第15話 快眠の指輪、あるいは魔道具について

 遠見の加護の首飾り。

 快眠の指輪。


 異世界と日本の間を往来するようになってから、少しずつではあるが、加護付きの便利な装飾品が増えてきた。つけているだけで効果があるのが素晴らしい。もっと欲しいぐらいである。いくらあっても困ることはないだろう。

 現代でもこれに並ぶ代用品は見当たらないので、魔道具については異世界のほうが先進的であると言えよう。


 こんなに便利なものなのだから、この世界の王族や貴族はさぞかしたくさんの装飾品をつけていることであろう――と思ったが、ゾーヤ曰く違うらしい。


「加護付きの道具を使うにも、《魂の器》が必要だ。そうむやみやたらと装備を重ねることはできないものだ」

「たましいのうつわ……?」


 また知らない言葉が出てきた。

 魔物といい、迷宮といい、いかにも幻想世界ファンタジーな感じの響きのする単語である。


「ああ。その生物の内なる力と言ってもいい。《魂の器》が育てば育つほど、その生物は若々しく活力を維持できる他、大きな魔力を練られる」

「ふーん、レベルみたいなものかなあ」

「れべる……?」


 概念的な説明だったが、要はロールプレイングゲーム等におけるレベルのようなものだと俺は理解した。《魂の器》が育てば育つほど強くなる、ぐらいの雑な理解でも概ね問題なさそうであった。


主殿あるじどのは魔道具を身に着けていても疲れないのか?」

「うーん……特に感じないけど」

「そうか……。まだ二つぐらいだから問題ないかもしれないが……」


 口元に手をやりながらゾーヤは考え込んだ。彼女に聞いた所、あまり《魂の器》が育ってない人であれば、魔道具を二個ほど装備した辺りで、頭が痛くなってきたり、息苦しくなってきたり、身体がだるくなってくるらしい。

 そういう意味だと、俺は特に何ともなってない。もしかすると自分では気付いてないだけで、俺は非常に《魂の器》が大きいのかもしれない。


「普通、人が装備できる魔道具の数には限りがあるのだ。もしこれが無制限にあれもこれも付けられるものなら、みんなこぞって魔道具を買い集めるだろうから、より価値の高いものになっているだろう」


 とどのつまり、俺は得しているらしい。

 正直、まだまだ魔道具を付けられそうな気がする。


「……。ありとあらゆる魔道具を身に付けた暁には、ひょっとすると、主殿あるじどのは……」


 何を考えてるのか分からないが、ゾーヤは真面目な顔になって黙り込んでしまった。






 ◇◇◇






「えっ凄い! 本当にめちゃくちゃぐっすり眠れたし身体の調子がいい!」


 切ない話だが、歳を取ると本当にぐっすり眠れることが少なくなる。俺はまだ三十歳になってないぐらいだが、十年前のはしゃぎ回っていた頃を思うと全然眠れなくなっていた。


 指輪は劇的な効果をもたらした。朝がだるくないのだ。

 久しぶりの爽やかな目覚め。俺は心の底から歓喜した。


(これは凄いな! あの瞬間はアルバート氏に丸め込まれたかもと思ったが、こんな快適な目覚めができるなら、ちょっとやそっとの端金なんか惜しくないな)


 しかも後で気づいたことだが、この指輪をつけて仮眠を取ったら、疲れが吹き飛んでいるのだ。

 先程、ちょっと動画編集作業に疲れたからと昼に三十分昼寝をしたら、そのあとすっかり全快して集中力も復活していた。その後、胡椒と砂糖の荷運びやら動画撮影やら料理やらをして疲れても、再び仮眠を取ったらすっきりして元気になっていた。

 これで人の何倍も働くことができる――。


(うん? 働かずに楽するつもりだったんだけどな?)


 何だか釈然としないものを一瞬感じたが、俺は一旦それを忘れることにした。

 そう、俺はあくまで、楽をするために頑張っているはずなのだが――。



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