041.素材を受け取ったら、さあ調薬を始めよう
周囲に満ちる魔力を感じながら目を覚ます。
すぐに『魔力感知』を意識して、感じている魔力を抑えていく。
今日も俺は、薬が切れて目を覚ます。
もう暫くは、薬に頼らないと眠れなそうだ。
さて、今日もはりきって稼ごう。
昨日、ミメアの家から帰る途中、少し寄り道をして薬師ギルドへ調薬した造血丸を売却してきた。
百粒の造血丸を売却して得たお金は、大銅貨三枚。
一粒で鉄貨三枚の計算だ。
これらの薬は薬師ギルドで細かな薬効の確認を行った後、薬師ギルドの取り分を加算して一般向けに販売される。
今回の造血丸は、最初から冒険者ギルドへの売却が決まっているはずだから、そちらへ売られるはずだ。
ポーションと比べるとかなり安い部類なんだろう。
自然薬は長持ちするともいうし、いざと言う時の為に常備しておく冒険者は多いそうだ。
とりあえず、冒険者ギルドから言われた薬の売却を一つ終えた訳だけど、色々あって最初の一つに大分時間が掛かってしまった。
ミメアに聞いたところ、ルトはすでに何度か薬師ギルドへ調薬した薬を持っていってるらしい。
いくら俺の方は、ルトのついでとはいえ、俺だって冒険者ギルドで依頼を受ける代わりとして指定された薬の調薬を頼まれたのだ。
今日からは、もっともっと、調薬する量を増やしていかないと。
その為にも、今日はまず、冒険者ギルドで欲しい素材を受け取りに行こう。
今日の予定を頭の中で整理しつつ、俺は部屋を出て台所へと向かった。
台所では今日も誰かが、朝食の支度を始めている。
今日の当番は、ドワーフの少年、リケットのようだ。
「おはよう、リケットさん。手伝っていいかな?」
リケットはチラリとこちらを向くと、小さくコクリと頷いた後、鍋を指し示す。
「……鍋、見てて」
「うん、わかった!」
俺が鍋の火加減を見ている間に、リケットは見事な包丁さばきで肉や野菜を刻んでいく。
料理が得意なアニアよりも、素早く丁寧な動きだ。
「リケットさんは、料理が得意なの?」
「……刃物の扱いが得意なだけ」
「そうなんだ」
それで俺が鍋の方なのか。
まあ、俺はどちらでもいいんだけど。
俺は言葉少ないリケットと、ぽつぽつと会話を交わしながら、朝食の支度を続けた。
そうして、朝食の席。
「皆、食べながらでいいから、ちょっと聞いてくれ」
皆がそろった所で、獅子人のロダンが立ち上がり、皆に向けて話し始めた。
「先日からパンドラの森が騒がしくなっていることは皆も知っていると思うが、その影響で最近、外部の冒険者が増えているそうだ。中にはちょっと危険な者たちもいるという。まあ、いつもの時間帯を守れば、大人の冒険者たちと出会うことはあまり無いだろうが、十分に注意してくれ」
「うん、わかった」「はーい」「りょうかーい」「……うん」「わかったー」
「わかった」
皆の了承の言葉に続いて、俺もそう告げて頷いておく。
そう言えば、冒険者ギルドではあんまり大人の冒険者と顔を合わせることは無いな。
時間帯が合わないんだから当然か。
でも、調薬帰りで遅い時間になったら、外で大人の冒険者と出会うかもしれない。
俺としてもトラブルは極力避けたいから、暫くは気を付けておいた方がいいな。
と言っても、調薬に集中していると、すぐ時間が経っちゃうんだけど。
それから俺たちは、いつものように雑談交じりの情報交換をしながら朝食を食べた後、皆は依頼の受注に、俺は素材の受け取りに冒険者ギルドへと向かった。
いつものように裏から冒険者ギルドへ入ると、受付カウンターにイザベラの姿を見つける。
「おはよう、イザベラさん」
「あら、ショーゴくん、おはよう。久しぶりね、もう体調は大丈夫なの?」
挨拶をすると、そう返してきた。
どうやら、俺の体調の事は聞いていたようだ。
「もう大丈夫だよ」
「そう。あんまり無理をしちゃダメよ? 何か困ったことがあったら、すぐ私たちに相談して。私たちに出来ることはあんまりないけど、それでも出来る限り助けになるから」
「うん、ありがとう」
「それで、今日は例のお願いに関することかしら?」
例のお願い。
冒険者ギルドに頼まれた調薬のことだろう。
「うん。前に頼んでおいた素材を受け取りに」
「はい。じゃあちょっと待っててね」
そう言うと、イザベラは受付カウンターの奥へと向かっていく。
今回、頼んでおいた素材は魔法薬、下級回復ポーションの素材だ。
とりあえず、まだ慣れない下級のポーションだし、調薬一つ分。
