027.え。あ、じゃあ、薬師ギルドに登録するよ
「ショーゴ。あんた薬師ギルドに登録しときな」
「え、登録?」
次の日。
早速、ミメアの誘いに乗ってルトの家を尋ね、昨日やり残した薬草の調薬を行っていたら、唐突にミメアからそう聞かれて、思わず聞き返してしまった。
「おや、ルトから聞いてないかい? 『調薬』と『薬草知識』のスキルを習得出来るくらいの技量と知識があったなら、もうあとは大銅貨一枚の登録料があれば、薬師ギルドには登録できるんだよ。もうショーゴは『調薬』のスキルを習得したし、薬草採取の手際からして『薬草知識』のスキルも持っているんだろう? なら、早めに登録しといた方がいい。登録料は多少かかるが、薬師ギルドに登録しておけば、何かと便利だよ」
丁度、昨日の帰り道にその事を考えていたこともあり、少しドキッとしてしまう。
「昨日は時間が無くてその辺りの事は話せなかったね。丁度いいから、薬師ギルドに登録すると使えるサービスを教えてやるよ」
そうしてミメアは、薬師ギルドに登録することで使える薬師ギルドのサービスを詳しく教えてくれた。
それらは俺が薬師ギルドで聞いた情報と大体同じだ。
要約すると大体こんな感じか。
まず、公開レシピの閲覧許可。
その地域で昔から使われている一般的な薬であれば、大抵のレシピが薬師ギルドに登録されているそうだ。それは薬師ギルドに登録した薬師であれば、誰でも閲覧できるらしい。
次に調薬室の貸出。
薬師ギルドには一通りの器具が揃った調薬室が幾つかあるそうだ。それらは、薬師ギルドに登録した薬師であれば、使用料を支払うことで借りることが出来るらしい。
それから、専用の薬瓶や調薬に使う器具、また調薬に必要な素材の購入。
薬師ギルドに登録した薬師であれば、専用の薬瓶を購入できることは知っていた。
けれど、薬師ギルドでは他にも、調薬に使う器具の購入や、調薬に必要となる素材の購入も出来るそうだ。
この素材は冒険者ギルドから買い取ったものを、薬師ギルドが最低限の下処理をした上で薬師たちへ販売しているらしい。当
また、薬師ギルドに在庫が無い場合でも、薬師ギルド経由で冒険者ギルドに素材を依頼すると、素材は薬師ギルドで加工した上で渡してくれるようだ。
最後に薬の買い取り。
薬師ギルドでは、薬師ギルドに登録済みの薬師から薬の買い取りを行っており、多少販売価格よりは低い価格になるけれど、出来上がった薬を買い取ってくれるそうだ。
個人で薬師をやっている場合、自分で薬屋をやっていたり、薬を必要とする得意先を持っていたりする薬師もいることはいる。実際、そうした方が薬師ギルドを通すより、高く薬を売ることが出来るそうだ。
けれど、薬師というのはどうしても調薬に集中してしまい、そちらを疎かにするものが多いため、薬師ギルドでは薬の買い取りと一般への販売も手掛けるようになったらしい。
「あとはサービスってのとは少し違うが、前に言ったランク制度もあるよ。ランクが高い薬師ほど、色々なサービスで優遇されるようになるのさ。だからまずは、薬師としてのランクを上げるのを目標に、様々な薬の調薬を行っていくといい」
確かに便利ではある。
それは分かるけど。
「でも、ここに来れば調薬は出来るでしょ。なら、今はいい。それとも、ボクがここに来るのは迷惑?」
「はっ、別に。登録だけでもしとくといいって話さ。そんなに嫌なのかい?」
「嫌って訳じゃないよ。ただ、ミメアさんやルトさんには色々と助けてもらってるから。出来るなら調薬はここでやりたいなって」
「ふーん。おまえさん、その幼さで随分とややこしい考え方をするんだね」
ミメアは俺の顔を見て、呆れたような表情を浮かべた。
「ショーゴ。あんたは別にあたしの弟子ってわけじゃないんだよ?」
俺がミメアの弟子じゃない?
そんなこと、別に分かっている、はず、だったけど、思い返してみれば、何となくそんな風に思っていた自分がいたように思う。
そうか。そうだよね。
俺はミメアの弟子って訳じゃないんだ。
なんだろう。
当たり前なことなのに、どうしようもなく、悲しい。
「やっぱりボクはここにいない方が良かった?」
口から出たのはそんな言葉。
なんだか、何もかもが分からなくなってくる。
するとミメアは、そんな俺をみて溜息を一つ吐いた。
「はぁ。だからあんたは、難しく考え過ぎなんだ。あんたがもし、あたしの弟子にしてくれって頼み込んできたんなら、あたしは喜んであんたを弟子にするよ。でも、あんたはあたしの弟子になりたいわけじゃないだろう。立ったら別に、弟子になる必要なんかない。でも、弟子であろうと無かろうと、あんたがルトの大切な友達であることに変わりは無いし、あたしが見込んだ薬師の卵であることにも変わりは無いんだ」
「あんたは、来たいときにここへ来りゃいいんだよ」
それで、いいんだろうか?
そんなに無責任でいいんだろうか?
そんな好き勝手して、いいんだろうか?
「あんたは自由にしていいんだ。薬師ギルドに登録して、もしそっちの方が調薬しやすいってんなら、それからはそっちで調薬をすりゃいい。ま、薬師ギルドの調薬室よりか、ここの方がタダで使えるし、便利な器材も十分に揃っているがね」
ミメアは最後にニヤリと強気な笑顔を見せて言う。
そして、いつものようにポンポンと俺の頭を撫でてくれた。
「ああ、そうそう。薬師ギルドへ登録に行くのなら、ルトと一緒に行っちゃどうかね? あの子も昨日、『調薬』のスキルを習得することができたからね。そろそろ、登録する必要があるのさ」
「うん、一緒に登録へ行きたい。ミメアさん、ルトさんに伝えておいて」
「分かった。あたしから伝えとくよ。さあさ、これで話はお終いだ。そろそろ調薬に集中しな。『調薬』のスキルがあったとしても、集中しとかないと良い薬は出来ないよ」
「うんっ!」
憂いが消えた俺は、気合を入れて初級回復ポーションの調薬に集中した。
「うんうん。三十本の初級回復ポーション。全部、いい出来だ。これも全部、あたしの方で薬師ギルドへ売っちまっていいんだね」
「お願い」
「はいよ。ほら、代金の大銅貨三枚だ。受け取りな」
ミメアから、大銅貨三枚を受け取る。
これで手持ちは、大銅貨六枚と銅貨二枚に鉄貨八枚。
大銅貨一枚を薬師ギルドの登録に使ったとしても、まだ大銅貨五枚が余る。
この調子で稼いでいけば、稼ぎが銀貨になるのも時間の問題だ。
そうなれば、一年以内に金貨一枚という大金の返済だって、夢では無くなる。
勿論、金貨一枚を稼げたからといって、稼ぐのを止める気は無い。
金貨一枚の稼ぎは、最低限の返済目的だ。
俺の最終的な目的は、借金の完済である。
その為にも、途中で立ち止まる気は無い。
調薬を終えて、ミメアの家からの帰り道。
俺は先のことについて、考えていた。
薬師として本格的に稼ぐ目途が立つなら、宿舎を出ることも選択肢の内に入れとく必要がありそうだ。
冒険者ギルドの宿舎をタダで使えるのは、非常にありがたい事だった。
でも、宿舎を利用し続けるには、手伝い級として雑用依頼を受けなければならないっていう制約がある。
雑用依頼の報酬は安いものが多いけれど、宿代が必要ないって考えれば、今までは十分に元が取れていた。
でも、これから薬師として稼げるようになれば、宿代くらい簡単に支払えるほどのお金を稼ぐことが出来るようになる。
そうなった時、雑用依頼に時間を使わなくちゃいけない冒険者ギルドの宿舎は、ちょっと割に合わない。
勿論、宿舎で暮らすことは、宿屋に泊まる以上の色々な利点があったけれど、それを加味しても雑用依頼の時間に薬の調薬をし続けた方が儲かるだろう。
まあ、宿舎を去るとしても、別に手伝い級の冒険者を止める訳じゃないのだ。
宿屋からの通い組となっても、たまには依頼を受ける。
町人の仕事に直接関わることが出来る冒険者ギルドの雑用依頼は、俺がこの世界を知るために、最適な仕事だから。
薬師として稼げるようになったとしても、これを止めるつもりは無い。
先の先まで考えれば、薬師だけであの大金を完済できるとは思えないから。
ただ、今すぐに宿舎を出て、宿屋住まいになる気は無い。
それはあまりにも不安すぎる。
まだ、暫くは雑用依頼を熟しつつ、あの宿舎のお世話になるつもりだ。
まずは調薬で安定して稼げるようにならないと。
そうじゃなきゃ、安心してあの宿舎を出ることは出来ない。
全ては薬師ギルドに登録をしてからだな。
とはいっても、宿屋事情は気になるところ。
今すぐって訳じゃなくても、考えておいた方がいいよな。
宿舎を出て自由に暮らすなら宿屋暮らしが定番だけど、前に調べた宿屋の宿泊代はそれなりにした。
安い所なら一泊銅貨数枚って所もあるけど、安全や住み心地を考えるともうすこしグレードは上げたい。
せめて、冒険者ギルドの宿舎レベルは最低でも欲しいところ。
でも、そうなると一泊に掛かる費用は、大抵が大銅貨一枚以上になる。
冒険者ギルドの宿舎って、ホントにお得な住処だったんだよな。
イストールには多くの宿屋がある。
その中で、俺が調べたのはほんの一部に過ぎない。
あの時は、宿屋に泊まる所じゃなかったから。
宿舎にいる子たちに、お勧めの宿屋についてちょっと聞いてみようかな?
本人が泊まったことは無いだろうけど、雑用依頼で働きに行ったことはあるかもしれない。
薬師としての稼ぎがどの程度になれば、宿舎を出て薬師に専念できるのか、そこで掛かる費用も計算に入れて、一度考えてみよう。
さあさあ、賽は投げられた。
ギフト『捧金授力』は、力を発揮し、スキルは稼ぐ力となる。
まずは一つ、薬師として。
精一杯、稼いでいこう。
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