004.契約と恩恵について

 契約については、概ね理解したかね?

 ではそろそろ、借金の返済方法についての話に移ろうじゃないか。


 まずは最も重要となる返済するモノについてだが、これはこの世界の人間の間で流通している通貨で構わない。


 ふふふ。

 神である私が人間の金を集めるのが、不思議かな?

 勿論のこと、人間の持つ金を神である私が、本来の形で使うことは無い。


 先にも伝えたことだが、私は商売神。

 商売全般を司る私にとって、世界に流通する金は、私と非常に相性が良い。

 それ故に、私は金を捧げられることで、神としての格を上げることが出来るのだ。

 この格については、レベルとか、存在としての価値だとか、神としての権力だとか、単純に力だとか、好きなように解釈して構わない。


 己の神としての神格を上げること。

 それが私の目的だよ。


 私の望みは伝わったかな?

 それでは次にこの世界で使われる金について、少し教えておこう。


 この世界の通貨は全ての国で共通しており、硬貨の形で存在している。

 通貨の種類は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨に分かれており、鉄貨は十枚で銅貨一枚の価値となり、銅貨百枚で銀貨一枚の価値だ。さらに銀貨百枚で金貨一枚の価値があり、金貨千枚で白金貨一枚の価値となる。他にも、それぞれの硬貨十枚分の大硬貨も存在しているよ。

 あと、肝心の借金の単位であるマレは、鉄貨一枚で一マレだ。


 ちなみにマレという単位に関しては、気にしなくていい。

 今回の為、私が適当に決めたものだからね。


 硬貨の価値は、大よそそれぞれの使用帯を参考にするといい。

 鉄貨は最も多くの者が使う硬貨であり、子供や貧民でも持っている場合がある。

 銅貨は鉄貨の次に使われることが多く、主に一般的な平民の生活費の単位として使われているな。

 銀貨は商人や下級貴族の間で、取引する際に使われる硬貨だ。

 金貨は大商人や上級貴族の間で行われる大口の取引で使われることが多い。

 最後の白金貨は国家間の取引や一部の大商人が暫し使う。

 これはそのまま、使う者たちの稼ぎに直結していると考えてよい。


 そうそう、返済の仕方についても伝えておかなければな。

 借金は各地の教会で私に祈りを捧げれば、返済することが出来る。

 その時、どれだけ返済したいかを思えば、その分だけ君から私の元へと届く。



 あとは借金の利息について。


 さすがに借金の額が額だけに、いきなりその全てに対して利息を当てようとは思っていない。

 それでは何時まで経っても、返し終わることが出来なくなってしまうからね。

 そんなことになれば、君が借金の返済を諦めてしまうかもしれない。

 何よりも商売を司る者として、一方だけが得をするというような契約は好みに反する。

 良い商売の鉄則は、相互利益。

 借金の返済とそれで得られるものが、君の中で釣り合わなければ、この契約に意味は無い。


 だが、だからと言ってずっと何も無しでは、いつまでも返済が進まない可能性もある。

 それ故に、今回は少し特殊な形の利息を考えた。


 ちなみにこれから行う説明は【商売神の契約】にも記されていることだ。

 忘れてしまったり、もう一度確認したいときは、ステータスの称号に意識を集中するとよい。


 で、利息の内容についてだが。


 まず、君が一年の内に返済すべき目標金額をこちらで設定させてもらった。

 もしその一年で目標金額に達しなかった場合、この目標金額に対して一パーセントの利息が借金に加算され、加えて次の一年の目標金額にも上乗せされる。


 これを一年ごとに繰り返していく。


 これならば、君の頑張り次第で、その一年の利息をゼロとする事も出来る。

 君の現状を鑑みて、最初の目標金額は然程多くはならぬように設定しておくよ。

 ただし、額が額だけに、この目標金額は年々増やしていく予定だ。

 君が全ての借金を生きている内に返済し終えることが出来るようにな。



 とまあ、ここまでが私と君の間で結ばれた契約の話。

 ここからは私が君に与えた恩恵についての話を始めよう。


 君が金を稼ぐことは、私にとっても利のあることだということは、これまでの話で分かって貰えていると思う。

 私は君にこの世界で金を稼いでもらいたいのだ。


 それ故に、ささやかではあるが、私から君へ贈り物を授けておいた。


 それを示すのが称号【商売神の恩恵】であり、ギフト『捧金授力』だ。


 少し話は変わるが、この世界には異世界から来た君にとってはかなり異質で、同時に馴染み深いシステムが採用されている。

 それは君のステータスにも記されているレベルとスキルだ。


 レベルはその者の基礎的な強さを示す。

 これは生物を殺すことによって得られる経験値を貯めることによって上がっていく。

 まあ君に分かりやすく言えば、RPGなどのゲームでよく使われるあのレベルだと考えて貰って構わない。


 スキルはその者が扱える技能とその練度を示す。

 これはそのスキルに関連した技能を磨くことで習得することが出来、またそのスキルに関する練度が一定を超えることでスキルに示されたレベルが上昇していく。

 こちらも君の知識にあるゲームや、小説に出てくるスキルを想像して貰えれば分かりやすいだろう。

 才能がある者は早く習得出来、才能がない者は習得出来ないこともあるという所は、君の元いた世界と大差ないがね。


 これらのシステムは、この世界に生きる全ての生物に例外なく適応されている。


 本来ならば、ね。


 私が君に与えたギフト『捧金授力』は、君にも適応されるはずのこの世界のシステムに干渉する力だ。それによって君にだけは、この世界の根幹として定義されたシステムが、正常に機能しない。

 と、まあ大まかな力の概要はこのくらいにして、そろそろ具体的な効果の話に入っていこう。


 このギフトの本質は、名にも記されているように、私に金を捧げることで君が力を得るというものだ。


 このギフトにより君は、どれだけ生物を殺し続けても経験値を貯めることが出来なくなる代わりに、相応の金を支払うことで経験値を購入し、レベルを上げることが出来るようになる。


 また、君は技能をどれだけ磨いてもスキルを習得することが出来なくなる代わりに、スキルポイントを使って、スキルカタログから選び出したスキルを習得することが出来るようになる。


 このスキルポイントはレベルアップ時に一定のポイントを付与しよう。

 まあ君がいた世界で言う所のポイント還元というやつだ。

 お得だろう?


 それとスキルのレベルに関しても、通常のレベルと同様に金を支払う事で上げることが出来る。

 こちらも、この世界では君だけ、習得したスキルをどれだけ修練し続けても、スキルレベルは上がらないから気を付けるように。


 スキルカタログはこの世界で習得出来る全てのスキルが載っているため、膨大な量となっている。一つ一つ見ていくには膨大な時間を要することだろう。

 一応、検索機能を付けておいたので、これを便利に役立ててくれ。


 これが君に与えた力、『捧金授力』の効果だ。


 これらの力をうまく使いこなせれば幾らでも稼ぐことが出来るようになるだろう。

 借金の返済にしろ、レベルやスキルレベルの上昇にしろ、どんどん稼いで私に金を使ってくれることを期待しているよ。


 ちなみに、これらの力は私の神としての格が上がっていく毎に、随時更新していく予定だ。この更新はきっと、君の助けとなるだろう。

 楽しみにしていてくれ。


 そんな所かな。


 ああいや、最後に一つ。

 お決まりの奴を伝えてなかったな。


 尚、この契約の内容は、予告なく変更される場合がございますことを予めご承知ください。


 ではね。

 」



 そんな不吉な言葉を語ったところで、俺の頭にぶち込まれた情報の塊は静かになった。

 俺はもう一度、ステータスを確認する。



 名前:木津間 正午

 年齢:6歳

 種族:人族

 レベル:1(次のレベルまで、10マレ)

 ギフト:『捧金授力』

 スキル:『無限財布』『共通語翻訳』

 スキルポイント:0

 称号:【非業の死を遂げし者】【商売神の契約者】【異世界転生者】【商売神の恩寵】【生残者】

 借金:10,000,000,000,000,000マレ



 借金とギフトについては、まあ分かった。

 本当は分かりたくも無いけれど。

 でも一応、まだ他にもスキルや称号はある。

 それらに意識を向けると、その詳細が記憶から思い出された。

 覚えた記憶は無いはずなのに、確かに知識として存在している。

 何とも不思議で、なんだか少し気持ち悪い。


 ともかく、情報に教えられた以外のスキルや称号を一つずつ確認していくか。


 まずはスキル。


『無限財布』

 これはどうやら、異世界系の小説ではお馴染みの異空間に物を保管しておけるスキルらしい。時間停止機能がついてるかどうかは分からない。何故なら、お金限定のようだから。

 お金であれば、いくらでも入れることが出来るそうだ。

 今の俺が一銭も持ってない事を除けば、なかなか便利なスキルだろう。


『共通語翻訳』

 こちらも異世界系の小説では定番中の定番である言葉や文字を自動で翻訳してくれるスキルのようだ。説明によれば読みだけでなく、書きにも対応している。

 ただし、共通語という言語限定らしいけど。


 わざわざ共通語と記すってことは、それ以外の言語もあるってことだよな?

 で、もちろんこの辺りでは共通語が使われているってことでいいんだよな?


 周りにある見たことない文字が何故か読めているし。



 次は称号。


【非業の死を遂げし者】

 これはまさに俺が富豪たちの道楽で一度殺された証拠だ。

 色々と酷すぎるけど、字面がちょっとカッコいいと思ってしまった。それがまた、悲しい。

 実際のところは、なるべくしてゴミのように殺されただけなのにな。


【異世界転生者】

 これはまあ、読んで字のごとく、異世界から転生してきた俺の現状を示しているようだ。

 これの情報を読んで思うのは、やっぱりここは異世界なのか、って事だけ。


【生残者】

 こいつは、俺があの闇帝竜と冒険者の激闘の最中を生き延びることが出来たことで得られた称号らしい。

『捧金授力』と関係無く手に入ったということは、レベルやスキルと違い、称号に関してだけはシステム通りなのか。


 この称号を持つ者は、次に危機的な状況へ陥った際に、生存率が少しだけ上がるという。


 そういう力がある称号もあるのな。

 嬉しい事は嬉しい力だけど、そもそもそんな状況にはもう陥りたくない。


 だいたい、こんな所か。

 ちなみにスキルカタログは、ステータスを開いた状態でそこに記されたスキルポイントの文字を意識すれば開くことが出来るようだ。



 ああ、あと最後に一つ。

 重要なことを忘れていた。

 出来る事なら忘れておきたかった事。

 でも、絶対に忘れることは出来ない事。


 直近で最も重要となるであろう、今年の借金の返済目標の確認だ。


 俺が嫌々、ステータスの借金へ意識を集中させると、思った通りその情報が浮かび上がってくる。


 今年の借金の返済額は、金貨一枚。

 マレ換算で、100,000マレ。


 十万マレ。


 何処が、然程多くはならぬよう、なんだ?










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