第41話 害虫駆除のHP開設と、害虫駆除アルバイト

『害虫ノックアウト屋さんにおまかせ!』

 ゴキブリ・ムカデ・ハチ・ダニ・クモ駆除専門!

 虫害にお悩みの方のための相談窓口です。



 ■害虫駆除について

 昆虫等防除については、建築物衛生法(ビル管理法)により、6ヶ月以内毎に1回定期に調査を実施し結果に基づき必要な処置を講ずるよう定められています。

 例えば、東京都では地域特性を踏まえ、独自の「指導内容」として、原則月に1回以上の頻度で生息状況等の点検を行うよう定められています。


 ■生息状況等の点検方法(定期調査)

 ・目視調査

 ・聞き取り調査

 ・トラップ等による調査

 ……等

 ※厨房及びその周辺・ごみ集積所・機械室・トイレ・更衣室・給湯室等を中心に調査を行います


 ■防除方法について

 弊社では、薬剤を利用しない

 ・熱スチーム処理

 ・ドライアイス噴霧処理

 ・熱湯処理

 ・アルコール処理

 ・吸引処理

 ……に強みを持っています!


 ■注意事項

 ・製品の機能劣化や変質を生じる物にはビニールシートで養生を行います

 ・油製剤及びアルコール製剤を使用する可能性がありますので、火気が無い事を確認します

 ・電気設備やコンセントに薬剤がかかると故障の恐れがあるため、ビニールシートで養生を行います

 ・食品や食器等は冷蔵庫・ケース等に入れるか他の部屋に移動させる等の汚染防止を行っていただきます

 ・食毒剤は子供の誤食事故があるため、手の届かないところに設置させていただきます

 ・空間噴霧後は2時間以上入室を禁じます

 ・薬剤使用後、健康に異常を感じた時はすみやかに医師の診察を受けてください


 ■効果判定

 防除施行後の効果について調査用トラップ等による調査を実施しその捕獲状況を把握します。

 効果判定の結果、効果が十分に得られなかった場合は再施行します。


 ■報告書の作成

 ・生息状況の点検を行った日時、場所、実施者、生息調査等を記載した報告書を作成します。

 ・防除施行した日時、場所、実施者、生息調査、施行方法、使用薬剤、結果等を記載した報告書を作成します。


 ■お見積もりはこちらから!

 ・調査費用:8,800円

(依頼いただいた場合上記調査費用はキャッシュバックさせていただきます)

 ・施工費用:40,000円~






 ◇◇◇






 色々と考えた結果、害虫駆除は「熱スチーム駆除」「熱湯駆除」「ドライアイス駆除」「アルコール駆除」「吸引駆除」に限定したほうがよさそうだと判明した。


 農薬を使うと、配管周辺の隙間をシール処理したり、ビニールシートによる養生を行ったり、作業の前後三日ほどは薬剤を撒く区画に周知の張り紙を出す必要があったり、使用薬剤名と希釈量の報告書を会社で五年間保持し続ける必要があったりと、結構面倒くさいことが分かったのだ。


 それに、薬剤は害虫の卵には効果が薄く、熱処理の方が効果がある。

 もろもろを考えると、わざわざ殺虫剤を噴霧するのは俺には合わないやり方であった。


(俺の虫を操る能力との兼ね合いもあるしな……。正直、俺は虫の駆除をやりたい訳じゃなくて、虫をたくさん"仕入れられる"場所が欲しかっただけだしな)


 このやる気のなさである。

 俺は害虫駆除だけで食べていきたいわけではないのだ。虫を操る能力と相性がいいから害虫駆除業者になろうと考えただけで、そこに強い動機はない。


 値段設定も相場より高めに設定してある。

 少しでも安い業者を利用しようとする人たちと仕事をするとトラブルを招く可能性が上がるので、値段を高めにしているわけだ。得てして細かい値段を気にする人たちの方が、仕事の細かい部分で面倒くさいことを言ってくる可能性が上がる。






 ちなみに、全く経験なしでは話にならないので、他の害虫駆除業者のところで並行してアルバイトも行っている。

 これは、道具の使い方、報告書の様式、事務所の雰囲気、その他もろもろを勉強するためである。

 たかが週二日の、お遊びみたいなアルバイト。しかし学ぶことは非常に多かった。


(競合業者になるのにこんな俺をわざわざ雇ってくれる変な人いるのかよ、と思ったけど……)


 いた。

 変な人もいるものだ、と俺は思った。


『VirtualTubeに動画撮影するために、機材を持ち込んで撮影が必要』

『VirtualTube用のネタでたくさん虫を捕まえる必要があるから、仕事中に捕まった虫は持ち帰りたい』

『賃金は最低賃金でもいいので、可能なら週二勤務としたい』


 そんなよく分からない条件を出しても、OKしてくれる人はいるもので、まさに捨てる神あれば拾う神ありである。

 特に受けが良かったのは、Vtuberをやっているという点だった。

 流石にどんなチャンネルをやっているかとかは教えられなかったが、あれこれ興味を持ってもらえて即採用となった。


 良くも悪くも零細企業。

 社長のワンマン経営であり、変な奴でも社長に気に入ってもらえたらそれで雇用になる。


「へえ、しいたけ栽培とかフリマ出展とか、色々やってるんだねえ。若いっていいなあ! 儲かるいいネタあったら俺にも教えてよ!」

「もちろんですよ、社長! むしろ僕も色々社会勉強させてください!」


 個人事業主と距離が近いと、いろいろと普通ではできないこともできる。

 美味しい酒を飲ませてもらったり、仲良くしている税理士や弁護士を紹介してもらったり。顧客から持ち込まれた法律がらみのトラブル事例だって勉強させてもらえる。


 まだまだ開業したばかりだし、顧客開拓も全然上手くいっていないのだが、それでも見返りは十分である。


 虫を大量に虫かごに捕まえたときは「気持ち悪い奴だなあ」と笑われたものだ。

 虫の閉じ込められている琥珀のお守りを見られた時も、爆笑されてしまった。


 だが、Vtuber活動で詳しくなったPC環境周りや機材周りの知識を披露したり、動画再生数あたりの収益を教えたり、今までやってきた商売の話をすると、途端に面白いやつ扱いされ始めた。


「いやあ、灰根くんさえよかったらうちの従業員として雇いたいんだけどねえ! もちろん社員待遇で!」

「食いっぱぐれたときには是非とも頼らせてください。今はまだ自分の力を試したいっすね」

「はっはっは! 若いっていいねえ!」


 こういうところから広がっていく縁がある。

 異世界に転移できるからといって、人付き合いを避けて生きていくのは難しい。


 この先たとえ、俺が異世界で王様のような生活ができるようになったとしても、俺はきっと今のような生活を選ぶだろう。

 現代日本で、こんな風に気ままにアルバイトをして、裏でもっと大きな金を狙いに行くような、そんな生活。


「じゃあまたねえ、灰根くん! 今度は俺が行きつけのバーに連れて行ってあげるよ!」

「ありがとうございます! ではまた!」


 虫をたくさん仕入れたいし、業務のやり方を勉強したいからやっているだけのバイトなのに、案外心地よい環境だった。これならもっともっと続けてもいいだろう。

 まあ、どんな仕事でも「自分の勉強のため」と思って週二日だけ働くのなら、楽しいものなのかもしれない。今の俺はある意味、社会の苦労から解放されている状態だった。

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