エピローグ
エピローグあるいは遠景
何故、助手として置いたのか。
答えは最初から明示されていた。
あの日、目があった時から。
桜が咲いた春の日。
黒い夜のようなコートを着た美しいものに出会った。
白い髪が風になびく。
綺麗だ。
人とは思えない。
蓋をしていた気持ちが開いて、呼吸さえ忘れる。
実際はどうなんだろう。どうでもいい。
呼ぶ声が聞こえる。
児童館の先生だろうか。
夢の景色のようで。
失ってしまうなら。
罰を受けても構わない。
鬼が。
美しい鬼が目の前にいる。
赤い靄が視える。
「こっちへ来て」
手を引く。
暖かな風の中で誰かが呼んでいる。
知り合いの死に目をみせたくないと思ったのか。
危険な目にあってほしくないと思ったのか。
わからない。
でも、その手を離したくなかった。
怪訝そうに金色の瞳が細まる。
「なぜいきなり手を引いたんだ?」
「あなたを助けたいから」
「なぜ僕を助けるんだい?」
「あなたに、死んでほしくないから」
桜が舞い、世界を白く染める。
生きていてほしい。そう望んだから。
『死んでほしくないからに決まっているじゃないですか』
だから、いくらでもあなたの手を引こう。
それは長い春の話。
人と鬼の出会い。
ただそれだけの物語。
異人見聞録 錦木 @book2017
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