第38話 現代商売その7:イヤリング作り

「イヤリングって結構いい感じの値段で売れるんだね、知らなかったや」


 俺がいつものように大手物販ECサイト『メリクル』『minna』に出品をしていると、パルカが背中から覗き込んで無邪気に尋ねてきた。

 確かにこれらECサイトの中でも、パルカのハンドメイド品は評判が良く、売れ筋の商品になっている。

 だがそれよりも――。


「パルカお前、文字が読めるのか?」

「? 全然? 数字だけは何度も見てるからちょっと分かるけどねー」


 一瞬度肝を抜かれた俺だが、パルカの返事を聞いて半分納得した。

 確かに、数字は毎日のように見せているから分かってもおかしくない。アラビア数字で十進法なんて、法則が分かってしまえば一発で読めてしまうだろう。

 すわ日本語を解読されてしまったか、と冷や汗をかいたが、流石にそんなことはなかったようである。


「ほほー、キャンドルも結構売れてますなあ。ご主人様のお役に立ってるみたいで何より何より」


 自分の稼ぎを横目で見ながら、パルカはすっかりご満悦になっていた。


 この頃パルカはうちの稼ぎ頭になっていた。

 例えばアロマオイルのキャンドルを作らせたら、色味のバランスも絶妙で、ひときわ綺麗なキャンドルをあっさりと作ってくれたりする。

 これが一万円近い値段で売れたりするのだ。二十個、三十個と売れたらそれだけで十分な食い扶持になってくれる。


 キャンドルだけではない。まだまだパルカの手掛けるハンドメイド品はたくさんある。

 例えばイヤリングづくりにも、彼女の才能は忌憚なく発揮されている。


 イヤリングを作ろうと思ったとき、そんなにたくさんの道具は必要ない。

 ・ニッパー

 ・ペンチ

 ・ヤットコばさみ

 ・丸カン

 ・100均のチャーム

 ・イヤリングの土台

 ・グルーガン

 等。


 やることも難しくない。

 イヤリングの土台にチャームやら何やらをグルーガンでくっつけて、丸カンとペンチでつないだりしたら、それだけで簡単なイヤリングになる。


 ここに追加で、異世界イルミンスールで拾った綺麗な花びらをレジンで固めたり、不思議な模様の貝殻、薄く透き通る昆虫の羽、屑魔石などの綺麗な小物を使えば、結構綺麗な感じに仕上がる。


 綺麗な小物の調達もさほど難しくはない。

 街にいるちびっ子を捕まえて「何かキラキラした綺麗なものを持ってきたらお金をあげよう」とお小遣いを与えればそれで十分。

 天然石なんかも付ければ、それだけで見栄えも良くなる。


(イヤリングに天然石は最強の組み合わせだよな。それだけで検索してもらいやすくなるし単価も高くできる)


 イヤリングづくりのコツは、安いものを大量に作るというより、原価が高くなってもいいからいい材料を使うことに尽きる。

 理由はシンプルで、イヤリングを検索する人は「イヤリング シルバー」とか「イヤリング ラピスラズリ」など、素材にこだわって検索する人が多いからである。


 はっきり言って、高い値段を設定しようが安い値段を設定しようが、まずは人に検索して見つけてもらわなければ意味がない。安くすれば売れるという世界ではないのだ。


 シルバーの金具を使ったり、ラピスラズリ等の天然石を使うのは、そういった検索キーワードに引っかかりやすくするためであり、導線の確保のためなのだ。

 身に着ける小物には、誕生石やパワーストーンを使いたくなるというのが人情というもの。いわばゲン担ぎというわけだ。イヤリングにしても、同じぐらい綺麗で可愛いものを見かけたとして、どうせなら少しでも幸せをもたらしてくれそうな天然石のものをつい選びたくなる……という消費者心理がある。


 なので、ラピスラズリだとかガーネットとかアメジストとかをどんどん利用する。

 いまやネットを使えば、天然石はいくらでも簡単に調達できる。


 あとは、うちで一番細かい作業が得意なパルカが、あれやこれやとやってくれるわけだが――。


「わっはっは! 見て見て、ご主人様! フラワーレジン? っていうのかな、すっごく上手くいったよ!」


 見ると、パルカの手元に何かがあった。レジンの中に小さなドライフラワーを閉じ込めた、いわゆるレジンフラワーのイヤリングがそこに出来ていた。

 こういう透き通ったレジンは金細工と相性がいい。パルカの手作りのイヤリングも、レジンを縁取るように細い金のフレームで誂えてあった。


 可愛らしく、主張しすぎず、それでいて目を引く。

 そんないい一品だった。


(こういう小物をあっさり作れてしまうんだもんな。流石、器用な妖精レプラコーンというだけはある)


 物凄く褒めてほしそうな様子だったので、適当に頭をなでておいた。

 雑だぞー、と文句を言われてしまったが、本人は満更でもなさそうである。


こういう細かな作業は集中力が物を言うのだが、パルカはそういう黙々と打ち込める作業がそもそも好きなのか、放っておいてもどんどん作ってくれる。昼夜を問わずである。天職といってもいいかもしれない。


 多分、彼女がいれば食いっぱぐれることはないだろう、などという無責任なことを考えながら、俺は彼女の作ってくれたイヤリングを写真に次々納めていくのだった。



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