9.鬼

鬼※1

 白く冴え冴えと輝く月光の下。

 カンカンと運命の鐘を鳴らすような音がして、二人の人影が姿を現す。

 烏丸からすまと、それに寄り添うようにして立っている井頭いがしら朝日あさひに俺は目を向ける。


「朝日さん。わざわざお越しいただいてすみません」

「いえ……」


 朝日はおどおどとこちらを見ている。


「簡潔にお聞きします。犬神の事件の時、貴方に接触してきたのはこの人ですよね」


 この人、のところで俺は美鳥みどりはるを指差す。

 晴は目を細めた。

 面白くなさそうな表情だ。

 この展開は予想していなかったか。


「……はい。西園寺さいおんじさんへの、依頼の方法を小夜さよに教えました」


 その言葉だけで十分だ。


「この事件の裏側には常に貴方の姿があった」


 晴を見据えて俺は言う。


「犬神の事件では西園寺さんへの依頼方法を教えて、叶音学園の事件では赤コートの人物として学園に現れひいらぎ夢路ゆめじと繋がり、ヨブメの事件では壊滅間近の集落に西園寺さんを送りこみ、今回の事件では協力者であるはずの柊夢路を殺して西園寺さんを手にかけようとした」


 俺は一気にまくしたて緊張に手汗をかきながらも、晴を睨むように見据える。


「貴方は、何がしたいんですか?」


 俺の話を晴は黙って聞き、終わった途端瞬きよりも早く銃を取り出す。


「……言いたいことはそれだけかな?」


 銃口を向けた先は。

 俺ではなく、井頭朝日だった。


「やめろ!」


 俺が駆け出そうとした途端。

 パチン、と音が鳴った。

 あたりが純白に包まれる。

 目も眩むほど非現実に空間が歪む。

 カツカツと足音が響く。


「証人に死なれては困るんでね。少々芝居をうたせてもらったよ」


 ザァッと桜吹雪が舞うように、井頭朝日の姿が散り散りになる。


「古典にもあるように、鬼は成り代わりが得意なんだ」


 白い髪がなびき、黒のコートが翻る。

 美しい鬼。

 西園寺さいおんじ君明きみあきが、立っている。


 知らなかったかい?というように嘲笑した。


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