他はまた、次の時に受け取る予定である。
一遍に受け取っても、持ち歩くのが大変だからね。
一応、冒険者ギルドには必要となる素材を伝えてあるので、ルトの分と一緒にある程度の量は在庫として保管しておいてくれるらしい。他へ卸す分とは別にして。
だから、受付カウンターで言えば、欲しい分はすぐ渡してくれるそうだ。
まあ、さすがに在庫分では足りないほどの量を受け取りたい場合は、事前に欲しい分を伝えておく必要があるけれど。
「はい。メヒエラが三束にミルカギ二束、リルマの花弁が一枚、全部で銀貨一枚と大銅貨三枚よ。で、代金は調薬した薬を薬師ギルドへ売却した後ってことでいいのよね?」
「うん、それでお願い」
むぅ。
値引きはしてくれているはずだけど、それでも高い。
大分、お金も貯まってきたけど、それでも今の手持ちでは払いきれないほどだ。
後払いにしてくれて、良かった。
さあ、俺は俺で調薬を頑張ろう。
冒険者ギルドで調薬の素材を受け取った俺は、その足で薬師ギルドへと向かった。
そうして薬師ギルドの受付カウンターで大銅貨一枚を支払い手続きを行うと、早速、借りた調薬室に入ると、今日は並ぶ机の一つが使用されている。
「あ、ショーゴくん。おはよう。もう体調は大丈夫なの?」
そこではルトが、すでに素材を広げて調薬を開始していた。
「おはよう、ルトさん。体調はもう大丈夫。ボクも今日から調薬を始めるよ」
「そっか。お互い頑張ろうね」
軽く挨拶を交わしながら、俺もまた机の一つに持ってきた素材を広げていく。
チラリと確認したルトの机にある素材からして、恐らくルトが調薬しているのは下級魔力ポーションだろう。
「ルトさんは、ミメアさんの調薬室を使わないの?」
「うーん。なんとなくだけどね、この調薬にはおばあちゃんの力はあんまり借りずにやりたいんだ」
そう言えば、最近、ルトの家にいってもルトと会うことは無かった。
ずっとこちらで調薬を続けていたのか。
「そっか」
薬師としての初めての仕事だから、かな。
「まあ、他では色々と助けてもらってるから、今更って気もするけどね」
「わかるよ」
俺が今日、ミメアの調薬室を借りずにこちらへ来てるのは、少なからずそういう理由もあったから。
ルトと俺は互いに少し恥ずかしそうに笑い合うと、そのまま自身の作業に戻った。
さて、下級回復ポーションの調薬を始めよう。
まずは副素材の一つ、リルマの花弁の処理から。
紫に白が混ざったようなこのリルマという花の花弁。
ミメアの所で見たものは、すでに暫く乾して乾燥させてあるものだった。
しかし、冒険者ギルドで受け取ったこの花弁は、まだ瑞々しさが残っている。
このままだと、魔力が安定していないから、まずは水分を抜いて乾燥させる必要があった。
こういうところは、薬師ギルドから素材を買った方が簡単なんだよね。
簡単な処理は薬師ギルドで先にしてくれるそうだから。
まあ、魔道具を使えば、そこは短時間で出来るからいいんだけど。
という訳で、リルマの花弁を部屋の隅に置かれた四角い魔道具の中へ入れておく。
これで暫く経てば、水分が抜けてよい感じに魔力が安定するはずだ。
お次はもう一つの副素材、ミルカギの処理だな。
ミルカギは焦げた橙色の分厚く長い葉っぱだ。
くるくると丸めているけれど、伸ばすと一本が俺の身長くらいある。
それが三本で一束。二束で六本。
葉っぱを傷つけないよう慎重に伸ばした後、濡れた布巾で表面を丁寧に拭う。
そうしたら、葉が焦げないように火で炙っていく。
この時、『魔力感知』を使いながら、炙ると丁度良い塩梅が分かりやすい、と。
そうだ。
せっかくだから、『生活魔法』を試してみようかな。
『調薬』を意識しつつ、『生活魔法』を操る。
む、これって結構、難しい。
火力は最小限で、『調薬』のスキルに従い、葉っぱを炙っていく。
もうすこし火力を強くしたいけれど、これ以上、火力を上げることは出来ず、集中を切らすとむしろ火が消えてしまいかねない。
それに加えて、『魔力感知』まで使わなければならないとなると。
「――ふう」
ダメだ。これは疲れすぎる。
身体からどんどん魔力が消えていく。
『生活魔法』のレベルが足りないのか、それとも他の要因か。
少なくとも、今の俺にはちょっと扱いづらい。
俺は『生活魔法』を止めて、この調薬室にある設備を使うことにした。
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