実※5
トイレの個室に入ると俺は頭を抱えた。
ヤバい。さすがにヤバいよな。
いや、今の今まで危なくなかったことなどないのだが。
今回はさすがにちょっとでも失敗したら物理的に揉み消されるような気がする。
本当に腹が痛くなってきた。
しばらくしてトイレから出るが外には人がいない。
この時間は授業中で生徒は教室にいるのだろう。
卒業してからそれこそだいぶ時間が経っているのでこの感覚忘れていたなと思う。がらんとした校舎は内でも外でもそれこそ何かが出そうで。
「そういえば小さい頃ってそういう話好きな子多かったな……」
「お兄さん、失礼」
「はい?」
思わず高い声が出てしまった。
突然背後から声をかけないでほしい。
というか誰だ。
そこには黒スーツ姿の男の人が立っていた。筋肉質で髪は短く刈ってあり、スラリとした背をしている。
教師というよりはスポーツマン風のサラリーマンに見えた。
「大学生さんかな?」
あれ?
その聞き方は変だなと思った。
学校の人じゃないのか?
「そこの図書館から出てきたから」
「あーまあそのようなものです……」
俺は二十四歳なのでまあ大学生に見られることがあってもおかしくはない……だろう。
「あ、俺こういうものです」
男性はスーツの懐から何か取り出す。
警察手帳。
ドラマとかでよく見かけるあれだ。
「
「……はい」
俺はビクビクしながら頷いた。
警察官と話す時ってなぜ緊張するんだろうか。
自分が何も悪いことをしてなくても。
いや、そもそも悪いことをしてない人なんているのか?
でも俺は手が後ろに回るほど悪いことはしていない……はず。
「話ってなんですか……?」
おずおずと俺は聞く。
「いやね、最近この学校で首吊り事件があったらしいんだけど何か知らないかなと思って」
ですよね。
「さ、さあ……?俺は話聞きませんね……。こっちあんまり来ないので……」
叶音学園は小中高等部があり、さらにその上には大学がある。
エスカレーター式で羨ましいことだ。
それはともかく、確か付属の大学は離れた場所にあったはず……。
しらばっくれても問題はないだろう。
「そうか。いやー、いきなり声かけて悪かったね」
え?終わり?
意外とあっさりしているんだなと思いながらいえいえと首を振る。
「お役に立てなくてすみません」
「あともう一ついいか、お兄さん。ええっと……」
「
思わず本名を名乗ってしまったがここで名乗らないのも変なので正直に答えておく。
「日暮さん。妙なことを聞くようでなんなんだが……白髪の男を見なかったか?」
「え」
「背は日暮さんより少し低いくらいで、髪は肩にかかる白髪。見た目は……君と同じくらいの歳だ」
それはもしかしなくても。
「あと、おそらく黒のコートを着ている」
確信に変わった。
この人西園寺さんのことを知っているのか?
探している?
でも、何故?
考えて、俺は答えた。
「いや、見てないですね。そんな目立つ人」
一拍おいて美鳥は笑う。
「だよなー!」
笑い顔のまま言う。
「一目見たら忘れないよな。時間をとらせて悪かった」
「いえ。お仕事頑張ってください」
「ああ」
去り際に言った。
「もし見かけたら教えてくれよ」
その声は笑ってない気がして。
俺は頷くと足早にその場を去った。
こわっ。
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