第21話 現代商売その3:キャンドル作り

 実は、上手くいきかけている副業が一つある。それはハンドメイド作品のフリマ販売である。

 始めたきっかけは大したものではない。せっかく指先が器用なレプラコーンのパルカがいるのだから、何か物を作って売ってしまおう――そんな安直な考えで開始したのだが、これが意外と好評であった。


 ハンドメイド作品といっても種類は複数ある。

 キャンドル作り、スタイ(赤ちゃんのよだれかけ)、スマホケース、イアリング、ネックレス――。


 パルカが手掛けている作品は複数に渡るが、例えば今上手くいっているのはキャンドル作りであった。


【用意するもの:

 よくあるノズルの長い着火ライター

 キャンドルの型

 着色料

 香り付けのエッセンシャルオイル

 温度計

 ロウソクの芯】


 手順は簡単である。

 ワックスを片手鍋で温める。

 大体70℃ぐらいでワックスが溶けるので、その間に容器の底にロウソクの芯を固定しておく。

 ロウの温度が60℃ぐらいになったらオイルをいれて香りを付けていく。

 その後、香り付きのロウを、容器に流し込む。

 固まる前にロウソクの芯をまっすぐ固定。割りばしなどを使って挟んで放置する。


(何が大きいって、ハンドメイド作品の作り方って、VirtualTube動画投稿とInsightamの両方に展開できるのが大きいんだよな)


 上記の手順を、可愛らしい亜人娘三人が行う様子を動画に撮影し、俺が翻訳の指輪の力を借りて多国語の字幕を付ける……というだけの作業。

 大したことのない動画だが、これが意外と好評なのであった。


 このハンドクラフトの工程が興味深いのか、海外からのユーザも興味を持って動画を見てくれている。

 そればかりでなく、Insightamのアカウントをフォローしてくれたり、動画に取り上げた作品をフリマサイトからわざわざ購入してくれたりするのだ。


 原価率で計算するとおよそ三割強。

 その手の業界を知らない人間からみたら破格の利率である。が、こういうハンドメイド界隈では大体原価率の相場は二割ぐらいなので、どちらかというと手が込んでいるほうになる。


 重要になってくるのは、販路開拓の方法である。


 結婚式用のウェディングキャンドルを通販したり、近所のカフェに売り卸しを行ったり、百貨店の催事場でたまに開かれるライフスタイル系のイベントブースに出店したり――キャンドルを売る販路は複数ある。

 まあ、最後の『イベントブースの出店』は俺には敷居が高いので、そちらは逆に出店しているキャンドル専門店と名刺を交換して、逆にキャンドルを売り卸すといったやり方になる。


(VirtualTubeでグラビアアイドルの亜人娘がハンドメイドやってますって名刺に書いているけど、これって意外と売り込み文句になるんだな……知らなかった)


 キャンドル専門店の人と名刺交換する中で気付いたが、正直これは、嬉しい誤算であった。

 フリーランスのグラビアアイドルで人気VirtualTuberさんがキャンドル作りに興味を持ってくれるなんて嬉しい――なんて呑気なことを言われたりしたぐらいである。


 実態は、チャンネル登録者数が300人ちょっとで、一万回再生に達した動画が一つぐらいしかないような弱小VirtualTuberなのだが。

 しかもAmazing Candleの写真集の売り上げは一冊あたり一万円も行ってないぐらいである。

 それでも、ハンドメイド専門店の人たちは気のいい人たちが多いのか、喜んで名刺交換に応じてくれたし、キャンドルの取引に応じてくれる人も結構いた。


 ぜひうちの子たちに会いたい、なんてことを言ってくれる人もいた。

 まあ会わせる訳にはいかないのだが――。


(パルカも、あれこれ作っていくうちにインスピレーションが湧いたみたいだし、いい傾向だな)


 桜の花びらを閉じ込めたキャンドル。

 金木犀の香りが漂うキャンドル。

 淡い青と紫のグラデーションキャンドル。


 こういった意匠を凝らした作品群にブランドとしての名前を冠してあげれば、もう文句の付け所はない。

 例えば、桜の花びらを閉じ込めたキャンドルであれば、


 ――――――――――――――――――

 ■『桜』コレクション:有明桜

 ハーバリウムのようにお花が浮かぶ、香りが練り込まれたフレグランスキャンドル。炎の光を透過してぼんやりと輝く様子はとても美しく、照明を落としたお部屋で使えば、まるで夜桜を連想させ、テーブルを幻想的な雰囲気に飾ります。

 ――――――――――――――――――


 ……という具合にである。


 一応補足すると、手作り食品、ペット類、中古品、輸入品、医薬品、などに該当しないものは販売に認可は要らないので、手作りキャンドルの販売に届出は不要である。


 もし仮に、自前のホームページを作ってそこで直販を行う場合は、特商法に基づいた表記が必要になってくる。

 メリクルといった大手通販サイトを使う場合は、『住所・電話番号』などの個人情報を隠してメリクルの事務所の住所・電話番号に置き換えることができる。


 今はまだそこまで大きな儲けになっていないので、開業届を出して直販を実施するような面倒なことはしていないのだが――。


(もし今後、キャンドル作りとかで大儲けできたらそういう道もあるよな)


 考える。

 しいたけ栽培、動画投稿にSNS投稿、写真集販売、ハンドメイド作品販売――と、少しずつ上手くいっている現代商売の収益を見ながら、俺は今後の展望について思いを馳せるのだった。

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