が背伸びをしてようやく届くくらいの高さである。もしかしたら、あの段ボールの中に予備の道具などがあるかもしれない。




 つま先立ちをし、ふらつきながら段ボールへと手を伸ばす。埃っぽくざらついた表面である。もう少しで引っ張りだせそうだ。指先に力を込めたそのとき、バランスを崩して数歩よろけた。





 ガシャン、と物音が立つ。アベはヒヤリとして足元を見ると、自身の足がゴミ箱を倒していた。思わず外の方を見る。幸いにも、不審者の集団に気づかれた様子はなかった。連中は今も追ってきているのだろうか。




 静かに溜息をつきながら、自らの足元を見る。黒く、蓋のついたゴミ箱である。中の袋も黒色であった。倒れたゴミ箱は蓋が開き、その中身が少し出てしまっている。元の位置に戻そうとかがんだそのとき、異臭がした。





(なにこれ……)





 アベは息をのむ。ゴミ箱を起こすと、さらにその中身が出てきた。大量のガーゼだ。しかもそれらにはことごとく赤黒いシミがついている。おそらくは血液。恐る恐るゴミ箱の中を覗き見ると、まだ大量の汚れたガーゼが入っていた。これだけの大量の血液は尋常じゃない。





 さらに、その奥の方には新聞紙に包まれた状態で何かが入っている。アベはすぐに医療用手袋を手にはめて、新聞紙をつかみ取った。中から金属同士がぶつかる音がする。





 寝ているヤマヅキの方を気にしながら、何か後ろめたいものでも見るかのように新聞紙を開く。中は、金属の医療用器具だった。針が折られた注射器まで入っている。ドラマの手術シーンで見るような銀色の道具がいくつかあり、いずれも血痕が付いている。



(この保健室を荒らした人は、ここで一体何をしたの? こんな大怪我に大量出血、病院に行かないと助からないんじゃ……)




 アベは嫌な想像をして、すぐに首を振った。今は一刻も早くヤマヅキを治療しなくてはならない。

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