第47話 お祭り騒動も無事に打ち上げ/突然の邂逅
全てが終わった。
大衆酒場を貸し切った俺たちは、少々派手な打ち上げを行っていた。
「おいヘンリー! こんな面白い隠し玉があるなんて知らなかったぜ、この一週間はしこたま儲けさせてもらったぜ!」
「へへ、俺はヘンリーを見直したぜ! いつも女を侍らせてるいけ好かねえ野郎かと思ってたがよ、ここ一週間はお前さんがこの街の主役だったぜ!」
商人どもが口々に俺を冷やかす。ヘンリーとは、ハイネリヒト/ハインリッヒの略称である。この俺
声をかけられた俺は、大声で返した。
「とんでもないさ、今回の成功は皆のおかげだよ! 俺一人だったら絶対に上手く行ってなかった! 本当にありがとう!」
儲け話があるからと集まってくれた街の皆に頭を下げる。
確かに俺は、全員が儲かるいい話を持ってきたつもりだ。
というより正確には、アルバート氏が間に入ってくれたおかげで、関係者が全員儲かるいい仕組みになったというべきだろうか。
肉売り、酒売り、つまみ売り、焼き菓子売り。
楽団、吟遊詩人、大道芸人。
街の広場を使っての突然のお祭り。
この場に屋台を出そうと思ったら、商人ギルドならびにアルバート氏の許可を貰わないといけない――いつの間にかそうなっていた。
椅子はしっかり用意され、貴賓席まで準備される始末。
人が押し寄せ過ぎないように、衛兵たちまでやってくるのだから、本当に大きな騒ぎになった。
それでも、異様な手際の良さで段取りよく仕切られていた。こういうお祭りをどう切り盛りすればいいか、運営のノウハウを持っている人物がいたのだろう。おそらくはアルバート氏か、その近くの誰かである。
全く、街の有力者というのはこれだから侮れないのだ。
(正直、アルバート氏がこんなに地元に顔が利く人だとは思ってなかったけど……金貸し業で長生きしてる商人ってやっぱ凄いよな)
人が集まれば金が動くというもの。
肉は売れ、酒は売れ、つまみは売れ、焼き菓子は売れ、とにかく飛ぶように商品が売れて、大きな金が動いた。近所の肉屋や酒屋はもちろん、近くの大衆料理屋を営む料理人たちも大いに喜んでくれた。
この一週間、ミュノス・アノールの中央区広場は、人がわんさか押し寄せる結果になった。ゾーヤとカトレアの激しい剣戟を一目見ようと、市民のみならず行商人や冒険者まで来てくれたのだ。
普通の剣戟と違って、刃が光って音が出るのが目新しかったらしい。
奮発して、いいライトセイバーを用意した甲斐があった。
最近のライトセイバーの玩具は、上を見れば非常に質が高い。お値段何と数万円以上。非常に値の張る小道具である。
だがしかし、サウンドの質と光の力強さは申し分ない。衝撃時に色が変わるフラッシュオンクラッシュ機能を搭載し、さらにブレードの色や効果音を変えられる機能まで搭載されている。
当然、一番明るくて目立つ色にして、一番派手で激しい音にする。日本製品では考えられないぐらい明るい光量。日本工業規格(JIS)を無視した海外製品ならではの派手さと大味さである。
こうして、こんなのネオンの光だろ、と思うぐらい馬鹿みたいに輝くセイバーが爆誕した。
そして結果的に、このミュノス・アノールの街の人たちがたくさん集まる結果につながった。
肉や酒の屋台が儲かったのもさることながら、俺もいつの間にか席料で儲かっていた。席料を取るようにしたアルバート氏からお金が貰えた。
関係者一同が大儲け。文句なしである。
「皆も儲け話があったらこっそり俺に回してくれ! 今日は乾杯と行こうじゃないか!」
俺が冗談を言うと、これが皆に馬鹿受けした。
盃を上に掲げて、乾杯、乾杯、とあちこちに乾杯の声が広がった。
降って湧いたような儲け話とはまさにこのことであろう。
しかしそれがいつの間にか実現され、そして成功してしまった。
俺は俺で、このお祭り騒動の立案者ということで色んな人に顔と名前が売れた。
いつの間にこんなことになったのやら、自分でも全く訳が分からない。誰かにこっそり手引きされて、踊らされていたような気分である。
(まあ、今日は乾杯でいいよな)
色んな人にお礼を言って、頭を下げて、名刺を渡して、世間話をして。
冒険者のお姉さんや妙齢の女商人に粉をかけられ、遊ばないかと露骨に誘われて、そのたびに微妙な言葉で濁してその場を去って。
顔を布で隠した、エキゾチックな恰好をした少女に声をかけられたのは、まさにそんな折のことであった。
「へ~~? 貴方がアルバート爺さんのお気に入りの、ハイネリヒトって言うんだぁ~~?」
「?」
にたぁ、と笑った少女が、心底面白そうに俺の顔を覗き込んでいた。いつの間にか傍にアルバート氏もやってきて「これはこれは」と頭を下げていた。
丁寧な応対。
ぱっと見異様な光景である。アルバート氏ほどの人物がそう応対せざるを得ない人物となると限られてくる。もちろん常にアルバート氏は腰が低い柔和な人物なのだが、それだけではあるまい。
その仕草がなければ、この少女のことを(なんだこのクソガキ)と雑にあしらっていたかもしれない。
「申し遅れました、私ハイネリヒトと申します。アルバート氏の手引きのおかげで、砂糖や胡椒を取り扱ういくつかの商売を手掛けることが出来ております」
「ふぅん? 美術品を広く扱う交易商じゃないの?」
「そちらは嗜む程度でして……」
とりあえず、礼儀を失しないように名乗りだけはきちんとしておく。少女はつまらなさそうにぶーとしていた。一体何故。
「絶対ばれちゃったじゃん、素の反応が見たかったのにぃ」
見かねてアルバート氏が、「いえいえ、ばれておりませんよ」と補足を入れた。実際俺は分かっていない。予想は付くが確証はない。
俺はちょっと発言に困った。あまりべらべら喋って機嫌を損ねても良くない気がする。いつの間にか隣に侍っていたゾーヤが、緊張で腰の刀に手を当てていた。
とかく、この少女には雰囲気があった。
空気を支配する強い雰囲気が。
「――改めまして、この街を治めるミュノス卿の四女、パーシファエ・ミュノスよ。にひひ」
八重歯がにかっと顔を出していた。
とんだお転婆さんのお嬢さんがそこにいた。全然にひひじゃない。
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