044.下級魔力ポーションの調薬をしよう
朝起きて、台所で朝食の準備をして、みんなと朝食を食べて、冒険者ギルドで頼んでいた素材を受け取って、薬師ギルドで調薬室を借りる。
さて、今日は下級魔力ポーションの調薬を行う。
下級魔力ポーションの調薬に必要な素材は、主素材が蒸留水とリラという木の葉っぱが三枚。それから、副素材としてミスールという木の枝が一本。
ちなみに蒸留水は冒険者ギルドでは手に入らない。薬師ギルドに売ってるようだ。値段は、大瓶入りが一本で銅貨一枚。下級魔力ポーションの調薬には、大瓶二本分が必要だから、銅貨二枚は掛かる。けど、調薬室にある器材を使えば、自分で作ることも出来るそうなので、今回はそこから自分で作ってみようと思う。
蒸留水を作るには、当たり前だけどまずは水が必要だ。
そこで調薬室の端に置かれた水の湧き出る甕から、水を必要量だけ小鍋に入れる。普通の下級ポーションの調薬であれば、この水のままでも使えるが、今回調薬するのは水の質が重要となる下級魔力ポーション。その為、水を蒸留して、さらに純度を高める必要があるらしい。
蒸留に必要な魔道具は……あった。二つの壺が管の様なもので繋がっている。これが蒸留水を作るための魔道具だ。片方に水を入れると、壺の中の水が蒸気となり、管を伝ってもう一つの壺へ入り、蒸留水となる。
あ、これ。全部、水が入らない。これだと二回に分けて作る必要がありそうだ。ちょっと、時間がかかりそう。
今のうちに他の素材の下準備をしておくか。
リラの葉は水で軽く洗って、乾かしておく。ミスールの枝の方は、表面の樹皮をナイフで削って剥がす。こうすることで、より薬効が水に移りやすくなる。
調薬室にあったナイフを借りて、丁寧に削っていく。
それでも、蒸留水が出来上がる前に終わってしまった。
蒸留の様子はどうだろう? 蒸留の魔道具を確認してみると、半分くらいは終わっているようだ。魔道具につけらえたメーターのようなものが、それを示している。
ところでこの魔道具は、どうやって蒸留水を作っているのだろう?
俺の前生の記憶では、確か水を熱して蒸気に変え、それを冷やして水に戻したものが蒸留水と呼ばれていたはず。
でも、この魔道具。熱も冷気も使ってないっぽいんだよな。
魔道具。
やっぱり、こういうのを見ると、ちょっとワクワクする。
いつかはこういうのも作れるようになってみたい。
まあ、素材代を問題無く支払えるくらい稼がなくちゃ、そんなの夢のまた夢だけど。
眺めていたら、蒸留水が完成した。
もう一回、蒸留水を作れば、次の作業に移れる。
うーん。これが銅貨二枚分の作業か。
別に疲れるような作業じゃないけど、かなり時間が掛かってる。
この間に別の作業が出来るなら自分で作ってもいいけれど、何もすることが無いようだと、ちょっと時間がもったいない。
調薬に使う蒸留水を作り置きしておくには、相応の設備が必要なようだし、蒸留水が銅貨一枚で売っている理由が分かるような気がする。
次は薬師ギルドで購入するか、この待ち時間に出来ることを考えてこよう。
途中でやってきたルトと少し会話をしながら待つこと暫し、ようやく調薬に必要な量の蒸留水が出来た。
いよいよ、ここからが本格的な下級魔力ポーションの調薬開始だ。
まずは蒸留水を二つに分けて、片方を小鍋に入れて火にかけ沸騰させ、もう片方には水冷石を入れて冷やしていく。
そしたらそれぞれの魔力の変化を確認して、丁度良い所で小鍋を火から外し、水冷石を蒸留水から取り出す。
それから別の容器にリラの葉を三枚入れ、そこへ熱した蒸留水と冷やした蒸留水を同時に注ぎ込む。
この同時にってところが重要だ。熱さと冷たさに挟まれることでリラの葉に詰まった魔力が解け、水へ流れ込んでいくのを感じる。
均等に注ぎ込んでいかないと、リラの葉の魔力は水に溶けてくれないのだ。
だから、『魔力感知』と『調薬』の二つに意識を割きつつ、作業に集中する。
『魔力感知』で二つの蒸留水の注ぎ込む速度を確認し、『調薬』で微調整をかけていくのだ。
全てを注ぎ終わる頃には、リラの葉から水へ完全に魔力が移った。
そうしたら、リラの葉を素早く自ら取り出しておく。
さて、次はミスールの枝だ。
ミスールの枝を軽く火で炙ったら、それで水をかき混ぜる。
ゆっくりと慎重に、水の中に溶け込んだ魔力を安定させていく。
すると水にうっすらと色が混ざってきた。
薄い青緑色。
まだ混ぜる。
混ぜ続けて、魔力の変化を観察する。
……そろそろ、良さそうだ。
そうしたら次は、もう一度この水を蒸留していく。
そうして水の純度を上げていくのだ。
俺は慎重に蒸留の魔道具へ、水を移し替えていく。
よし。これであとは、蒸留が終われば完成のはず。
ここからはもう、何も使う必要が無いので、使った道具の片づけをしておこう。
後片付けをしながら、俺は横目で隣の机を覗き見る。
ルトの調薬は、まだ暫く時間がかかりそうだ。
ルトが今、調薬しているのは、止血帯らしい。
まだ俺が習っていない調薬レシピの自然薬だ。
