第36話 現代商売その6:動画収益化_チャンネル名・コンテンツ内容整理

 それからの話を少しだけしようと思う。


 迷宮から帰ってきてしばらく。

 俺たちはまず溜まりに溜まった動画のネタ、稼いだ撮れ高をどんどん投稿することにした。

 はっきり言うと、動画の編集をゾーヤやパルカに任せるのは厳しかった。不要なシーンのカットぐらいはできるが、エフェクトを付けたり字幕を付けるのは流石に難しく、音調整、サムネ作成なども含めると俺が手掛けないといけない仕事は多かった。

 幸いなことに、動画の不要部分をカットしていく操作や色味を調整する操作ぐらいは丸投げできたので、俺も随分楽をさせてもらえた。

 VirtualTube用、ペコペコ動画用、TicToc用、Insightam用、とそれぞれ種類を分けてどんどん作り上げていく。


(うーん、久々に投稿したおかげかコメント欄のみんなが心配してくれてるな。更新待ってたとかいつもありがとうございますとか、そういう前向きなコメントが嬉しいな)


 VirtualTube等の各動画サイトのアルゴリズムにおいては、コメント数はエンゲージメントとして計算される。コメントの数が多ければ多いほど検索上位に表示されるのだ。だがそんなことは関係なく、コメントがあるというのはそれだけで嬉しいことだった。

 こういった視聴者のコメントは結構次の動画作りの参考になる。何を求めているかという観点ももちろんだが、攻撃的・批判的なコメントについても『何にわざわざ突っかかっているのか』というネガティブな情報を吸い出す意味で有効である。無論、ヘイトスピーチや人権侵害などに繋がりそうなコメントは放置できないので早めに通報して処理することになるが。


 ともあれ、動画作りは視聴者との対話に近い。

 試行錯誤しながらも作り続けたら、それを欲する視聴者がどんどんやってくる。




 俺の動画チャンネルはついに登録者1000名を超えたため、VirtualTuberパートナーシップに登録することができた。視聴者層をどんどん耕すことに成功したのだ。


 頻繁に裸エプロンを着せているせいで、なんとなく視聴者層は男性がやや多めになっているものの、こう見えて女性からも根強い人気があった。

 理由は「みんな可愛い」から。

 可愛い女の子が本気で亜人コスプレをして、しいたけ栽培やらキャンドル作りやら色んなことに挑戦する、というコンセプトで楽しんでもらえているようである。なのでコメント欄も必然とコスプレ関係の指摘がちらほら出てきており「このエクステどこで手に入ったんだろう?」「まつ毛すごく長いですね!」「パルカちゃんのネイル超可愛い」とかそういうコメントも目立つようになった。


(コンセプト作りに成功したな……。チャンネル名をちょっと変えて、『貧乏アイドル五人組が、亜人コスプレしながらあれこれ必死にお金稼ぎする』という形でプロデュースした結果、凄く視聴者が増えた)


 そう。

 俺はちょっとした工夫として、チャンネル名を変えたのだ。


 ■チャンネル名:けもっ娘ch → けもっ娘の黄金生活ch!


 と。

 やっていることはちょっと昔のバラエティ番組のようなものだ。アイドルたちに過酷なミッションを与えて、必死にお金を稼がせたり、必死に再生数を稼がせたりするというもの。

 ネタの方向性はノリで決まる。

 例えば『一か月間の生活費を一定金額内になるよう節約してもらう』でもいいし『蝋燭を作って10万円稼げ』でもいい。


 もちろん罰ゲームも用意しており、それがまたガチの罰にしている。


 牛乳を口に含んでもらいくすぐり続ける(吹き出したら時間追加)、とか、Amazing Web Serviceを使って天気予報を毎日決まったメールアドレスに送る等のサーバレスで実装できる定期処理(lambda)を一つ作ってもらう、とか。


 前者はバラエティタレントよろしく、キャラを愛してもらうという意味で非常に有効だった。

 後者はガチ罰だがニッチな層に受けた。AWS勉強したかったんです、というファンに熱烈に愛されたし、AWSでlambda使いたかったらこのブログのやりかたで実装するといいよ等のアドバイスもたくさん手に入った。




(チャンネル登録者数がどんどん広がるにつれ、写真集の売れ行きもどんどん伸びているし、Insightamなどの他のSNSへの登録数も微増している……いいことだ)


 実は、毎回動画説明欄に下記のようなURLリンクを張っている。

 ----------

 動画説明欄:

 ・Amazing Candleの写真集はこちら💕→xxxxxxxxxx

 ・Insightam https://www.insightam.com/xxxxxxxxxx/

 ----------

 この説明欄のURLが意外と馬鹿にできないもので、それなりのPR効果を果たしてくれていた。

 一つや二つの動画では全然興味をもってくれないユーザでも、二十本、三十本と動画を見ていくうちに、ちょっとだけ内容に興味をもってくれて、URLをクリックして写真集を読んでくれたり、Insightamを見てくれたりするのだ。


 面白いことにこれにも導線の質の差があって、例えばとにかくケモ娘が見たいユーザ属性と思しき人は写真集、料理やハンドメイドに興味を持ってくれた人はInsightamに飛んでくれる傾向があった。

 必然、Insightamに載せる投稿は、限界飯などのレシピであったり、動画で登場したアレンジ料理であったり、使っている食器の紹介やキッチン用具の紹介、愛飲しているお茶の紹介などが多くなった。

 SNS毎にある程度特色を持たせる(≒ジャンル特化する)ことで、より多くのユーザが引っかかるようになった。


(VirtualTubeなどの動画コンテンツで成功すると、この横展開があるのが大きいんだよな。プラットフォームが大きくて様々なユーザ層が内包されているから、そこを起点に特化型コンテンツへ誘引できる)




 歌い手のハユを筆頭に。

 ハンドメイド担当のパルカ。

 料理レシピ担当のアルル。

 色々やらされるゾーヤとカトレア。


 そんな凸凹アイドルたちが挑戦する、『薪割り』『ナイフ研ぎ』『軍隊式サーキットトレーニング』『お金稼ぎ』などなど。

 動画の再生数は順調に伸びており、1万回以上再生が全然めずらしくなくなった。ここまでの道のりは長かったが、VirtualTubeが十分に収益源として機能し始めていた。


(撮れ高はまだまだたくさん余っている。いいぞいいぞ、この調子でお金を俺にもたらしてくれ……!)


 俺は内心でほくそ笑んだ。まだ数か月しか経っていないのに、長年の投資が実ったような気分であった。

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