023.『薬草採取』と『薬草知識』のスキルを取得して、と

 資料室での探し物の後、まだ時間が余ってたので、俺は町人地区まで繰り出して、薬師ギルドでちょっと話を聞いてみることにした。


 しかし、薬師ギルドの受付で教えてもらえたことは、事前にミメアやルトから聞いていたことが殆どだ。

 それ以上の新たな情報は、あまり出てこなかった。


 まあ、ミメアやルトの話が信用できるという事が分かっただけでも、収穫としては十分だ。

 なにせ、これから行おうとしているのは、俺にとって重要な選択だから。

 何となくだけで、信用した人の情報を信じたくはない。


 もう、他人に騙されたくはないから。




 今日はそこまで頑張って動いたわけじゃないから、あんまりお腹は空いていない。

 冒険者ギルドの酒場で山盛りの夕飯を食べる程じゃ無いだろう。

 それにここ、町人地区には食べ物の屋台が幾つか出ている。

 実は前から、ちょっと気になってたんだ。

 丁度いいから、試してみよう。


 肉や野菜の串焼き、肉を挟んだ野菜、揚げた野菜。使われている野菜や肉の種類はさっぱりわからないけれど、どれも美味しそうな匂いが漂ってくる。

 これはもう美味しいに違いない。


 ど、れ、に、し、よ、う、か、な。


 あちこちの屋台に目移りならぬ、鼻移りしつつ、どれにしようか悩む。

 暫くして、一際おいしそうな匂いをさせる屋台を見つけた。

 なんだろう、どこか安心する匂いだ。


 そこは肉の串焼きの屋台だった。

 肉に何かが塗られている。この匂いで、あの色。

 焦げた香ばしい匂いがまた、食欲を刺激する。


「おじさん、一本ちょうだい」


 気が付けば俺は、その串焼きを買おうとしていた。


「おうっ、坊主。肉串一本、鉄貨五枚だ」


 が、値段を聞いた瞬間、手が止まる。


 冒険者ギルドの酒場でいつも食べている夕飯、手伝い級限定おまかせ定食と同じ値段だ。

 串はそれなりに大きいし、肉も大振りだけど、手伝い級限定おまかせ定食と比べるとその量は段違いである。


 いや、そもそも冒険者ギルドの酒場で食べる夕飯は、手伝い級の為の特別価格だったはず。

 周りを見ても、この屋台が特別に高いという訳でも無い。

 むしろ、手伝い級限定おまかせ定食が安すぎるのだろう。


 ま、物は試しだ。


「はい、鉄貨五枚」


「はいよっ。ほれ、坊主。がっついて舌を火傷すんなよ」


「うんっ」


 鉄貨五枚を屋台のおじさんに渡し、代わりに肉串を受け取る。

 そして早速、串に刺さった肉を一つ口に入れた。


「あつっ」


 熱い。けど、美味しい。

 けど……思っていた味となんか違う。

 いや、美味しいは美味しいんだけど。


 あれ、俺はどんな味を想像していたんだろう?

 何となく思い出せない、ような?

 まあ、いっか。


 俺はほふほふと口の中で熱さと戦いながら、さらに肉串を頬張った。




 宿舎の自室に戻った俺は、早速自らのステータスを表示する。


 名前:ショーゴ(木津間 正午)

 年齢:6歳

 種族:人族

 レベル:3(次のレベルまで、30マレ)

 ギフト:『捧金授力』

 スキル:『無限財布』『共通語翻訳』『生活魔法-2』

 スキルポイント:9

 称号:【非業の死を遂げし者】【商売神の契約者】【異世界転生者】【商売神の恩寵】【生残者】【手伝い冒険者】

 所持金:銅貨3枚

 借金:10,000,000,000,000,000マレ(年内返済目標:100,000マレ)


 残るスキルポイントは九ポイント。

 これを使って、明日のための最後の準備を行う。


 まずは『薬草知識』から。

『薬草知識』の取得に必要なスキルポイントは一。

 スキルカタログを開いて、『薬草知識』のスキルを取得する。


 次の瞬間、頭の中に一冊の本が浮かんできた。


 薬草大全という題名の重厚な本。

 これが、『薬草知識』?


