実※4
「ここが用務員の
そこは裏山の中でも校舎にほど近い場所だった。
「なんか変じゃないですか?」
その場所に実際立ってみると俺は違和感があった。
「例えばどこが?」
「だってここじゃ校舎からも丸見えです。わざわざ首を吊るのにこんな場所を選ばなくても……」
「まるで誰かに見てほしいと言わんばかりだね」
西園寺が俺の言葉を引き継いでくれる。
「その発想はなかったです!」
メモメモ、と
自分の考えを書くのは勝手だからか最早西園寺も何も言わなかった。
俺も俺なりに現場を見てみる。
ロープはとっくに外してあって、ぶら下がっていただろう場所が擦れて樹皮がはがれている以外に気づいたことは何もなかった。
さほど高い位置ではない。
成人男性ほどの身長なら椅子にでも乗って蹴り倒せば容易にロープに体重がかかるだろう。
西園寺が聞く。
「ロープに首をかける際、身体を支えるようなものは?」
「
つまり、ここで首を吊ったのは作業中の事故ではなく誰かにやられたか自分でやったということになるのだろうか。
「なぜ自殺ではないと?」
「宝くじですよ」
「宝くじ?」
俺は首を傾げる。
「用務員のポケットには翌日に当選発表の宝くじが入っていたんです。普通死のうとする人間がそんなもの買ってポケットにしまっておくと思いますか」
挑戦的な目つきで益子少年は見てきた。
言われてみればそうだ。
「大体のところは見終わりましたね。お次は中庭に行きますか」
大した手がかりは得てないけれど特に何も見つからなかったのだから仕方ない。
「そういえば」
なんでもないことのように西園寺は言う。
「警察には通報していないのかい?」
「ええ。していませんよ」
サラッと益子少年は答える。
「え?」
時々感じる違和感の正体はこれか。
規制線の張りも甘いし、捜査した後がない。
あたりに警察官が見当たらないのも変だと思った。
「なんでも学園のトップが全力で揉み消そうとしているみたいだという噂が立っています」
「なんでまた……」
「ここは私立学園なんですよ?
笑むように目を細めた。
「民間の学校なんです。死人が出たと言ってそんな危険な学園に入れたくないという人がいたら困るじゃあないですか」
そんな問題ではないだろう。
「ここだけの話ですけど立花先輩は理事の娘ですしね。
「でももう新聞に載っているんじゃ……」
俺はハッとする。
西園寺の言葉を思い出した。
記事が出た時点では自殺未遂事件だったのだ。
ようやく気づいたのかという表情で西園寺は言った。
「自殺と殺人じゃ話が変わってくるだろ」
「でもそれじゃ犯人が見つからなかったら……」
「見つけるんですよ」
益子少年は断固とした口調で言った。
言葉に反して顔は貼りついたような笑みだ。
「そのために貴方は呼ばれたんですから」
西園寺を見て言う。
「見つかったその後はどうするのか、と聞きたいところだけどそれこそ
やれやれという顔をする。
「まあ僕たちが請け負ったのは犯人をみつけることだ。その後は煮るなり焼くなり好きにすればいい」
「……話がお分かりになるようですね。さすがの推薦だ」
俺は背筋が寒くなった。
「……ちょっと失礼していいですか?」
小声で言う。
「どうしたんです」
「ええっとお手洗いをかりたくて……」
「ああそうですか。ここから一番近いのは食堂の棟ですね。ご一緒しましょうか?」
「いえ、自分で行けますのでお構いなく」
そそくさと歩いて行く。
西園寺は特に何も言わなかった。
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