実※7
もちろん聞いていない。
わけのわからないまま
益子少年は自宅通いではなく寮生らしく雑用があるので今日のところは帰るといって寮へ向かった。
「どうぞゆっくりしていってくださいね」
そんなことを言われたが。
「ゆっくりって……」
宿直室は七畳くらいの和室だった。
今どき学校で畳の部屋があるって歴史を感じるなあと思う。
壁は日焼けし、床にはなにかをこぼしたであろう染みもあるし生活感がある。
現在はセキュリティシステムが充実していて寮監督の先生が見回りするので泊まりがけの宿直をする人はおらず、部屋としては使っていないそうだ。
しかし、冷暖房完備でそれなりに綺麗にしてあるしお茶が飲めるように湯呑みとポットもある。湯を注いですぐ飲めるティーバッグも置いていてくれているようだ。
呑気にお茶を飲んでいる気分にはなれないけれど、これだけの部屋なら十分に生活できそうだと思ってしまうのは貧乏の
それにしても。
二人目が自殺未遂をしたという問題の中庭が窓の外、すぐ目の前にあるんだが。
窓に近づいて外の様子を伺うが、特に異常は見られない。
この時間はもう街に行くバスは終わっているということを教えられた。
つまり、誰も帰れないし学園の近隣にはコンビニすらないので買い物にも行けない。
「これを使えば帰れるんだろうけど……」
俺は手首の鈴を見る。
西園寺が屋敷にいないことには作用しないだろう。たぶん。
夕飯は食堂で簡単に済ませた。どれだけ集中しているのかその間も西園寺は帰ってこなかった。
とりあえずシャワーにでも行くかと俺は部屋を出ることにした。先ほど共用のシャワー室を教えてもらったのだ。
一日くらい控えてもいいだろうが裏山にのぼった際に汗をかいてしまった。少し流したほうがサッパリするだろう。
財布はズボンのポケットに入れてあるし、特に貴重品もないのでそのまま部屋を出る。
出入り口には鍵がついていなかった。
不用心だなと思う。
シャワーを終えるとそのまま畳の上に大の字になって寝転んだ。
なんだか宿泊学習みたいだ。
泊まっている場所は学校だけれど。
気を張って疲れていたからかついうとうとしてしまう。
教会のような講堂。
校舎に囲まれた道。
夜のように暗い裏山。
さまざまな場面が目蓋の裏に浮かぶ。
木からロープが垂れている。
風に揺れて。
ぎい、ぎいと重いものがぶら下がる音が……。
次の瞬間、ぶつりと風景が消える。
蹴り起こされた。
気づいたらうたた寝していたようだ。
呆れ顔の西園寺が目の前に立っている。
「昼間いろいろ言っていたくせに事件のあった場所で眠れるなんてずいぶん図太い……、馬鹿なのかな」
言い直さないでほしかった。
「あの……。西園寺さんいつ戻ってきて」
「ここを事件現場にしてほしいのかい?」
「すみません、起きます!」
もう一度足を振り上げた西園寺に俺は言う。
というかこの人またしても靴を脱いでいないんだが。
「図書館で何かいい資料はありましたか?」
思わず媚びるような口調になってしまったが、西園寺は無表情に返す。
「……そうだね」
何か気にかかることがあったのだろうか。
無駄に話すことがないので俺に口を挟むことはできないが。
「少し確かめたいことがあるから行ってくるよ」
「また図書館ですか?」
「いや。今度は講堂だ」
講堂?なぜ?
というかなぜ西園寺はわざわざ真っ直ぐに行かずに宿直室にやってきたんだ?
もしかして、俺の様子を見にきてくれたんだろうか。
「あの、西園寺さん」
「寝たいなら寝ていていいよ。好きなだけね」
口調が静かなだけに逆に冷や汗をかく。
「俺もついていきます」
「へえ、なぜ?」
ひょっとしなくても俺だけ休んでいたことに苛ついているんだろうか。
「……一応、あなたの助手なので」
「ふうん」
気のない返事で西園寺は振り返りもしない。
「じゃあ夜の散歩と洒落こもうか」
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