第17話 虫使いと刻印士

 異世界転移できるらしいけど、お前らどうする?



 226:1 ID:oThErwOrlDy

 ただいま

 とりあえず砂糖と胡椒の商売は順調

 今は、新しい人を雇うか新しい家買うかで悩んでる



 228:名無しの冒険者 ID:********

 >>1 おかえり

 家買うってすごいな

 砂糖売るのってそんなに上手くいってるんだ



 231:名無しの冒険者 ID:********

 何で家が必要なのさ

 よくあるなろう系ファンタジーよろしく、根無し草の宿屋暮らしでいいじゃん



 233:名無しの冒険者 ID:********

 可愛い女奴隷ちゃんの写真はよ



 235:名無しの冒険者 ID:********

 まだこのスレ続いてんのか……すげーな



 238:名無しの冒険者 ID:********

 >>1 流石に胡椒とか砂糖とか買いすぎて周囲の人から目立ってるんじゃないの? 



 239:1 ID:oThErwOrlDy

 >>231

 しいたけ育てるのにもっとスペースが必要になったの

 それと、ヘラクレスオオカブトの幼虫を育てようかなって

 >>238

 変な人みたいに見られてるけど、もう慣れた

 今は、胡椒と砂糖をもっとまとめ買いしたら安くならないかお店と直接交渉中



 241:名無しの冒険者 ID:********

 ヘラクレスオオカブトの幼虫……?

 


 243:名無しの冒険者 ID:********

 また急に凄いこと言い出したな

 ヘラクレスオオカブトを育てるってまた新しい内職かな?



 246:名無しの冒険者 ID:********

 ヘラクレスオオカブト しいたけ で調べたら意外といろんな記事見つかったわ

 しいたけの廃菌床がカブトムシの幼虫の餌にぴったりらしいね



 248:名無しの冒険者 ID:********

 やめといたほうがいいと思うぞ

 ヘラクレスオオカブトって幼虫が大きく育つまで2~3年ぐらいかかるからな



 249:名無しの冒険者 ID:********

 異世界でカブトムシ育てるのってコバエ滅茶苦茶湧きそうなんだよな



 250:名無しの冒険者 ID:********

 幼虫がさなぎになりそうな予兆をちゃんと観察して

 さなぎになるための適切な湿度を保って

 この辺は正直、初心者には難しすぎると思うけどな



 251:1 ID:oThErwOrlDy

 >>248

 最大のネックはそれなんだわ、育てるのに何年もかかるのがキツイ

 正直今、廃菌床の処分先に困ってる

 異世界で廃菌床売れないかな



 253:名無しの冒険者 ID:********

 多くのしいたけ栽培農家は、大量に発生した廃菌床を、肥料として近隣の畑作農家らに引き取ってもらっているからな

 でも最近は、高齢化や後継者不足で、肥料として使う農家が減っているから、全国のしいたけ栽培農家も同じ悩み抱えているよ



 255:1 ID:oThErwOrlDy

 うーん

 カブトムシ育てるの、いいビジネスだと思ったんだけどなあ






 ◇◇◇






「……虫を育てたい? 中々奇妙なことを言いだすな、主殿あるじどのは。虫使いの呪術でも練習するつもりか?」


 スマホを片手に亜人娘たちの撮影に勤しんでいるゾーヤに相談したところ、ちょっと予想の斜め上の回答が返ってきた。

 虫使いの呪術とやらが気になる。そんなものが実在するのだろうか。そんな便利なものがあるなら俺も使いたい。

 はやる気持ちを抑えてゾーヤに訊いてみると、「私も詳しくは知らないが」と前置きしながら、彼女は分かる限りのことを教えてくれた。


「どの種類の虫を操りたいのかは分からないが……私の知っている限りだと、使役したい虫に応じた呪印を身体に刻む必要がある。熟練の刻印士であれば知っているかもしれないが、虫使いになりたい者はそうはいないからな、並大抵の刻印士に聞いても誰も知らない可能性が高い」


 これはいいことを聞いた、と俺は思った。

 カブトムシは関係ないが、聞く限りではいろんな活用方法がありそうである。


 虫を使役できるというのが非常に面白い。例えばハチを使役できるようになれば、蜂蜜の採集が非常に簡単になるのではないか。

 それだけではない。害虫駆除にうってつけである。

 例えばゴキブリを駆除したいという依頼があった時、ゴキブリを使役して家の外に追い出すこともできるかもしれない。シロアリもムカデも同様であるし、ハチも同じである。


「……。まさか、虫使いになろうとしてまいな?」

「そのまさかだよ」


 顔を引き攣らせたゾーヤに、俺はあっさり返した。もしや彼女は、獣人族なのに虫が苦手なのだろうか。

 とはいえ虫を操れるならそれに越したことはない。

 何より重要なことだが、害虫駆除には国家資格は必要なく公的な資格も存在せず、資格がなくても開業することが可能なのだ。


 害虫防除の費用もまちまちであった。

 これは散布する薬剤や設置するベイト剤が業者ごとにバラバラであるからであり、一律にタリフ化しずらいというのが背景にある。ざっと見る限りだと、一件当たり5万円ぐらいのお金を取っていたりするので、月に10件やれば十分生計を立てられそうである。

 もしかしたら、その『虫の使役』とやらができれば、害虫駆除業界で一旗揚げられるかもしれない。


「なあ、虫使いになりたいんだけどさ、アルルとパルカは何か情報知ってるか?」


 二人に聞いてみる。だが二人ともきょとんとしており、有力な情報は得られなかった。まあ、普通に考えたら、娼館勤めで刻印士と親しくなる切っ掛けなんてなくて当然だろう。


「……せっかく路上で色んな冒険者と商売しているのだから、冒険者たちに訊いてみるのもいいだろうな。腕のいい刻印士につてがある奴が見つかるかもしれない」

「ああ、その手もあったか」


 気乗りしない顔をしつつも、ゾーヤは一応案を出してくれた。

 何だかんだ言って、やはり彼女は頼りになる。


「もしくは、興行師ラニスタの老人に訊くのもありそうだが……主殿あるじどののことを信用してくれるだろうか」

「……なあゾーヤ、質屋のアルバート氏に訊くのはダメなのか?」

「一番信用できるが、一番高くつくと思う」


 歯切れ悪そうにゾーヤが答えた。だが高くつくぐらいなら大したことはない。


「そんなの構わないさ。いくらふっかけられようがお釣りがくる」


 じゃあアルバート氏だな、と俺は内心で思った。

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