呼※2

「それにしても二人とも物好きだねー。こんな山奥に来るなんて」


 そう言って烏丸からすまはへらりと笑う。


「……よく言う。山育ちのお前には慣れたものだろ」


 西園寺さいおんじがそう言うのでそうなのか、と俺は思う。


「ちなみに烏丸さんって……その……人間なんですか?」


 疑問に思ってたことをこの際聞いてみる。


「あは」


 ニヤリと目を細めて烏丸が笑った。


「どうだと思う?」

「こいつはからす天狗てんぐだよ」


 間髪をいれず西園寺が言う。


「え?」

「西園寺さんー。ネタバレはナシでしょ」


 きょうめしたというように烏丸は面白くなさそうな顔をする。


「天狗、ですか?」


 背中に翼のようなものは見えない。 


「そそ。人間に寄せて過ごしているからぱっと見じゃわからないでしょ」


 烏丸は軽く言う。

 確かに言われるまで全くわからなかった。


「なんで眼帯しているんですか?」

「ズバズバ聞くね、助手くん。まあ、そういうの嫌いじゃないけど」


 眼帯に手を当ててくるりと後ろを向く。

 前を見て運転してください。


「賭け事が好きでして。この目も負けた時に取られたんでね」


 ニヤリと笑う。


「そうだ」


 唐突に面白がる口調で西園寺に言う。


「西園寺さん。前からあんたと賭け事してみたいと思ってたんだよね。どうせだから今やってみない?寿命……そうだね十年を賭けて俺と勝負しない?」

「冗談ですよね?」


 俺は戸惑った声で言う。


「……そうだね」


 顎に手を当てて思案をはじめた西園寺をみて俺は顔の前で手を振る。


「いやいやいや、やめましょう」


 ただでさえ最近体調が悪そうなのに何を言い出すんだ。


「……もし、僕が勝ったら?」

「そおだねー。何でもお願いを一つ聞くっていうのはどう?」

「何でも、ね。高くつくよ」


 うっすらと西園寺は笑った。


「命でも賭けるかい?」

「いやー、それは対価としては高すぎでしょ。平等に十年ぶんくらいならいいけど」


 よくない。


「……いいだろう」


 頷いて西園寺は言う。


「その勝負のった」

「そう来なくちゃ」


 この二人はなんなんだ。

 体を張ってでも止めるべきなのかもしれないが、二人とも言い出したからには聞かなさそうだ。


「あっ、ここみたい。二人とも降りた降りた」 


 そんなこんなで目的地にもう着いてしまったようだ。



 俺が荷物を持ってあたりを見渡していると、西園寺と烏丸は車の横で何かを話しているようだった。


「西園寺さん?」


 俺がそう言うと、西園寺はこちらに歩いてきた。

 話は終わったようだ。


「じゃ、二人とも頑張ってねー」


 軽く言うとエンジンをかけて烏丸はさっさと走り去ってしまった。

 車が遠くなっていく。


「行こうか」


 西園寺は歩きはじめた。

 目的地は探すまでもなくわかった。

 というのも入り口にでかでかとのぼりが立っているのだ。

 ヨブメ様とか信じる心が大切とか……見た目からして派手で見るからに胡散臭い。

 看板が立っていた。

『らいむ村』

 村の名前のようだ。

 はて、と首を傾げる。

 果物のことかと思ったが、こんな所でライムが取れるわけないよな。


「なんだろうなこれ……?」


 チラリと見るだけで西園寺は特に何も言わない。

 つかつかと敷地の門の前に歩いて行った。


「止まれ」


 ガタイのいい男二人が通せんぼうをしている。

 見た目だけ見るとヤクザのようだ。

 俺は萎縮いしゅくするが西園寺は飄々ひょうひょうとしたものだ。


「通してもらえるかな?」

「お前はどこからきた?」

「ヨブメ様の信者か?」


 なんだかピリピリしているなと思った。

 西園寺は細いし荒事をするタイプではないのでここは俺が前に出るべきか。


「用があるんです。通してもらえますか」


 俺からも頼んでみる。

 なるべく声が震えないようにしたが、迫力はぜろだろう。


「なんだお前?」


 ますます門番が不機嫌そうな顔をする。

 まるっきり怪しいやつを見る目つきだ。

 こんなことじゃらちがあかない。

 そう思っていると奥から声がした。


「通してさしあげなさい」


 髪をぴっしりと七三に分けて、黒縁眼鏡、黒スーツを着た男が笑顔で俺たちを見ている。


「入信希望の方ですね?歓迎しますよ」


 西園寺のほうをチラリと見る。


「どうかな。僕は超能力とやらには懐疑的でね。ヨブメ様を見て入信するか決めるよ」


 挑発するような物言いにその場が緊張する。


「いいでしょう」


 黒スーツの男が頷いた。


「きっと入信したくなると思いますよ。ちょうどこれから集会です。見学なさってください」


 門が開けられた。

 大丈夫だろうか。

 ここから生きて出られないとかいうことになったりしないよな。

 躊躇ちゅうちょするが、西園寺はさっさと入って行く。

 黒スーツの男が門番に耳打ちするのが見えた。


「……目を離すな」


 唇がそう動いた気がする。嫌な予感すぎる。

 その時、俺はガクンと膝をついた。

 一瞬、頭が真っ赤に染まる。

 ハッとすぐ我に返った。

 西園寺が片腕を引っ張っている。


「どうかしましたか?」


 黒スーツの男が聞いてきた。


「ここまで来るとき車に酔ったとか言っていてね。立ちくらみだと思うから気にしなくていい」


 西園寺がよくわからない弁解をしている。

 僕のほうをチラリと見た。


「……いま何を言ったのか、自覚がないのかい?」

「……俺、何か言いました?」


 まだ頭が少しぼんやりとして、困惑する。


「こう言った」


 西園寺が小声で俺の言ったことを復唱する。



「『三日後、この村の人間は全員死ぬ』」




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