第45話 (続き)路上でのライトセイバーバトルと、出店の権利②

 ――街の広場と道路の一部をしばらくお借りしたい、お金は出す。


 そんなよくわからない要望を出してきた青年を見て、商人ギルドの職員は(こいつはカモだ)と思った。


 この街、ミュノス・アノールは、ミュノス城伯の所領地であり、都市君主制により統治されている。しかし都市としての規模が大きくなってしまっているため、事実上、行政の一部については有志の上級市民の力を借りて運営されている。


 例えば商人ギルドもその一つ。

 都市法に基づいて行政の一部を委任されている商人ギルドは、都市条例に基づいた申請認可の権利をもっており、『街の広場を一時的に借りたい』という申請もそれに基づく。


(大道芸人がわざわざ金を払ってウチに断りを入れるなんて、馬鹿正直なやつもいたもんだな。普通は憲兵に賄賂でも積んで話をなあなあにするぐらいだと思っていたが)


 通常、路上で店を開いたり、見世物を行うには許可が必要となる。

 だが吟遊詩人が歌を吟じたり、大道芸人が芸を披露したり、靴磨きが靴を磨いたりする分にはいちいち許可を求めたりしない。お目こぼしというやつだ。第一、そんなことに稼働を割いていられるほど暇ではない。

 度を越えた迷惑行為でない限りは問題は起きない。何かあっても憲兵にお金でも握らせておけば事足りる。


 もちろん、馬車や荷車をふさいだりするのは迷惑行為として処分対象になる。

 だが、こうやって正面切ってお金を支払って許可を取りに来たのであれば、話は別である。申請内容にもよるが、今回青年が申し出てきた内容だけであれば、別に問題はないと思われた。


(模造剣と模造剣で戦う演技をやりたい、ねえ……? そんな前例特になかったが、まあ紙芝居屋や人形劇屋が路上を借りて劇をやるのと同じような対応でいいだろ)


 人気の剣闘士同士が戦うとかならともかく、だけなんて、、とこの商人ギルドの職員は判断した。

 それが大きな過ちだったと発覚するのは、後になってからのことであった。






 ◇◇◇






『すみませんが、人手をお借りしたいです。入ってくると危ないので、間違って入ってきそうな人を注意して戻す人を何人かください。それと、人ごみに紛れてスリを働いたりする良からぬ輩を捕まえる人も欲しいです』


『この近くに店を出す場合、この名刺を配ってほしいです。俺たちハイネリヒト商会の宣伝になると思っているので……』


 ひょっこり偶然出会ったアルバート氏には、いくつかの頼みごとをした。

 もちろん、そんなに難しいことはお願いしなかった。きちんと撮影できるスペースを確保すること、そして名刺を積極的に配ること。その二つさえしっかり出来ていればあとは特に要らなかった。


 光刃を振り回す。

 激しい戦いを繰り返す。


 こういうのは夕方になってくると、光が強調されてなおのこと見ごたえがあった。

 実際、気を利かせてくれたアルバート氏が、わざわざ松明まで持ってきてこの辺一帯に設置してくれたぐらいである。

 要するに、夜もやってほしいということだ。


「もっとエールを持ってきてくれ!」

「いいぞいいぞ! こっちに肉串追加で10本頼む!」

「いけー! もっとやれー!」


 辺りはちょっとしたお祭りのようになっていた。

 縁日の屋台のような店がいくつか近くに出店されていた。許可をとっているのかどうかさえ怪しい店だが、まあ、このご時世は何でもありというものだ。

 酒が飛ぶように売れて、激しい戦いになれば歓声が沸き起こった。


 目にも留まらぬ速さで光刃を振り回トワリングし、それを舞い踊るがごとく操るゾーヤに、拍手喝采が起きた。

 カトレアの二刀流の剣舞トワリングも迫力があって見た目も派手で負けていなかったが、やはりゾーヤの方が一段上手である。

 派手な分、カトレアの方が拍手は多かったが、ゾーヤがデュアルセイバー(上下両方から光刃が出るロマン武器)を使いだした瞬間、歓声が一気に爆発した。


(アルバートさんが気を利かせて用意してくれた楽団もいい効果になってる。タイミングを見てシンバルを叩いたりラッパを吹いたりするだけなんだけど、それでも臨場感を高めてくれている)


 やはり二人とも流石は剣闘士というべきか。

 これが素人同士の戦いであれば、見るに堪えないものだったろう。


 しかし、この二人の戦いは『見栄え』という意味で非常に洗練されている。見ていて格好いいし、引き込まれるし、息を呑むような劇的な展開が続く。見せ場を作るのが上手いし、ためを作るのも上手なのだ。


 もっと愚直に、直線的に喉を突きに行くとか、一瞬で勝負を終わらせにかかるとか、そんな真似はしない。もっと実践的な闘いかただってたくさんあるだろう。

 だが、二人はそんなことはしなかった。

 きちんと命のやり取りの流儀を知っているからこそ、あえてそれを避けているようであった。


 武術に心得がある二人が、阿吽の呼吸で、派手な戦いを作り上げているのだ。


(大成功じゃないか、まさかこんな簡単なことで人が一気に集まるなんて……!)


 気付けば、周囲の人たちはざっと百人を超えていた。

 日本ならともかく、この異世界イルミンスールでこんなに人があつまるなんて中々ないことである。路上でのパフォーマンスであれば尚のことである。


 バズ動画を作るだけのはずだったのだが、何だかどんどんいい方向に話が膨らんで行っている気がする。スマホを掲げる手が思わず震える。

 俺はもしかしたら、とんでもない成功を引き寄せているのかもしれない。











―――――

 軍事指揮官や官吏の任免権などの強力過ぎる権利、徴税権や農村支配権などの皇帝特権に関する権利は当然、ミュノス城伯に帰属する不可侵の領域です。

 商人ギルドには条件付きで一部の権利を委任されている(中世イギリスのジェントリや中世北ドイツのハンザ商人が、まだそこまで権力を持っていない……ぐらい?)というイメージで書いています。

 商人ギルドが行政に口を挟むとなると、いよいよハンザ同盟っぽく自由都市っぽくなってくるよなあと思いつつ……(でも細かいところはテキトーにノリで書いてるので、ご容赦ください)


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