024.二回目の薬草採取とその成果とその先

 準備万端で挑んだ二度目の秘密の依頼。

 今回の参加者は、宿舎組からロダンと俺の二人だけ。一方で通い組からは、ルトとマリイ、ヒロマルと、初顔合わせのフィーダ。


 フィーダは赤みがかった黒色の短髪と金の瞳を持つ猫人族の男の子だ。

 たまにぴょこぴょこと動く頭の上の髪色と同じ三角耳と、ゆらゆらと揺れる尻尾が印象的。

 自己紹介での印象は物静かなで落ち着いた感じの男の子だったけど、ルト曰く気まぐれでのんびり屋な性格らしい。

 でも、ヒロマルと同じく周囲の気配には敏感なため、薬草採取の依頼でたまに魔物が出た時も、いち早く気が付いて警告してくれるそうだ。


 挨拶もそこそこに俺たちは、南門を潜る。


 南門を守る兵士は、前回と同じ顔だ。

 確か、イストールの代官直属の兵士で名前はハッタム。

 前と同じように、挨拶をする子供たちへそれぞれに言葉を返している。


「おはよう、ハッタムさん」


「おう、危なくなったらすぐに戻ってくるんだぞ」


 そんな彼に今日は俺も挨拶をしてみたら、優しくそう返してくれた。



 そして、はいっ、と。


 特に何事も無く、薬草採取は終わりました。

 うん、ホントに拍子抜けするほどあっさりだ。


 スキルの効果は、すごかったよ。

 特に『薬草採取』のスキル。

『薬草知識』で見つけ出した薬草を採取するとき、まるでそれが当然のことだとでも言うように、正しい採取法で身体が動くのだ。

 分かりやすい、けど同時に気持ち悪くもある。


 それは自分の身体を、未知なる存在に操られているかのような感覚。

 もしそうだとしたら、操っている存在とは『薬草採取』というスキルだろう。


 まあでも、操られているとは言ったけど、別にそれを拒絶することが出来ないという訳では無い。

 わざとその動きから外れることは容易だ。

 そんなわけで、より正しくその状況を説明するならば、スキルによる指導と言うべきだろう。


 本来ならばこういった動きは、知識を身につけた後に、その知識を指針として身体へ覚え込ませるものだ。

 でも、俺の場合は、逆に身体が知っている方法を意識的に覚えていくことで、この動きを自分の身体へ馴染ませていく必要がありそう。

 そうして初めて、その動きは真の意味で自分のものとなり、この操られているような感覚は無くなる。

 薬草採取の間に、色々と試してみた結果、俺はそういう結論に行き着いた。


 まあ、操られている感覚を消さなくていいっていうのなら、別に全てをスキルに任せてしまってもよいとは思うけど。

 それはなんか、嫌だから。



『薬草知識』による薬草大全の内容と照らし合わせることで、辺りに生えている植物が有用な薬草かどうかが分かり、前よりも多くの薬草を採取することが出来た。

『薬草採取』のスキルにより、品質の方も問題無し。

 前回とは比べるまでも無く、最高の成果だ。


 パンパンになった麻袋とホクホク顔の俺の顔がその証拠。


「今日のショーゴくん、すごかったね。知ってる薬草の種類は増えてたし、採取の仕方も前とは段違いだよ」


「いろいろと、準備してきたから」


 笑顔でその成果を喜んでくれるルトに、俺は言葉を濁して応える。

 さすがにいきなりスキルが習得出来て、しかもレベルまで上がってるなんて言う訳にもいかない。

 手の内は出来る限り、誰にも知られぬようにしておきたいから。


「これだけあれば、調薬の練習も十分に出来そうだね」


「うん。明日はよろしく」


 にっと笑って言うルトへ、俺も笑顔で応える。


「うんっ、楽しみに待ってるね」


 ああ、俺も楽しみだよ。

 調薬の練習も、その後のことも。




 冒険者ギルドに帰ってくると、受付カウンターに見知った顔を見つけたので、その列に並ぶ。


「あ、ショーゴくん」


「こんにちわ、イザベラさん。これ、お願い」


 そして俺の番がやってきた所で、イザベラへ挨拶をしてから採取してきた薬草の入った麻袋を受付カウンターの上に出す。


「これ、薬草……ショーゴくんもアレ、やってるのね」


 その声音には、色々な感情が混ざっている。

 イザベラが浮かべた表情は前回、薬草採取の報告をしたときに、同じ受付担当のビスタが浮かべていたものとそっくりだった。


「うん、まあ」


 俺がそう応えると、イザベラは何かを言いたそうに口を開きかけ、結局一つ小さな溜息をつくに留める。


「確認するわね」


 短くそう告げると、麻袋の中から丁寧な手つきで薬草の束を取り出していく。


「ヒエラが十束、トーラが五束、ミストラが十三束、パルガが七束、ヒヨスリが一束。全部で三十六束かしら。すごい採ってきたのね。品質も問題なさそう。これ、全部納品でいいの?」


「あ、ヒエラとトーラだけは別にしておいて。ボクが個人的に使うから」


「そうなの? 分かったわ。じゃあ、この中からヒエラ十束とトーラ五束を抜いて、残りの二十一束が納品ね。これでいい?」


「うん、大丈夫」


「それじゃ、ミストラが十三束で銅貨六枚と鉄貨五枚、パルガが七束で銅貨三枚と鉄貨五枚、最後にヒヨスリが一束で銅貨三枚。全部合わせて、大銅貨一枚と銅貨三枚ね。はい、どうぞ」


 そうしてヒエラとトーラの残りが入った麻袋と共に、大銅貨一枚と銅貨三枚が受付カウンターの上に置かれた。




 採取した薬草の数を見て大体の予想はしていたけど、思った以上の大金になった。

 まさか、いきなり大銅貨まで出てくるとは。


 まあここまで稼げたのは、『薬草知識』と『薬草採取』のスキルレベルを三にまで上げていたからだろう。

 多分、どちらかのスキルレベルが一つでも下だったら、ここまでは稼げなかったのではないだろうか。

『薬草知識』が低ければ、あれだけの種類の薬草を見つけることは出来なかったし、『薬草採取』が低ければ、見つけた薬草を全て通常品質で採取することは出来なかっただろう。


 周りのスキルレベルは知らないけれど、薬草採取の最中にその手際を見た感じだと、ルト以外のスキルレベルは俺よりも低いようだった。

 そんな彼らの採取した薬草の数は、平均して十束前後。

 品質も時折、悪いものが混ざっている。


 やっぱり、スキルはすごい。

 そして、そんなスキルを好きなように取得出来てしまう『捧金授力』は恐ろしく有能なスキルだ。


 でも、『捧金授力』の活躍は、これだけで終わらない。

 本番は明日だ。

 今日、手元に残したヒエラ十束とトーラ五束。

 こいつを使って、俺は明日、初級回復ポーションの調薬に挑む。

 勿論、スキルを取得して、だ。


 ただ、さすがに明日は、もうすこし注意しようと思う。


 大金を稼ぐという目的がある以上、稼ぐことを自重するという選択肢は無い。

 なにせ、俺に課せられた借金は桁違いの額だ。

 あれを全て返しきる為、稼げるチャンスは一つとして逃すことは出来ない。

 たとえ、借金に対して稼いだ額が微々たるものでも、俺に『捧金授力』がある以上、全てのお金はさらなる儲けへの布石となりえるからだ。


 しかし、だからといってひたすら一直線に稼ぎ続けることもしたくはない。

 稼げるだけではダメなのだ。


 だって、悪人に狙われたら、今の俺にはどうしようもないから。


 稼いだお金を守れる力が無ければ、お金は容易く奪われる。

 お金を全て使ってしまったとしても、俺が稼げる人間だとバレてしまえば、力で無理やり従わされるか、騙され利用されるだけ。

 前生の経験から俺は、それを痛いほど理解している。


 この世界に来てからの俺は、運良く優しい人たちに助けられてきた。


 冒険者たちに冒険者ギルドの職員たち。

 宿舎の子供たち、通い組の手伝い級冒険者たち。

 そして、雑用依頼先で出会った依頼者たち。


 みんな、いい人たちだったと思う。

 たぶん。


 でも、それが何時まで続くかは分からない。

 俺と関わる人たちが、これからもそんな人たちばかりとは限らないだろう。


 だからこそ、悪人に目を付けられないよう、稼ぐにしても出来る範囲くらいは隠しておきたい。



 今日の薬草採取で、俺が周りのスキルレベルを何となく察したように、周りの子たちも俺のスキルレベルを察しているだろう。

 少なくとも、ルトは気が付いているハズだ。

 俺の唐突なスキル取得とスキルレベルの上がり方に。


 それを表立って聞いてこないのは多分、彼らが冒険者だから。

 冒険者たちの間では、互いの持つ力について、必要以上の詮索を避けるという習慣があるらしい。

 それは互いの過去の詮索をしない、という事と共に、冒険者たちの間で暗黙の掟とされているそうだ。


 まあ、その辺りの血生臭い理由は置いといて。

 少なくともおかしいと思われていたのは確実だろう。

 それは、採取後の彼らの態度を見ていれば何となくわかる。


 問題は俺の唐突なスキルの取得とスキルレベルの上がり方が、何処まで不自然かということだ。

 努力で片付けられるレベルなのか、才能と言えば何とかなるのか、それともそれらの言い訳レベルでは、どうしようもない程の異常なのか。



 俺が思うに、スキル取得に必要なスキルポイントというのは、この世界でそのスキルを習得するときの難易度に関係している。

 それはレベルを上げる際に必要な金額や、スキルレベルを上げる際に必要な金額も同様に。


 俺がそう思ったのは、スキルカタログを見ていて感じたというのもあるが、一番は商売神と名乗った神が『捧金授力』の事を商売のように語っていたことだ。

 商売の鉄則を相互利益だというあの神が、『捧金授力』の事を商売と考えているのだとしたら、そこに並ぶ商品は適正価格を徹底しているのではないか。

 少なくとも、商品とその対価はそこまでかけ離れてはいないと思うのだ。


 そう考えてみると、今回使ったスキルの取得に必要なスキルポイントは、どちらも最低の一ポイント。

 レベルだって、鉄貨一枚と銅貨一枚分しか使っていない。


 だから、今日のこともそこまで異常だとは思われていないと思う。

 思いたい。


 だが、明日は違う。

『調薬』のスキル取得に必要なスキルポイントは三ポイント。

 それに、明日はルトだけでなく、ミメアもいる。

 一流の薬師であろうミメアを相手に、果たして俺の行動はどのように映るのか。


 せめて、次は出来るだけ不自然と思われないよう、少しおかしいと思われても、なんとか誤魔化せる範囲を模索していこう。


 それもまた、明日の目的の一つだ。








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