026.初級回復ポーションの調薬で儲けよう
俺が一人で行った初級回復ポーションの調薬は成功に終わった。
その後、もう一度ルトと俺がそれぞれに初級回復ポーションの調薬を行った所で、今日の調薬練習は終了。
最後にミメアが、俺とルトの調薬に対して総評を行う。
「ショーゴは随分と時間をかけて丁寧に調薬を行っていたね。その分だけ、出来上がった初級回復ポーションの品質は良質だ。全く、ショーゴは前回から比べて、信じられないくらいの成長だよ。調薬したのが簡単な初級回復ポーションとはいえ、たった三度の調薬でそこまで出来るようになるなら、それはショーゴに才能があるってことだ。その熱意と言い、根気と言い、あんたは薬師に向いているよ。あたしにはショーゴの将来について、とやかく言う資格は無いが、出来るならそのままの熱意で調薬に取り組んでほしいね」
頭をポンポンと撫でながら、ミメアは俺に対して優しく言った。
今度は前回のように涙こそ出なかったが、何だか胸の奥がこそばゆくなる。
なんだろうね。悪い気はしないけど。
「それからルト。ルトも二度目は時間をかけて調薬を行っていたね。いつもより丁寧に調薬が出来た分、薬の品質が上がっているよ。年上だから、先輩だからと驕らず、ショーゴの調薬からよく学んでいるね」
そうしてミメアは、ルトの頭もポンポンと撫でた。
ルトは少し恥ずかしそうに、けれど誇らしげに笑っている。
「調薬で重要なのは出来上がりの品質だ。最初はどれだけ時間が掛かってもいい。正しい手順で調薬を行うことが大切なんだ。時間の短縮なんて、それを繰り返していけば、次第に慣れて早くなっていくもんさ。あたしは慣れちまってるから、つい手早く造っちまうが、あんたたちはまだ新米なんだ。今は時間をかけて、丁寧に作っていくことを学ぶんだよ」
その言葉でミメアは総評を締めくくった。
最終的に俺が作った初級回復ポーションはニ十本。
これをそのまま薬師ギルドへ売却した場合、その売値は大銅貨四枚。
ただし、これは売却価格だけを考えた場合だ。
当然のことながら、それをそのまま得るわけにはいかないだろう。
「さて、ショーゴ。作った初級回復ポーションはどうするね? 薬師ギルドへ売りに出したいのなら、ルトのポーションと一緒にあたしが売っといてやるよ」
「お願い」
「わかった。じゃあ、薬瓶の分だけ引かせてもらって、初級回復ポーションがニ十本で大銅貨二枚だ。ほら」
専用の薬瓶の値段が確か、一本銅貨一枚。
それがニ十本だから大銅貨二枚分。
それを初級回復ポーションニ十本の売値から引いて、残るのが大銅貨二枚。
「いいの?」
「ん、何がだい?」
「そのままもらっちゃって」
もうすこし、引かれるものと思っていた。
器材の使用料とか、授業料とか。
「ああ、器材を使った代金とかかい? そんなもん、子供が気にすることじゃ無いよ。別に減るもんじゃないし、ルトの勉強にもなっている。あんたはそんなこと気にせず、こいつを受けとりゃいいんだ」
ミメアは強引に俺の手へ、二枚の大銅貨を握らせた。
「それからもし残った薬草の調薬がしたかったら、明日以降も時間がある時にここへ来たらいい。ヒエラとトーラは比較的、採取してから長く薬効が保つ方だが、出来ることなら早めに調薬してしまった方がいいからね。それにそろそろここまでの道のりも覚えたろ? わざわざルトと約束してから来なくとも、次は一人で来たらいい。あたしは大概、ここにいるからさ」
手元には確かに、今日使いきれなかったヒエラ六束とトーラ三束が残っている。
どうせなら、早めに初級回復ポーションへ調薬してしまいたかったけど、本当にいいのだろうか?
俺にはミメアにそこまでしてもらう理由が思いつかない。
ルトの知り合いだから?
