第49話 勝手に人を増やして呆れられるなど
――激動の一週間だった。
ひたすらライトセイバーバトルの動画を撮り続け、ひたすらライトセイバーバトルの剣劇を異世界で披露し続けた。
体力の続く限り動画を編集してVirtualTubeにアップロードし、TicTocやTwriterなどのSNSを活用して宣伝に努めた。
瞬く間に動画の再生数が伸び続け、VirtualTube、ペコペコ動画、TicToc、それぞれの動画サイトで一気にランキングを駆け上った。
結果、ハユの歌ってみた動画や、パルカのハンドメイド動画、アルルの料理動画も再生数が伸びた。放置されていた、いわゆる弱い動画さえも、再生数が千回弱ほど回った。
Insightamのアカウントもフォロワーが数百人弱増えた。
Amazing Candleに出しているグラビア本もやたらとダウンロード数が増えて、累計で5000ダウンロード追加された。
控えめに言って快挙である。
快挙ではあるのだが――。
(たとえ動画で1000万回以上の再生数に達したとしても、全然関係ないジャンルの他動画だったら1000回程度しか再生数が増えないのか……。Insightamも、アルルの料理アカウントやパルカのハンドメイド紹介アカウントは百人程度しかフォロワーが増えなかったし、何というか、世界を制した感はあんまりないな……)
俺は苦笑いを隠せなかった。
肩透かし感は否めない。何というか『今まで到達できなかった新たなステージにたどり着いた』という感じではなかった。
ただまあ、一か月真剣に頑張ったらたどり着けるかなという数字を「ライトセイバーバトル」からの横展開だけであっさり稼いだという意味では、ちょっとしたボーナスのような感じではあった。
トップクラスのVirtualTuberと言えば華やかなイメージがあったが、案外そんなものらしい。
たとえVirtualTubeで『世界一再生された動画(一週間)』を作ったとしても、それはVirtualTube内では凄いかもしれないが、外の
とはいえ、たかが動画と言う勿れ。嬉しいこともあった。
Wikimedia、ペコペコ大百科、Pixy百科事典などに個別のページが作られた。
何故かは知らないが、著名なアーティストや好きな漫画家にSNSのアカウントをフォローしてもらえた。
嬉しいこともあれば、少々頭を悩ませるようなこともあった。
企業アカウントから「ファングッズを作りませんか?」とDMが届いたり。
怪しいアカウントから「貴方の動画を中国語に翻訳してあげるからお金をくれ」とDMが届いたり。
よく分からない個人アカウントから「○○路線沿い住みですか?」みたいな不躾なDMが届いたり。
酷い場合は、出会い系目的のアカウントから「興味ありますか?」みたいな謎の自信にあふれたコメントと共に、局部の拡大写真を送り付けてくるDMも届いたり。
有名になるということは、そういう連中に見つかるということでもある。これが有名税というやつだろうか、と俺は詮無いことを考えた。
「……
「あー、うん、そうかも」
ゾーヤに苦言を呈されてしまった。
というのも理由は単純明快である。忙しすぎて、人を更に四人追加で雇ったからである。
はっきり言って、ゾーヤもパルカもアルルもカトレアもハユも全員忙しくなってしまった。料理は辛うじてアルルがやってくれるとはいえ、他の家事をやってくれる人を雇った方がいいぐらいの状況に陥ってしまったのだ。
動画をひたすら撮影し、それを編集し、隙を見て砂糖や胡椒を売ったり、家事をこなしてくれるお手伝いさん。そんな人が欲しいということをアルバート氏に相談した結果、見事にそれに適う人物がやってきてくれたのだ。
で、つい調子に乗って四人も雇ってしまった。
生活が楽になる――と聞いて即決してしまった。
そして今に至る。
「先に言っておくと、基本的に『けもっ娘』は五人でいくからな。お手伝いさんは増えたけど、基本五人の路線はぶれないからな」
「そこの心配はしてないのだが……」
ゾーヤは何とも言えない顔をしていた。
追加で雇ったのが四人全員女性だったのが気に食わなかったのだろうか。
「クモ娘、タヌキ娘、アンデッド娘、パペット娘、どの子も今のところはお手伝いさんに過ぎない。アンデッドやパペットの子は夜あまり寝なくても働けるらしいから雇ったし、タヌキの子は金勘定ができるって言ってたから雇った。クモの子は洗濯、裁縫、お掃除要員だよ」
「……でも顔は、
「あー……。うん、まあ、でもそれは四人に絞る際にちょっと考慮したというだけの話で、主要因じゃないよ」
正直、四人増えようが食費はびくともしない。
こちらの世界イルミンスールの方であれば、正直いくらでもお金を稼げる目途が立ったからである。なのでこちらで稼いで、こちらで食材を調達してしまえば事足りる。
どちらかというと、日本円の方をさらにたくさん稼がないといけなくなってしまった訳だが――。
「こんな様子で、果たして例のサロンは上手く乗り切れそうなのか? 新しく増えた連中はまだまだ見習いもいいところで、全然使い物にならないぞ」
「……まあ、サロンに連れて行くとしたらゾーヤ一人ぐらいだよ」
耳に痛い指摘である。
四人増えたものの、全然サロン要員にならない。貴族相手の作法は怪しいし、俺の商売についてまだまだ深く知っているわけでもない。
どこまで喋っていいかを判断できるほど知識もないだろう。幾ら契約魔術で『余計なことを喋るな』ときつく縛っても、今度は何が余計なのか判断もできず何もしゃべれなくなってしまうに違いない。
さりとて、
しいて言うなら、パルカの機転に多少期待してもいいかもしれないが、そこに期待を寄せるほど切羽詰まった状況でもない。
故に、消去法で考えても、俺の付き人はゾーヤ一択になる。
四人増えて、一気に我が家の人手不足が解消されたにも関わらず、そこの人員はゾーヤ頼みのまま変わらないのである。
「……四人のうち一人ぐらいは、どこか裕福な家の元家政婦だった老婆だとか、そういう作法に明るい人を雇っておくべきだったのではなかったか?」
「面目ない」
「……全く、私しかいないとはな、全く」
大げさにしかめっ面を作ってゾーヤはため息をついた。
ちょっと嬉しそうに尻尾が揺れていることについては、一切指摘しないことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます