018.「いい加減、スキルを覚えろ」と言われている気がして
薬草採取の依頼の後。
一緒に採取へ行った宿舎組のロダン、レイト、ルークの三人と冒険者ギルドの酒場で夕食を取ったあと、俺は宿舎の自分の部屋へと戻ってきていた。
今はもう、五つ目の鐘が鳴ってから、暫く経っている。
部屋を照らすのは、窓の外から差し込む淡い月の光のみ。
いつもはベッドに寝転がりながら、ステータスのスキルカタログを眺め、眠りにつく時間帯。
でも今日は、椅子に座っている。
明日はルトの家に行って、薬師についてルトの祖母に色々と聞く予定だ。
その結果によっては、いよいよ本格的に稼ぐためのスキルの取得をするかもしれない。
だからその前に、一つスキルを取得してみようと思う。
まず、自らのステータスを開く。
名前:ショーゴ(木津間 正午)
年齢:6歳
種族:人族
レベル:2(次のレベルまで、20マレ)
ギフト:『捧金授力』
スキル:『無限財布』『共通語翻訳』
スキルポイント:5
称号:【非業の死を遂げし者】【商売神の契約者】【異世界転生者】【商売神の恩寵】【生残者】【手伝い冒険者】
所持金:銅貨3枚、鉄貨7枚
借金:10,000,000,000,000,000マレ(年内返済目標:100,000マレ)
新たな項目が追加されているのは、少し前にステータスの表示が弄れると気が付いて、色々やってみたら表示されるようになった為だ。
ちなみに所持金の項目は、『無限財布』の中身を参照しているため、『無限財布』から取り出した分のお金はここから引かれてしまう。
まあ、わざわざ『無限財布』からお金を出しておく必要も無いので、どうでもいいことではあるんだけど。
何だかんだで、スキルポイントが毎回五ずつ貰えるのかも確認してなかったっけ。
お金には余裕があるし、先にレベルを一つ上げておこう。
身体に力が満ちてくる。
また何でも出来そうな気分になってきた。
思わず、口元に笑みが浮かぶ。
でもこれは、ただの錯覚。
レベルアップにそこまでの力は無い。
無い、はずなんだけど。
慣れそうにないな、この感覚には。
そうだ。ステータスを確かめてみよう。
レベル:3(次のレベルまで、30マレ)
スキルポイント:10
所持金:銅貨1枚、鉄貨7枚
うん。
やっぱり、レベルが一つ上がるごとにスキルポイントは五ずつ増えるらしい。
最初だけの特典とかじゃなくてよかった。
お次はスキルポイントを意識して、スキルカタログを開く。
大量のスキルが表示されるけれど、取得するスキルは実はもう決めてある。
暫く宿舎でこの世界の子供たちと暮らすうちに、非常に凡庸性が高く、使い勝手の良いスキルの存在を知ったのだ。
持っている人が多いスキルだから、これで直接、お金を稼げるということは無いが、色々な部分で使うことになるだろう。
勿論、日常生活でも同様に。
そのスキルが、これ。
『生活魔法』
主に生活に役立つ魔法を使えるようになるスキルで、魔法を使う際には魔力を消費するそうだ。
取得に消費するスキルポイントは最低の一。
使っていたアニアの話によると、焚き木に火を付けたり、コップに水を灌いだり、軽い風を吹かして埃を飛ばしたり、土を固めたり柔らかくしたり出来るらしい。
主に魔法を扱うのを得意とする子たちが、最初に覚える魔法がこれなんだとか。
スキルを取得した瞬間、知識が頭に入ってくる。
『生活魔法』を意識すると、その使い方が思い浮かんだ。
「火よ、付け」
『生活魔法』を使うことを意識して、頭に浮かんだ詠唱を口に出せば、突き出した右手の人差し指の頂点に、小さな火が一瞬光った。
火花って感じだろうか。
それは本当に一瞬だけ。
でも確かに、俺の意思で使えた力。
『無限財布』を使った時にも感じた事だけど、やっぱり楽しい。
そして、感動する。
魔法。今、俺は魔法を使っているのだ。
自分の意志で。自分の力で。
いや、商売神から与えられた『捧金授力』が自分の力なのかは微妙なところだけど。
「風よ、吹け」
俺がまた詠唱を口にすると、今度は部屋の中に微かな風が生まれた。
どちらも非常に小さな力だ。
スキルレベルの問題だろうか?
