第9話 現代商売その1:しいたけ栽培

「しいたけを出品するぞ」

「しいたけを出品……?」


 何ということはなかった。別に焦って儲けなくていいのだ。

 当座の間は、アルバイトや副業に精を出して日本円を稼げばいいだけの話。借金をしても全然いい。なぜなら借金は最悪自己破産すればいい。日本で生活できなくても、何年か後に、異世界で裕福な生活ができるようになっていたらそれで万事解決である。


 しいたけを育てるのは、その副業推進策の一環である。

 新しく家を買って、そこでしいたけを育てまくる。


 これが上手く行って日本円を稼ぐことが出来れば儲けものである。


「最近は至る所でしいたけの原木が売ってある。1株1000円の栽培キットとかだな。原木を水に浸して、直射日光の当たらない風通しのいい場所においておくだけで、しいたけが一〇個も二〇個も成るんだ」

「……? なるほど?」


 しいたけというものが分かっていないのか、ゾーヤの反応は薄い。

 茸の一種だよと伝えると、薬の材料にでもなるのか? と聞かれてしまった。そういうわけではないのだが。


「相場を見ると、大体1kg2000円ぐらいか……。原木一つで2kg~3kgぐらいのしいたけが採取できるみたいだな。ということは、一株で6000円ぐらい売り上げが出て、送料や手数料、仕入れ値を引いて半分の約3000円ぐらいが手元に残る計算になるから……」

「?」


 頭の中で算盤をはじく。

 こうなれば善は急げである。事務用品専門の通販サイト『アシタクル』で段ボール、ビニール袋、ガムテープを購入し、印刷サイトで箱に貼りつけるシールのデザインを考えて注文する。


「よしよし、まずはあの小屋だ。あの小屋を掃除して、しいたけの原木を並べまくって、一週間後ぐらいに全部切り取って収穫して、箱詰めして出荷して……」






 ◇◇◇






 異世界転移できるらしいけど、お前らどうする?


 93:1 ID:oThErwOrlDy

 異世界でしいたけを育てて日本で売ろうと思うんだがどう思う?


 94:名無しの冒険者 ID:********

 >>1 おかえり

 てか早速意味わかんないんだけどどういうこと?


 95:名無しの冒険者 ID:********

 ??????


 96:名無しの冒険者 ID:********

 異世界にしいたけを売るんじゃなくて?


 97:名無しの冒険者 ID:********

 イッチの国語力が心配


 98:名無しの冒険者 ID:********

 確かしいたけって戦国時代とかで高級食材として扱われてたんじゃなかったっけ?

 当時は栽培方法が確立してなかったから、松茸よりも高級品だったはず

 大名への献上品にもなってたぐらいだから相当な逸品だね


 99:名無しの冒険者 ID:********

 異世界でしいたけを育てるとなんかいいことあるのか?

 魔力を帯びてパワーアップ的な


 100:名無しの冒険者 ID:********

 よくわからん


 101:1 ID:oThErwOrlDy

 今うちの子(この前雇った女剣闘士)にしいたけの原木に水やりさせてる

 かわいい


 102:名無しの冒険者 ID:********

 写真くれよ


 103:名無しの冒険者 ID:********

 お前の子じゃねーよ


 104:名無しの冒険者 ID:********

 それ俺の子だから


 105:名無しの冒険者 ID:********

 ????

 よく分からんけど、え、本当に異世界『で』しいたけを育ててるの?


 106:名無しの冒険者 ID:********

 しいたけの育成キットをみると結構簡単そうね

 18度~25度の室温で、一日1~2回程度霧吹きかけて、傘の裏のヒダの様子をみて頃合いだったら収穫するだけ

 異世界でもやろうと思ったら、しいたけ育てる環境は整えられそう






 ◇◇◇






『異世界でしいたけを育てる獣人娘』


 そんなタイトルで動画を撮影して、SNSと動画サイトにアップロードする。

 新規で作成したばかりのアカウントなので、俺個人に紐づく情報はない。

 あまり深い意味はないが、裸に脱がしてエプロンを着せて、作業をしてもらった。


「作業中に服に茸の菌が付いたらいけないからな。念のためだ。後で部屋に帰ったら水洗いするからな」

「? う、うむ」


 そんな真っ赤な嘘をついて丸め込む。

 ちょっと照れながらゾーヤは言うとおりに行動してくれた。ちょろい。


(ちょっとマイナーなジャンルにはなるが、ケモノ系Vtuberは根強い人気があるからな。ゾーヤの動画をちょくちょく撮影し続けたらきっと人気が出るはず)


 俺の考えているビジネスは、しいたけ栽培だけでは終わらない。

 正直、しいたけ栽培もどこかで頭打ちになることが目に見えている。

 だからこそ、複数の手段を同時に試しておかないといけない。


 資格も必要ない、届け出も不要、真似することも簡単、元手不要、そんな副業はすぐに価格崩壊が起きて飽和してしまうのがオチである。

 だからこそ何かしら今のうちに、儲かりそうな他のネタを考えておく必要がある。


 ゾーヤは、見た目も整っており、非常にきれいである。

 彼女のその容姿を上手い事活用できれば、金になるのではないだろうか、と俺は考えたのだ。


(さあさあ、しばらくは色んな副業を試すぞ。そしてその動画を撮影して、『副業に挑戦するワーウルフ娘』みたいなタイトルでどんどん動画を出すんだ)


 果たして、この作戦が凶と出るか吉と出るか。

 俺の異世界行商生活はまだ始まったばかりである。

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