ルトは薬液の入ったタライへ一抱えもありそうな長い帯布を丁寧に漬け込んでいる。
見てるだけでも、かなりの重労働であると分かる作業だ。
しかし、ルトは一つとして手を抜かず、真剣な表情で作業を続けている。
これはちょっと、話しかけられる状況じゃないな。
大人しく蒸留作業が終わるのを待っていよう。
片づけを終えた俺は、そのまましばらく、じっと蒸留の魔道具を観察し続けた。
蒸留の魔道具が止まったので、出来上がった液体を専用の薬瓶へ移していく。
おおー。薬瓶に入れた下級魔力ポーションからは、蒸留前にはあった薄い青緑色が消えている。ただ、その代わりに仄かな青緑色の光を発していた。
何だか不思議な色合いだ。
俺は暫く下級魔力ポーションの不思議な色合いを観察した後、チラリと隣で作業を続けるルトに視線を送る。
あれはまだまだ時間がかかりそうだ。
うん、帰るか。
出来上がった五本分の下級魔力ポーションを持って、俺は調薬室を出る。
そして、薬師ギルドの受付カウンターで調薬した下級魔力ポーションを納品した。
代わりに、薬瓶代の大銅貨五枚を抜いた銀貨一枚と大銅貨五枚を受け取る。
ここからさらに、冒険者ギルドでは素材代の銀貨一枚を支払う。
だから、今日の儲けは大銅貨五枚だ。
これで手持ちのお金は銀貨二枚、大銅貨一枚、銅貨三枚となる。
結構、貯まってきたな。
そろそろ、このお金の使い道を考える必要がありそうだ。
他に聞きたいこともあるし、明日はミメアのところで止血帯の調薬レシピを聞きに行ってみようかな?
そんなことを考えながら、俺は薬師ギルドの建物を出る。
すると、丁度それを待っていたかのように、街中へ鐘の音が四つ鳴り響く。
手伝い級冒険者の仕事が終わる頃だ。
これから冒険者ギルドに向かえば、丁度、他の手伝い級冒険者の子供たちと同じくらいに夕飯へありつけそう。
さて、今日の手伝い級限定おまかせ定食は、どんな献立かな?
今日も昨日と同じくらい、お腹が空いている。
さすがに昨日の失敗を繰り返すような事しないけど、夕飯は楽しみだ。
俺はうきうきとした気分で、冒険者ギルドへと向かった。
「やあ、ショーゴくん。今日も調薬、お疲れ様」
冒険者ギルドで俺の受付をしてくれたのは、今日も狼人族のお兄さん、ビスタだ。
「うん。今日は下級魔力ポーションの調薬をしたよ」
「そっか。下級魔力ポーションは見習いから一人前の魔術師や、熟練の戦士がよく使うからね。本当に助かるよ。それで、今日も昨日と同じかい?」
「ううん。今日は、素材代を払いにきただけ。明日は新しい薬のレシピを習いにいく予定だから」
「分かった。なら、昨日頼んでいた素材の代金だね。ちょっと待ってて」
そうしてビスタは、昨日と同じように受付の奥に引っ込むと、手に一枚の紙を持ち戻ってきた。
「はい。これね」
紙には俺が受け取った素材の数と値段がしっかりと書かれている。
「じゃあ、これを」
俺は素材の代金として、銀貨一枚を取り出し、受付カウンターに置いた。
「はい。確かに」
その後、俺は冒険者ギルドに併設された酒場へと向かう。
そうして手近な椅子に腰かけた。
すぐに酒場の店員がやってきたので、手伝い級のギルドカードを提示して、手伝い級限定おまかせ定食を頼む。
すると、今日はすぐにご飯がやってきた。
ありゃ、今日の料理はいつもとちょっと違うな。
肉とスープという大まかなところは一緒だけど、肉が違う気がする。
食べてみると、少し独特な味が口内に広がった。
なんだろう、この味。チーズのような濃厚さ。
しかし、噛みしめると肉の味が浮かんでくる。
肉の硬さは、ウイーゼルより柔らかい。
でも、噛み応えは残ってる。
すごく、美味しい。
これは、何の肉なんだろう?
気になったので、近くを通りかかった酒場の店員に来てみる。
驚いた。
これはパンドラの森に生息する鳥の魔物、フォレストバードの肉らしい。
牛の肉っぽいイメージがあったんだけど。
それにしても、そんな肉をこの定食に使ってしまってよかったのだろうか?
パンドラの森に生息する魔物の肉ってことは、それなりにお高いだろう。
それだけたくさんの肉が余ってるってことなんだろうか?
もしかしたら、これも外部の冒険者が多くやってきているってことに関係があるのかもしれない。
まあ、美味しい肉がこの値段で食べられるっていうのは、嬉しいことかな。
ウイーゼルの肉だって嫌いなわけじゃないけど、やっぱりたまにはこういう肉だって食べたくなる。
はあ、美味しかった。
さて、明日もまた頑張りますか。
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次週からまたちょっとお休みします
途中で投げ出すことだけは無いように、ゆっくり更新していく予定
どうか、気長にお待ちください
金で強くなる転生者 やみあるい @Yamia_Rui
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