第3話 現代商売その9:動画収益化_魚の捌き

【VTube・ペコ動】けもっ娘ch 応援スレ Part1 IDあり


 549:名無しの冒険者 ID:********

 けもっ娘chってさ

 全然スパチャしようともしないし、グッズ展開しようともしないんだな……

 なんというか事務所に所属してない個人Vって感じだよな

 勿体ない



 551:名無しの冒険者 ID:********

 ハユの歌声にずっと沼ってる

 ASMR風の『囁きで歌ってみた』がもうずっと寝る前のお供みたいになってるわ

 声のかすれ具合がたまらん



 552:名無しの冒険者 ID:********

 やっぱりハユの声真似が一番凄いわ

 選曲が明らかに世代出てるけど、昔ハマったアニソンをあんなクオリティで歌ってくれたらもう変な笑い声しか出てこんわ



 554:名無しの冒険者 ID:********

 何だろうな、応援したいんだけど応援できるイベントとかがないんだよな

 どこか箱を借りてイベントを開いてくれたら行きたいってファン結構いると思うけど



 557:名無しの冒険者 ID:********

 イベント運営できるぐらいちゃんとした事務所だったらなーって思う

 だから芸人みたいに身体を張った企画でしかできないんだよ

 ポテンシャルは感じるのに残念



 559:名無しの冒険者 ID:********

 mttps://m.virtualtube.com/watch?v=WTO_toRRoTsl9&pp=ygUZ5YgwqPolRcffA4v1itnWerFpoUhaAq%3D%3D

 市場で3000円分の魚を買ってきて唐揚げを作りまくるだけの動画

 こういうの見ると酒が飲みたくなるんだよな



 561:名無しの冒険者 ID:********

 >>551

 ハユの声帯模写、男から女までほぼ完璧なのが怖いんよな

 まじで生成AIとかじゃないと説明つかないよな



 563:名無しの冒険者 ID:********

 >>559

 何かアルルの料理動画って最近趣向変わった?

 今までは家庭料理しかやってなかったイメージだけど、最近『市場でたくさん魚買ってプロ顔負けの料理を』みたいなのが増えたね



 566:名無しの冒険者 ID:********

 ゾーヤが魚を捌くのに駆り出されててちょっと笑った

 やっぱこの子何でも出来て便利だからって、あれこれ酷使されてるよなあ






 ◇◇◇






 三陸沖。

 元より三陸の海といえば世界三大漁場の一つとして知られている。


 寒流の親潮と暖流の黒潮がぶつかる場所。

 植物プランクトンを始めとする栄養塩が豊富に集まる他、リアス海岸の入り江によって海流が変化し「海水の流れが強い湾外」「穏やかで水温の高い湾内」という幅の広い漁場が生まれるこの三陸沖は、まさに海の宝石箱と言っても過言ではない。






『魚を捌く系の動画ってさ、結構根強い人気があるんだよ。だから料理系Vtuberとして成功しているアルルにも、是非この分野に進出してほしいんだ』


 そんな俺の一言ですべては始まった。

 完全な無茶ぶり。どこを照らし合わせても思い付きの行動でしかない。


 ゾーヤなんかは完全に呆れ返っていた。ただ単に美味しい刺身を食べたいだけだろうに、と俺の目論見をあっさり看破しており、無茶ぶりされているアルルに同情的な目を向けていた。


 しかしアルルは、意外にも俺の提案を気に入ってくれたみたいであった。

 曰く、

『あら~、いいですよ~。新しい調理器具を買ってくれるんですよね~?』

 と案外前向きである。

 料理そのものの楽しさに目覚めてくれたのか、あるいはちょっと新しいことに挑戦してみたくなったのか、いずれにせよ彼女も肯定的なのであれば文句はない。


 であれば、善は急げというもの。

 早速、三陸沖の魚市場を下調査することになった。






(一応、三陸沖の魚市場付近の駐車場を借りて、"渡り鏡"を置いてみたけど……設置場所は要検討だな)


 交通機関がそばにある物件をいくつか見繕って、好条件の物件を絞り込む。それまではしばらく、車の中に鏡を置いてそこから移動することになるだろう。


 こういう企画は、何だかんだ下調査が楽しいものである。

 宮城県から岩手県、そして青森県まで。地元のグルメに舌鼓を打ちつつ、撮れ高になりそうな題材を集めつつ。


 企画内容は無尽蔵にある。

 例えばゾーヤとカトレアは、『カツ丼5kg食べてみた!』みたいな大食い企画をやっているので、同じような感じで『生ホタテ5kg食べてみた』とかやっても面白い。

 他にも、深海魚を解体して鍋物にしたり、天ぷらにしたり、屋外BBQをしたり、色んなネタが思いつく。


 俗に、魚を解体する題材の動画は、20〜30代の男性がメイン視聴者層と言われている。となると必然、料理も『唐揚げ』『刺身』『屋外BBQ』など男心をくすぐるようなジャンルに親和性が出てくる。

 今までアルルの出してきた『家庭料理』系の動画では、メイン視聴者層は女性が多かったのだが、今回の企画は新しい層を開拓する挑戦的な営みになっている。


 もちろん、一回料理して終わりではなく、そのあと大食いネタの撮れ高にもつながるので一石二鳥というわけだ。


(多分、InsightamとVirtualTubeで視聴者層が違うんだよな。俺たちのチャンネルの場合、女性向けはInsightam、男性向けはVirtualTubeで投稿したほうが、なんとなく受けがいいんだよな)


 これは、今までアルルの料理動画を出していて気が付いたことである。


 例えばVirtualTubeで料理系のトップに立っている動画は、「料理探求家リョータのバズレシピ」「きまぐれコック@かさご」等の、どちらかというと男性向けっぽい雰囲気の投稿が多い。

 綺麗でおしゃれなものを食べたい、というより、がっつり食べたい、旨い食べ物と酒で優勝したい、というニーズに直結した動画が多いのだ。


 一方、非日常感を味わえる素敵な料理を調べたい、感動を友達にもシェアしたい、という共感型コンテンツとしてはInsightamが強い。

 お洒落なカフェ、たまに作ると特別感が出るスイーツレシピ、そういった情報は比較的Insightamの方が広がりやすい。


 あくまで傾向の話なので、Insightamで男性向けっぽい動画を出したりVirtualTubeで女性向けっぽい動画を出したりしてもそれなりに伸びるとは思うが、こういうプラットフォーム特性には変に逆らわず、素直に従った方が色々楽である。

 レコメンド機能やユーザ導線を考えると、既に出来上がっている構造に従うのが一番無理がないのだ。これを間違えると痛い目にあう。マーケティングというものを舐めてはいけない。


「さて、一般人が入っていい魚市場をリサーチするとして……と。いやあ、今日のご飯も楽しみだなあ」


 車を運転しながら、俺は思わずほくそ笑んでいた。

 美味しい食材を取材するというのは、それだけで楽しくなる謎の魅力がある。そのネタでお金が生まれるともなれば、口元が緩むのもさもありなんという話であった。


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