探り合い
アベの施術は手慣れているものであり、その間はヤマヅキが目を覚ますことはなかった。
相当深い眠りについているのか、傷口をガーゼで消毒しても、少々手荒に触診をしても、彼女はうめき声一つとしてあげることはない。
しかし妙なことが一つだけあった。先ほどアベが服の中を確認したときよりも、彼女の傷の数が減っていたのである。
間近にまじまじと観察していても、彼女が人間ではないという事実が飲み込み切れない。アベは目の前に横たわるヤマヅキの顔をよく見る。
頬の罰点の傷は古いものだったが、それでもかなり深そうだった。傷の交差するところは変色し、治る気配もない。大きくただれ、左頬にべったりと張り付いているようだった。
(でも、この人が炎虎なんて……。陰陽師だと言っていたのは嘘だったの?)
あの父親の差し金だと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。そのことに少し安堵したが、ともすると、あの父親はどこからアベの様子をうかがっていたのかが分からない。
彼女は腹の底が冷えるのを感じた。今もどこかから見られているのかと思うと、落ち着くこともできない。もしや父は、とっくの昔にヤマヅキの正体を見破っていて、それに気づかないアベのことを笑っていたのでは……。
そんなことを考えていると、ふとヤマヅキの閉じられていた瞼が音もなく開いた。
「ぁ、ヤマヅキ先生……」
「そんなに見られたら穴が開きます」
ヤマヅキは視線を天井に向けたまま、呟くようにして言った。いつの間にか、彼女の顔を凝視し続けていたのだと気づくと、アベは咄嗟に視線を下に向ける。
「すみません、起こすつもりじゃなかったんですけど」
「いえ、こんなときにのんびりと寝ていられるほど私も鈍くありませんよ」
と、ヤマヅキは天井に向けていた視線をアベの方へと移す。目玉だけがぎょろりと動き、アベはその目の鋭さに胸の辺りが熱くなるのを感じた。
「ちょうどいい機会です。こうして貴方と二人きりになれたわけですし。けりをつけましょう」
「え、と……けり?」
「貴方、スガワラに人間を引き渡したな」
アベの脳裏に、あの女子生徒二名の顔が浮かぶ。ハッと息を呑み、口元に手を当てる。
「そうだ。早く、助けに行かなきゃ……」
「それはもういい。私が知りたいのは、貴方の目的だ」
眉をひそめるアベの顔など見えていないかのように、痛いほどに直接的に、脅すような声で言った。
「お前は黒炎をどうするつもりだ」
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