「なんでボクにそこまでしてくれるの?」
思わず俺は、そう呟いていた。
「ルトの友達、ってのもあるけどね。それ以上に、あたしがあんたの事を気に入っちまったのさ。あんたにはそれだけの才能がある。ステータスを見てみるといい。きっともう、『調薬』のスキルを習得出来ているハズだよ。その歳で、そこまで才能を開花させることが出来るなんて、そりゃ得難いことさ。あたしはそんなあんたが何処までやれるのか、見てみたくなっちまったんだよ」
『調薬』のスキルを取得したことは、完全にばれている。
ただ、それをおかしいとは思っていないようだ。
ギリギリではあるけれど。
俺はその事実にホッとして、ちょっとだけ居た堪れなくなった。
才能なんて言われても、それは所詮、神から与えられたギフトの力だ。
俺が特別なわけじゃない。
でもまあ、それは俺の気持ちの問題だ。
金を稼ぐという目的において、ミメアの勘違いは非常にありがたい。
ここはミメアの厚意に甘えて、使わせてもらうことにしよう。
「さよなら、ミメアさん」
「ああ、気を付けてお帰りよ」
ミメアに別れを告げた俺は、ルトと共に冒険者ギルドまで向かった。
ミメアの言う通り、冒険者ギルドからルトの家までの道順はもう覚えているけれど、念のためだ。
「今日はありがとね」
冒険者ギルドまでの道すがら、何故かルトが唐突に俺へ感謝を告げてきた。
「え、なにが?」
「今日のショーゴくんの調薬、すごく参考になったから」
確かにミメアもそんなことを言っていたけど。
「それはルトさんが頑張ったからじゃ」
「ううん。実は最近、調薬の練習がうまくいってなかったんだ。初級回復ポーションの調薬は出来るよ。でも、肝心の『調薬』のスキルを覚えることが出来なくて。多分、あと一歩って所だと思うんだけど。それで悩んでた」
それを語るルトの表情には、確かな苦悩が浮かんでいた。
「でも、今日の君の調薬を見ていたら、気が付いたんだ。僕は焦りすぎてたんだって」
「焦るって?」
「僕の調薬のお手本はずっと師匠、おばあちゃんだけだったんだ。だから僕はおばあちゃんのお手本を完全に真似できるよう必死に頑張ってた。でもね、おばあちゃんと僕じゃ、調薬の技量が違いすぎたんだ。当たり前のことなんだけどね。ショーゴくんの調薬を見ていて、僕はようやく気が付いたんだ。僕はおばあちゃんの真似をするだけじゃなくて、もっと今の僕の技量にあった調薬をするべきだって」
「それが焦るってこと?」
「そう。それで僕もゆっくりと調薬をしてみたら」
ルトはそこで、俺に向かって満面の笑みを浮かべる。
「今日の調薬練習で『調薬』のスキルを覚えることが出来たんだ」
ルトも今日、『調薬』のスキルを習得した。
それも俺の調薬を参考にして。
全然、気が付かなかった。
確かにルトが行っていた今日の二度目の調薬は、時間をかけて丁寧に行っていただけあって、一度目の時よりも間違っている部分が減っていたようには思う。
でも、その差はそこまで大きなものとは思えなかった。
『薬物知識』のスキルレベルが低いせいか、俺には出来上がった初級回復ポーションの品質までは見極めることが出来ないけれど、一度目と二度目の間に大きな違いがあるとは思えない。
ならば、きっとルトが言った通り、本当にあと一歩だったのだろう。
ルトが『調薬』のスキルを得るまで。
「おめでとう」
「うん、ありがと。それで、ショーゴくんも『調薬』を覚えたんだよね?」
「う、うん」
「やっぱり! それじゃ、こっからは一緒に頑張っていこうね」
「そうだね、うん」
気まずい。
ぽっと出の俺が、あっさりと『調薬』のスキルを得て。
それでもルトは、それを疎むでも無く喜んでくれている。
俺はこれから調薬で稼いでいく気だ。
その気持ちで俺は『調薬』のスキルを取得した。
俺が『調薬』のスキルでもっと稼ぐためには、どんどんスキルのレベルを上げていくことになるだろう。
その速度にルトは追いつけない。
だって俺は、ギフトの力を全力で活用するから。
それが分かっているだけに、一緒に頑張って、という言葉には、どうしても気まずくなってしまう。
今はまだ、ルトも俺の成長を喜んでいてくれるけど、これから先は違ってくるかもしれない。
それを考えると、どうしても憂鬱になってしまう。
でも、今の俺では一人で調薬を行う事は出来ない。
設備も、伝手も、知識も、何もかもが無いのだから。
そう、知識も問題だ。
『薬草採取』は誰に教えられたわけでも無く、目にした薬草の採取の仕方をスキルが全て教えてくれていた。
でも、『調薬』はどうやら違うようなのだ。
『調薬』のスキルは調薬の技術と、その先に起こる結果を何となく察せるだけで、新しい薬の調薬工程までが分かる訳では無い。
『薬草知識』と『薬物知識』の二つがあれば、薬の効能とその効能を持つ薬草までは何とか自力で見つけ出すことは出来るだろう。
だが、それをどのように調薬すれば、最も効率的な薬を作ることが出来るのか。肝心のそこは、自分で試行錯誤していくしかない。
多分それが、ミメアの言っていた薬師ギルドで調べるべきレシピという奴なのだろう。
俺も薬師という稼ぎ方を選んだ以上、初級回復ポーションの調薬だけで満足するわけにはいかない。
だが、前生の世界でも、新薬を一つ造り出すのには、途方もない金額が必要になると聞いたことがある。
こちらの世界はスキルがある分、多少は楽が出来るようんだが、それでも何の知識も無しに新しい薬を調薬するには、多くの薬草を無駄にする必要があるだろう。
今の俺に、そんな寄り道を行う余分なお金はないのだ。
いや、でも。
今の俺には『調薬』と『薬草知識』のスキルがある。
そして、数枚の大銅貨も稼ぐことが出来た。
だとしたら、もう俺は一人で薬師ギルドに登録することが出来るのではないか?
そうだ。薬師ギルドに登録してしまえば、全ての問題が解決する。
あそこなら、設備は借りることが出来るし、伝手は薬師ギルドそのものがそう。
さらに知識も、一般的な薬のレシピは公開しているって言っていた。
そうだよ、薬師ギルドに入っちゃえば、もうルトやミメアを頼る必要は無くなる。
いや、さすがにそれは不義理が過ぎるよな。
ルトは何も持っていない俺を、調薬の練習に誘ってくれた。
ミメアも俺の為に、色々と助けてくれている。
そんな二人を放って、勝手に薬師ギルドに登録して、そのままさよならなんて。
あまりにも、酷すぎる。
俺はあの二人に助けられたのだ。
せめてもうすこし、あの二人の下で調薬の練習を続けたい。
ルトの調薬仲間として、ミメアの期待に応えるため。
それでもし、関係が悪くなるようだったら、その時は二人に告げて、薬師ギルドに登録すればいいのだ。
うん。そうしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます