金で強くなる転生者

やみあるい

000.オークションが始まります

 一体何がいけなかったんだろう。


 起死回生のチャンスと思い込み、裏カジノに手を出してしまったことか。

 スリ減らした心であの怪しげな壺の効能を信じてしまったことか。

 あの上司の行ってきた汚職を告発したことか。

 あんな女のことを愛してしまったことか。

 友人たちの連帯保証人になってしまったことか。

 あの怪しい会社に何の疑問も抱かず就職してしまったことか。

 明らかに危険と思えるような彼らと友達になってしまったことか。

 全てを諦めてあの学校に入学してしまったことか。

 すぐ返すという友人の言葉を信じてしまったことか。

 学業よりも働くことを優先させてしまったことか。

 あの家をさっさと出ていかなかったことか。

 おかしいと心のどこかで思いつつも親の言う通りに動いたことか。

 あの両親を大切な家族だと思い込んでいたことか。

 学校の知り合いと比べて、自分の境遇が異常だと気がつかなかったことか。

 ただただ親の言うことを信じていたことか。


 それとも、あの毒親の元に産まれてしまったことなのか。


 遡る記憶に従って、数々の後悔が押し寄せる。


 俺が今いるのは、巨大な円形舞台の上。

 周りには仮面で顔を隠した観客たる富豪たちの姿。

 彼らはワインを片手に、ショーの始まりを今か今かと待ちわびている。

 ここは自らの命すら賭け金とする狂ったギャンブラーたちの祭典会場。

 彼らはありとあらゆる知を尽くし、己の運を試す。


 そんな舞台の真ん中に立つこの俺は、勿論のことそんな舞台の主役たるギャンブラーたちではない。

 だからと言って、そんな狂気のギャンブルを見世物として、富豪たちからの莫大な賭け金で儲ける運営側、でもない。


 俺は前座も前座。

 命のかかったギャンブルを試してみたい富豪たちによる、ちょっと変わったギャンブルの――賭け金だ。


 莫大な金を持つ富豪たちだって熱いギャンブルを見ていたら、少しは自分でも試してみたくもなる。それは一瞬の気の迷い、ただの気まぐれかもしれない。それでも、金と権力を得た彼らにしてみたら、そんな自信の些細な望みすら叶わないことが許せないのだ。

 しかし、たとえ興味があるからと言って、彼らは余興で自らの命を賭けたりはしない。そこまでの狂人であれば、すでにギャンブラー側としてこの大会に参加している。

 だからこそ、彼らは自らの命を賭ける代わりに他人の命を賭けることで、疑似的な命の賭かったギャンブルを楽しんでいるのだ。


 そこに如何ほどの意味があるのか。自分の命の代わりに他人の命を賭けたところで、たった一つしかない己の命を賭けるギャンブラーたちの気持ちなんて味わえるとは思えない。


 それでも、自分の勝負の結果で一つの命が散るという感覚だけは味わえる。

 そんな下らないことの為に、俺の命は使われていた。


 拒否権は、無い。


 俺があちこちから借りていた金は、既に俺が数十回産まれ直して働き続けても、稼ぎ出せるとは思えないような額に達している。


 その殆どが元は俺の借金では無いとしても、貸した側にとってはそんなこと、どうでもよい事なのだろう。

 既に俺を守ってくれる戸籍は無く、命もまもなく無くなろうとしている。


 どうしようもない。


 そんな現状に、枯れたと思っていた涙が頬を零れ落ちた。

 騒ぎ、泣き喚く時間帯はとうに過ぎている。

 あとはもう、なるようにしかならない。


 次の瞬間、ギャンブルのジャッジが下り、俺の身体に例えようのない痛みが襲い来る。


 俺を賭け金とした富豪の怒声がした。どうせ彼らからしてみれば、俺の莫大な借金であっても、はした金に過ぎないだろうに。

 痛い、痛い、苦しい。

 辛い。

 そんな絶望が暫く続き、ようやく俺はこの世から意識を永遠に失うことが出来た。

 死の瞬間、俺が思ったことは、ただ一つ。

 もし次があるのなら、ギャンブルなどには絶対に手を出さず、賢く、堅実に生きていきたい。

 ただ、それだけ。





 ……。


 …………。


 ………………。





『では、25643番様により、この魂は落札されました』








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