「水よ、満ちよ」
窓の外に向けて水も試してみたけれど、やっぱり出てきたのは雫程度。
最後の土は、
「土よ、崩れよ」
外が暗くて、いまいちわからない。
でも、月明かりでは分からない程度しか動いていないということだろう。
スキルレベルを上げてみようか。
ステータスに表示された『生活魔法』に意識を向けると、レベルと同じようにレベルアップに必要な金額が表示された。
『生活魔法』をレベル二へと上げる為の金額は、鉄貨一枚。
安っ。
思わず、速攻でレベルを上げてしまった。
ステータスのスキルに表示された『生活魔法』の表記が、『生活魔法-2』となる。
それ以外の変化は今のところ感じない。
続けて、『生活魔法』をもう一度発動させた。
「火よ、付け」
突き出した右手の人差し指に灯った火は、先ほどよりも強く光って消える。
火の強さは増した。
着火具として、何とか使えるレベルにはなったかな。
でも、俺がイメージしていたのは、ライターのように火が付いたままの状態を維持している光景だ。
『生活魔法』が正しく使えていたら、そういうことだって出来るはず。
少なくとも『生活魔法』の火を見せてもらった時、アニアは出来ていた。
何が違うんだろう?
………………もしかして。
暫く考えた後、俺はスキルカタログをもう一度開いた。
そして、思いついたスキルを検索する。
あった。
『魔力操作』
魔力を操作する為に必要となるスキル。
魔法を使用する際に、魔力を操作することでその自由度を上げることが出来る。
これが無いと、魔法をうまく扱えない。
本来であれば、『生活魔法』を使っていれば、自然と覚えるスキルなのだろう。
でも俺は、取得しない限り、永久に使えない。
スキル取得に必要なスキルポイントは五。
レベル一つ分か。
ちょっと軽い気持ちで取るには消費ポイントだ。
『生活魔法』自体は、今の状態でも使えないわけじゃない。
「風よ、吹け」
「水よ、満ちよ」
「土よ、崩れろ」
うん。
レベルが上がったことで、どの魔法も先ほどよりは使えている。
風ははっきりと吹き、水は一口分くらい流れた。
土は、やっぱりちょっと分からん。
あとで外へ出た時にでも、改めて確認しよう。
この分だと、次のレベルになれば、アニアから聞いた感じになりそうだ。
ちなみに、『生活魔法』の次をレベルへ上げるために必要な金額は、銅貨一枚。
手元に銅貨一枚くらいは残しておきたいし、今の状況ではちょっと厳しいか。
レベルを上げなければ、こっちのスキルレベルを上げていたかもしれない。
けど、スキルポイントを納得して使う為にも、スキルポイントが次のレベルアップでどの程度増えるのか、しっかりと確かめておきたかったのだ。
お金はまた貯めればいいわけだし、手に入れる手段の少ないスキルポイントの方が慎重に使うべきだろう。
最後に、ルトから聞いておいた薬師に必要なスキルを確認していく。
『薬草知識』
消費スキルポイントは一。
ルト曰く、薬を作る時にもこのスキルがあるか無いかで色々と変わってくるらしい。
薬師としては、必須ともいえるスキル。
『薬物知識』
消費スキルポイントは一。
『薬草知識』の薬物版。調薬をするためには、まずどのような薬物があるのか知る必要がある。その役目を熟すのが、このスキルだそうだ。
その為、薬師となるには必須なスキルの一つ。
ルト曰く、『薬草知識』と『調薬』を学んでいれば、自然と習得出来るスキルらしいけど。
俺の場合は独自に取得する必要があるだろう。
『生活魔法』と『魔力操作』の関係を考えると、『調薬』と共に取得しなければ、調薬がうまくいかない可能性が高い。
『調薬』
消費スキルポイントは三。
素材をかけ合わせて薬を作るのに必要となる、薬師必須のスキル。
ルト曰く、覚えるには薬師という職に対する熱意と、単調な作業を精密に熟し続ける根気が必要となってくため、このスキルの習得は薬師となるための最初の関門と呼ばれているらしい。
『薬草採取』
消費スキルポイントは一。
主に薬草を採取する際に、その薬草の品質を保つ為に必要となるスキル。
ルト曰く、高レベルになると、採取した薬草の品質を上げる効果もあるらしい。
薬師となるために必須なスキルでは無いけれど、素材を扱う上で持っておいた方が何かと便利なスキルなのだとか。
一応、今のスキルポイントで全て取得出来そうだ。
ただ、スキルレベルまで考えると、お金が心許無い。
まあ、明日は見学に行くだけだし、スキルは必要ないよな?
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