 本を強く意識すると、ページが開き、パラパラとめくれていく。

 そして開いたページには、ヒエラの情報が記されていた。

 さらにページがパラパラとめくれ、次にトーラの情報が記されたページが開く。


 意識すれば、写真のように鮮明な絵と、その薬草に関する情報が思い出される。

 思い出した情報は、昼間に冒険者ギルドの資料室で見つけた紙束に書かれた内容に近い。だが、それを思い出したわけでは無いだろう。

 むしろ、そちらは殆ど覚えていられなかったのに、こちらは鮮明に思い出せる。


 まるで、記憶に刻み付けられているように。


 これが、知識系統のスキル!

 これがあれば、薬草も見つけやすい。


 他の薬草の知識はどうだろう?

 どうやら本のページをめくるには、何かしらのきっかけが必要なようだ。

 さっきは名前と形、情報をきっかけとして、ページをめくったっぽい。


 名前と形で言えば、ルトの家に行った時、見た薬草はどうだろう?

 思い出せる限りを意識してみたけれど、うまくいかない。

 もしかして、スキルレベルか?


 だったら、『薬草知識』のレベルを上げてみる。

 鉄貨一枚を使って、スキルのレベルを一つ上げた。


 お、おお?

 なんとなく、本のページが増えたような。


 思い出せる薬草の名前を意識して、ページをめくっていく。

 すると、ルトの家で見た薬草の情報が記してあるページを幾つか見つけることが出来た。

 少なくとも、ルトが採取していた薬草の種類は分かりそうだ。


 これで明日の薬草採取は、偽物と間違えることなく、前よりもっとたくさんの種類の薬草を採取できる。



 お次は、『薬草採取』のスキル。

『薬草採取』の取得に必要なスキルポイントも一だ。

 そのまま、スキルカタログから取得、と。


 で。


 えーと、どうなったんだ?

 変化は特に感じない。

 ホントに『薬草採取』のスキル、取得出来てる?


 スキル:『無限財布』『共通語翻訳』『生活魔法-2』『薬草知識-2』『薬草採取』


 うん、しっかりと覚えてる。


『薬草採取』、『薬草採取』。

 実際に薬草の採取をすれば、違いが分かるだろうか?


 色々と試してみたけれど、結局違いはよく分からなかった。

 明日の楽しみってことにしておこう。


 とりあえず、こちらのスキルレベルも上げておく。

 鉄貨一枚を使って、『薬草採取』のスキルレベルを一つ上げる。


 やっぱり違いは分からん。


 所持金の残りは銅貨二枚と鉄貨八枚。

 明日稼ぐために、銅貨二枚も使って『薬草知識』と『薬草採取』のスキルレベルをもう一つ上げる。


 スキル:『無限財布』『共通語翻訳』『生活魔法-2』『薬草知識-3』『薬草採取-3』


『薬草知識』のスキルレベルを上げたことで、頭の中に浮かんだ薬草大全に新たな情報が記載された。

 どうやら、新たに記載された情報は、薬草の品質に関してのことらしい。

 これがあれば、薬草の品質について多少の見分けがつきそうだ。

 とはいっても、これで分かるのは、良い、普通、悪いの三段階くらいだろうけれど。


 それにしても、分かっていたことではあるけれど、こんなたくさんの知識を随分とあっさり覚えられたものだ。



『生活魔法』を取得した時も思ったけど、自分の中に無い記憶が当たり前のように存在する感覚には、未だ慣れない。


 当たり前だ。


 本来なら努力を繰り返した末に得られる感覚を、神から与えられたギフトを使ってお金で買っているのだから。


 この世界では、努力の成果として与えられるスキルという力。

 本来ならば足りていないその努力分が、スキルを取得した瞬間、俺の頭へ強引に突っ込まれているのだろう。


 恐らくそれが、この感覚の正体。

 ならば、甘んじて受け入れるべきだ。

 それはいい。


 でも。


 ふとした瞬間に感じる、優越感と罪悪感が混ざり合ったような苦い感情は、どう処理すればいいのだろう。

 周りとの仲が深まるほどに、この感情を持て余す。


 なんて、感傷的なことを考えてみたりして。

 俺ってこんなことを考えるような人間だったっけかな?



 それはともかく。

 これで明日の準備は完璧だ。

 今度はがっつり薬草採取して、たくさん儲けるぞっ!









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