第43話 現代商売その8:動画収益化_ライトセイバーバトル
突然だが、VirtualTubeの視聴者層についてもう少し丁寧に説明したいと思う。
VirtualTubeの月間アクティブユーザ数は20億と言われている。
そして投稿動画の国籍別データを見たとき、面白い集計結果がある。
例えば、どの国の動画が再生されやすいかについて。
ヨーロッパは世界の人口の10%しか占めていないが、ヨーロッパから投稿されたコンテンツは総視聴数の約27%を占めていると推定されている。
北アメリカ大陸も同様、世界の人口のわずか8%しか占めていないが、北アメリカ大陸から投稿された動画もまた、総視聴数のおよそ27%を占めている計算になる。
逆に、人口の60%を占めるアジア諸国については、アジア発のコンテンツが不人気なのか、総視聴数のおよそ30%程度しか得られていない。
このデータから単純に推察すれば、ヨーロッパやアメリカで投稿した動画の方が他の動画より視聴されやすいという結論になる。
だがもうちょっと踏み込めば、「ヨーロッパっぽいコンテンツやアメリカっぽいコンテンツは視聴数を稼ぎやすい」という身も蓋もない結論を導き出せる。
そして、映画『SPACE WARS』ネタは、未だに欧米でバカ受けする大人気コンテンツである。
映画、アニメ、コミック、小説、ゲーム、と多数のメディアミックスを誇り、さらにはスピンオフ映画2本(『ロード・ワン』『ハンス・ソロ』)だけでも1兆円以上の興行収入を誇る超巨大コンテンツ。
全メディアミックスの興行収益は、
『SPACE WARS』に出てくるライトセイバーはその人気の担い手の一つである。
バチバチに決まった光と音のエフェクトがやたらめったらと格好いい。
唸りを上げて踊る光刃、そして繰り広げられる圧巻の殺陣。
こんなの見惚れないはずがない。
ゾーヤとカトレアは、まさにそれを完璧に近い形で再現していた。
「あっさりと両手で
人間には無理だ、と直感で分かるような動き。
足腰に強靭なバネがないと到底無理な尋常ならざる動きを、ゾーヤはあっさりとこなしてみせた。
横の壁を蹴って三角に折り返し、デュアルセイバーを叩きつける動き。
カポエイラが如く飛び跳ねて身体を回し、体軸の回転を活かしてデュアルセイバーを突き付ける動き。
ゾーヤはまるで天井から糸で吊られているんじゃないかと思うほど、縦横無尽に跳躍し、そして奇想天外な攻撃を繰り出した。
それらに対し、カトレアは、常軌を逸した反射速度で両剣で受け、あるいは片手でいなし、隙を突いて二の矢三の矢と手数を披露した。
神速の連撃。滝のような荒々しさ。遮二無二という言葉がよく似合う。
ゾーヤの回り込むような奇襲の数々を前にして足止めを食らい、ケンタウリス特有の機動力が削がれているものの、それでもカトレアの二刀流の猛々しさは全く色あせていない。
ゾーヤが飛び跳ね、カトレアが的確に受ける。
まさしく達人同士の戦い。
(これは……凄い。両者ともに一歩も引いていないぞ)
俺には高度過ぎて、ほぼ互角のように目に映った。
攻守が目まぐるしく入れ替わり、息を呑むような勝負が繰り広げられていた。
だが当人らに言わせると「ゾーヤの方が遥かに格上」「何とか付いていっているカトレアが上手」らしい。
(まあ……
あるいはゾーヤが、目に見えない部分で上手に手を抜いているというべきだろうか。
とにかく勝負は、非常にいいバランスで拮抗しているように見えた。傍から見てとてもハラハラしたし、白熱した闘いのように思われた。
動画にしてみればなおのこと、その手加減とやらが分からなかった。
ゾーヤの役者ぶりが堂に入っているのか、それともカトレアが非常に上手くやっているというべきか。
とにかく、言葉を失うほどに格好良かった。
