CP室

 アベは一人で視聴覚室を出た。



 音声を聞いた後、ヤマヅキは何かに吸い寄せられるかのようにもう一度同じCDを流しはじめたのである。前半部分は早送りにし、後半の部分のみを集中的に聞いている。



 アベが何度も声をかけたが、彼女は黙ってCDを繰り返し聞いていた。もはや何を言っても無駄だと判断した彼女は、一人で隣の教室を調べようとしていたのである。





 視聴覚室の隣はCP室となっている。ここは視聴覚室とは違い、よく生徒たちが出入りする。情報の授業などで使用しているほか、文化部の生徒がよくコピー機などを利用するために入ることが多々あった。





 扉を開けると、そこは普段通りの教室だった。黒板ではなくホワイトボードが設置されており、床の隅ではパソコンのコードが這っていた。



 慎重に足を踏み入れるが、視聴覚室の時とは違い、明らかな違和感はない。





(それにしても、どうして人の寄り付かない視聴覚室に、わざわざCDプレーヤーなんて置いてあったんだろう。こんな騒動のなか、あんな意味不明な……。)






 アベは考えながら一つずつパソコンの画面を見ていく。いずれも電源が落とされており、真っ暗な状態になっていた。




(あれって、明らかにホノダ先生の声だよね。最初聞いた時はハッキリと分からなかったけど、あれは確実にホノダ先生だ。あんな風に喋ることがあったんだ。誰と電話していたんだろう。というか……)





 黒炎、という言葉に、アベは立ち止まる。



 先ほどの父親からの手紙を思い返した。「例の黒い炎」という父親の発言と、一致しそうである。黒い炎、黒炎……。





 アベはその言葉をどこかで聞いたことがあるはずである。しかしそれがどこだったのか、鮮明に思い出せずにいた。





「アベ先生」



 ふと、CP室の入り口にヤマヅキが立っているのが見えた。その表情はこわばっているものの、先ほどのような殺意にも似た威圧感はない。




「ヤマヅキ先生。もういいんですか」



「はい。それよりも生徒を探さなくては。……ああ、それと」




 アベがヤマヅキの方へ歩いていくと、彼女はアベの方を重く見据えながらつぶやくように言った。




「スガワラ……先生のことも、見かけたら教えてください」



「え、っと、どうしてですか?」



「用がありますので。聞きたいこともあります」




 いいですね、とヤマヅキはアベの目を見て念を押す。アベには何の用があるか見当もつかなかったが、それとなく「わかりました」と応えた。


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