助け船
アベが次の手を考えている間も、絶え間なく攻撃は続く。短冊はもうすでに消えかけていた。もう一欠片になり、不意に小さな雷の針が、彼女の手をはじく。
「あつっ……!」
アベが痛みに目を細めたそのとき、視界の端を何かが掠めていった。
慌てて何かに視点を移す。それは、無造作に折られた紙飛行機だった。一瞬の、しかも雷の弾ける光のなかだったが、彼女にはすぐにあの紙飛行機だと察しがつい
た。紙飛行機は真っすぐに飛び、スガワラの方へと照準を合わせている。
紙の折り目の隙間から、「鶴」と書かれているのが覗き見えた。
紙飛行機と雷がぶつかると、そこから、まるで化学反応のようにカァッとした強い閃光が溢れ出る。目もくらみそうな鋭い光である。その光が形を変え、大きな鶴の姿へと変わった。
白い光の鶴は大きく翼を広げ、アベとヤマヅキを庇うようだった。すると鶴は、キィン、と空間を切り裂くような声を一つ上げる。
声は大きく、しかし素早く響き渡った。廊下の端から端まで、それどころかこの学校一帯まで届きそうなほどの甲高い声である。辺りは一瞬にして静まり、雷が鳴りを潜める。
(今だ……)
アベは鶴の後ろ姿を複雑な表情で見つめながら、すぐに新しい短冊に「透」と筆を滑らせる。それをヤマヅキの額に張り付け、透明になった彼女をアベが素早く背負った。見えないながらも、ヤマヅキの胴体が自らの背中で安定したことを感覚で知ると共に、一気に廊下を駆け抜ける。
振り返らなかった。そんな暇もなかったし、振り返りたくはなかった。あの白い光の鶴は、父親の術のなかで最も強いものだ。アベ一族に代々伝わるというその術を、彼女はまだ使えない。
幸いにも、上手く撒くことが出来たようである。スガワラの気配はもうすでに遠く、左目の痛みも走る距離が増すごとに引いて行った。
左目が開くようになったころ、一直線に向かってたどり着いたのは、保健室と書かれた扉の前である。
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