VirtualTube用、ペコペコ動画用、TicToc用、Insightam用と色んな動画を作成した。
そして、どこもかしこもバズった。
ハーフミリオンなんかとんでもなかった。動画というものは、伸びるときはとことん伸びる。
あっさりと再生数ミリオン突破を突破したかと思うと、ダブルミリオン、トリプルミリオンとぐんぐんと再生数が伸びていった。
伸びた動画だから伸びる。レコメンドエンジンが「人気の動画」と判断した動画は他の人のレコメンドに表示されやすくなる。
そして視聴される。拡散される。
海外の人たちに無断で切り抜かれて、そして解説まで付けられる。
「かなり高度な駆け引きだ、フォーム:アタルとフォーム:ソレスかな?」
「彼女たちはきっと本物のジュダイの騎士に違いないね」
「あまりにも目まぐるしい戦いだ。まさかこんな素晴らしいライトセイバーバトルをもう一度見れる日が来るなんて、夢にも思わなかった」
「ジョージ・リーナス監督は彼女たちを早く映画に出すべきだ、そして新しいSPACE WARSの続編を作るべきだ」
再生数はうなぎのぼりに飛び上がり、ついに1000万回再生も見えてくる勢いになった。
なってしまったのだ。
(こうしちゃいられないぞ……!)
俺は急いでゾーヤとカトレアを呼びつけた。ついで、各自それぞれの作業で忙しくしている皆をかき集めた。
何をおいても優先すべきことができた。
皆はすわ何事かという表情をしていた。突然呼び出されたのだから、当然のことだろう。
これはいわゆる緊急事態である。もちろんいい方向の、だ。
「急いで動画を作るぞ。こういう時は畳み込むのが大事なんだ」
「? どういうことだ、
「違う、ライトセイバーバトルだよ! ライトセイバーバトルの動画を次々作るんだ!」
俺は困惑するゾーヤの肩を掴んで説明した。
「今、ライトセイバーバトルで馬鹿みたいなぐらいにバズが起こった。で、こういう時、ユーザは似たような動画を次々見るんだ。本当さ。
「? 普通、人は飽きると思うが……」
「
俺は
今のうちであれば、累計の数字をもっと高みに積みあげられる。
「いいかゾーヤ。人が飽きるときは、飽きるほど同じものを繰り返し見て、のめり込んで、そして飽きる。確かに人は飽きっぽい。だが飽きっぽいというのは裏を返せば、何かにのめり込むから飽きるんだ。そして今、俺たちはライトセイバーバトルの動画をまだ一本しか作っていない」
「……ふむ」
「今この瞬間、俺たちは、同じような動画をもっとたくさん作るだけで、もっとたくさんの人にのめり込んでもらえるんだよ」
それも、世界的な規模でのめり込んでもらえる。
少なくともここ一週間から一ヶ月は人気に火が付くこと間違いなしであろう。
あえてわかりやすく言えば、一年後にまたライトセイバーバトルの動画を作るより、今この瞬間ライトセイバーバトルの動画を作ったほうが、遥かにたくさんの人に再生してもらえる。
そして、今1000万回再生を2000万回再生にする方が、将来何か別の動画で2000万回再生を達成するよりも遥かに簡単なのである。
累計再生数の積み上げであれば言わずもがな。
累計1000万回を累計1500万回にするだけでも十分以上に価値がある、それがVirtualTubeの世界である。
鉄は熱いうちに打たねばならないのだ。
今のうちにとにかくできる限り再生数を掻っ攫うのだ。
「今日撮影して今日投稿しよう。皆、協力してくれ」
「!」
この世界に来て初めて、命令らしい命令を出したかもしれない。
俺はこの時、きっと何かに取りつかれたような顔をしていただろう。はっきり言って俺は、かつてないほどの高揚感と野心に突き動かされていた、
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