8.罰

罰※1

 それはあの日手を離した罰なのだ。


 高熱が出ていて俺は寝こんでいた。

 数日前から学校を休んでいて、布団からなかなか起き出せなかった。

 そんな時、急に連絡が入って遠縁の親戚のために父と母が一緒に葬式に行くことになった。

 人手が足りず手伝いをしなければならないらしい。

 一日とはいえ一人で俺を家に残していくことに躊躇ためらった二人だったが、俺は強がって言った。

 俺は大丈夫だから気にしないで行ってきていいよ、と。

 手を握って母は言った。


「すぐ帰ってくるからね」


 冷たい手だった。

 二人の姿が遠ざかっていって、俺は再び眠りについた。



 今よりまだ小さい頃の夢を見た。

 右に母左に父。

 その真ん中が俺の定位置だった。

 三人で並んでよく公園に散歩に行った。

 遊具で遊んでへとへとになった後に夕暮れの道を歩く。

 今日の晩御飯は何にしようかとか明日の天気の話とかをして。

 それだけでただ幸せだった。



 俺が寝ている間に大きな地震が起きた。

 這い出してテレビをつけることも出来なかった次の日、父と母が亡くなったことを知った。



 数日後、父と母の遺体を見に行った。

 酷い遺体の損壊で、その時は二人の体の一部である腕しか見つからなかった。

 母の左手と父の右手が握り合っていた。

 見慣れた母の左手の薬指には指輪がついていた。

 それは非現実的で。

 俺は泣くことさえ出来なかった。


 大切にしたいものが手をすり抜けていく。

 また同じことを繰り返すのか。


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