謎の血痕

 二階は二年生のクラス用の教室のほか、理科室と被服室が設けられている。


 理科室の向かい側に設置された、一回り大きな教室がそれである。家庭科の授業でも滅多に使われないような部屋であるが、偶然ながら、鍵は閉まっていなかった。


 素早く扉を開けると、中は電気が付いたままになっていた。



「ここって、どこか授業で使ってました?」



 アベが隣で黙っているヤマヅキに尋ねる。しかし彼女はぼうっとしたように呆然としており、アベの声も聞こえていないようだった。


「……あの、ヤマヅキ先生?」


「何ですか」



 一瞬、ハッとしたように目を見開いたのを、アベは見逃さなかった。珍しいな、と思いながら、アベは先ほどの質問を繰り返す。


 ヤマヅキは数秒間考えた後、眉間に皺を寄せながら、静かに首を振った。



「じゃあ、ここにも誰かが……」


「そうなります」



 彼女たちは教室内を見回す。


 被服室というだけあり、室内は布と糸のにおいが漂っていた。壁際の棚に、所せましとミシンが並べられている。開けっ放しになっている引き出しには、様々な柄をしたハギレと、針が大量に刺さった針山が入っている。


 生徒用に設けられた広い机の上にもミシンが設置されていた。糸がすでにセットされた状態のものである。複数人で一つとして扱うようであった。


 ふと、ヤマヅキは一台のミシンに駆け寄る。しばらくまじまじと見つめてから、アベに手招きをした。



「どうしました?」


「ここ、見てください」



 アベもヤマヅキと同じ視点に立ち、指をさされた部分を見る。


 糸がすでに入った状態の針だった。


 しかし、その先端には、べっとりとした粘性のある黒い液体が付着していた。アベは目を見開く。



「えっ……これって」


「明らかに血液ですね。随分新しい」



 冷静に分析するヤマヅキだが、対してアベの頭上には疑問符が立ち並んでいた。


「でも、なんで? まさか不審者が、わざわざミシンを使ったということでもないでしょうし」


「疑問ですね」


 ヤマヅキはそう言いながら、横目でアベの表情をよく観察している。その視線に気づいたアベがヤマヅキの方を見ると、素早くヤマヅキは視線をそらした。


「ともかく、今は生徒の救出に専念しましょう」


「そうですね……?」


 ヤマヅキは誤魔化すように、足早に被服室を出ていった。

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