多勢に無勢
時は進み、ヤマヅキは壁に体を打ち付けられていた。
背中が痛み、先ほど警棒が当たった部分を中心にジワジワと痛みが広がっていく。何とか受け身を取ることに成功したのが幸いであった。打ち身をしただけであり、骨には傷が至っていないようである。
そして、喉と内臓が焼けただれている。地獄の刑罰を使うとこうなる定めだった。閻魔は人を裁いた数だけ溶けた銅を飲むことになっている。その掟は、裁いた者が変わっても例外はなかった。
(牛頭馬頭を使ってもこの有様か。何にしても、この数にいちいち刑罰を下していたらこの体がもたない。……)
彼女は自らの手を見下ろす。かつてはそこに、この倍の数の罪人すらも圧倒できるほどの力があった。空白の手のひらを睨み、その手で左頬の傷を撫でる。
敵はそう悠長にしないはず。そう読んだ彼女は、背中の痛みも残ったまま、前のめりに足を踏み込む。すぐに立ち上がる姿勢を取り、そして勢いよく地面を蹴り上げる。
(まずは雑魚からだ!)
先頭に立つスガワラを無視し、集まってきた不審者の一人を殴り飛ばす。宙を舞う黒づくめの体を横目に、素早く二人目へと狙いを変えた。身長が小さく軽そうな体。
彼女は二人目の足をサッと払い、バランスを崩したところで黒い服の襟元を荒く掴む。そして背後から迫っている別の不審者へ向けて、二人目を投げ飛ばした。
目まぐるしく不審者の集団がヤマヅキ一人に向かって襲い掛かる。しかし彼女はその一つ一つを利用しながらいなし、その圧倒的な数の差すらも感じさせないほどの力で対抗していた。
一体、また一体と不審者が倒れていく。中にはしぶとく何度も立ち上がる輩もいたが、彼女にとってはさほど脅威にもならず、軽くいなされていた。
次第に不審者たちに見境がなくなってくる。自らの正体を堂々と明かし、その術をあからさまに使用するようになってきた。
体を自在に変える者、姿をくらます者など、その特性は様々である。が、その術は鎌鼬のそれよりも殺傷能力が低い。何度か地獄の刑罰を下し、溶けた銅に喉元を焼かれながら、残り数体になるまで片付ける。その時間は、数分と満たなかった。
だが、これをスガワラが黙って見ているわけがない。
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