037.ミメアの魔法薬講座は続きます
「さて、魔法薬を作るうえで、魔力を感じ取るスキルが重要なことは分かったね。だったら次は、魔法薬のレシピについて教えよう」
調薬した初級活力ポーションを手早く薬瓶に注いだ後、ミメアは話を続ける。
「
今回、お前たちが調薬を頼まれたのは、回復ポーション、魔力ポーション、活力ポーション、解毒ポーションの四つだったね。
これらのポーションの調薬に使われる素材は一つ一つ違っているけど、それでもある程度の法則はあるんだ。
まずはその辺りから説明していくよ。
生命力を回復する回復ポーションに使われる主素材は、生命力の強い薬草が使われることが多い。生命力の強い薬草は、そういう魔力を持っていることが多いからね。
ちなみに、生命力と魔力は別の力だよ。よく間違って覚えている奴が多いけどね。
回復ポーションに使われるのは、あくまで生命力を高める性質を持った魔力だ。
だから、死んじまった奴には、回復ポーションも効かない。
ま、伝説レベルの薬の中には、生命力そのものを扱う薬もあるらしいけどね。
魔力を回復する魔力ポーションの素材で一番重要なのは水だ。
魔力ってのは何処にでも宿ってるもんだが、特に水は魔力を貯めやすく、素材としても扱いやすいからね。
主素材や副素材は、水に宿る魔力を人の身体へ馴染ませやすくするために使われる。
だから、使う水の質によって、出来上がるポーションの質は大きく変わるんだ。
体力を回復する活力ポーションの主素材は、根っこや木の実が多い。
これは体力を回復し、活力を与える性質を持つ魔力が、それらの素材に多く宿っているからだ。
」
体力を回復するって効果は、別のポーションでも聞いたな。
確か、初級回復ポーションでも体力が回復するんじゃなかったっけ?
だとしたら、これって必要なのか?
疑問に思った俺は、話の途中でチラリとミメアが調薬した初級活力ポーションに視線を向けた。
頭の中で薬物大全という名の本のページがパラパラとめくれ、初級活力ポーションの項目が表示される。
初級活力ポーション
これは体力を回復する力を持つ初級ポーションの総称だ。
体力を回復することで、蓄積した疲労を回復することが出来る他、一時的に身体全体へ元気を漲らせる効果も持ち、僅かながら身体能力を上げ、空腹を若干和らげる。
初級という名が示す通り、その効果はポーションの中で最も低いが、作成方法はポーションの中で最も簡単であり、調薬には必ずしも『調薬』のスキルを必要としない。
使用方法は飲むこと。
活力ポーションには活力ポーション独自の効果があるらしい。
それに、回復ポーションで生命力を高めたことにより回復する体力よりも、活力ポーションで直接体力を回復した方が効率も良いようだ。
「
最後は解毒ポーションだね。
毒を回復する解毒ポーションの主素材は、毒を含む素材が多い。
解毒ポーションの調薬は、まず素材の毒を解毒するための効果に変えるところから始めるんだ。
と、これが四つのポーションのレシピに使われる素材の法則だよ。
お前たちはまだ、レシピを自分で作るなんてことは無いだろうが、薬師として上を目指すのであれば、覚えておくといい。
それに、こういった法則を念頭に置いておくと、調薬で何処に注意しなきゃいけないかが分かってくるから、調薬の手際が良くなるんだ。
『魔力感知』のスキルを覚えたら、魔力がどのように変わっていくのか、しっかりと観察してみな。
と、これらの法則を理解したところで、そろそろ今日の本題である下級ポーションのレシピを教えていくよ。
せっかくだから、あたしが一つ一つ調薬しながら教えていこう。
ま、これはあたしの調薬方法だから、そっくりそのままやり方を真似る必要は無いけど、良いと思った部分があれば、どんどん吸収していきな。
」
ミメアの調薬か。
初級活力ポーションの調薬の手際を見る限り、確かに高位の薬師であるミメアの手際を今の俺が全て真似ることは出来ないだろうけど、勉強にはなる。
『魔力感知』か。
どうせだから、このタイミングで覚えてみようかな。
俺はミメアが素材や調薬器具の準備をしている間に、自身のステータスを開き、スキルカタログから『魔力感知』を探した。
『魔力感知』の取得に必要なスキルポイントは、『調薬』の取得と同じ、三。
俺はスキルポイントを消費して、『魔力感知』を取得した。
さらに、銅貨一枚を使って、スキルレベルを一つ上げておく。
名前:ショーゴ(木津間 正午)
年齢:6歳
種族:人族
レベル:5(次のレベルまで、50マレ)
ギフト:『捧金授力』
スキル:『無限財布』『共通語翻訳』『生活魔法-2』『薬草知識-3』『薬草採取-3』『薬物知識』『調薬-2』『魔力感知-2』
スキルポイント:10
称号:【非業の死を遂げし者】【商売神の契約者】【異世界転生者】【商売神の恩寵】【生残者】【手伝い冒険者】【見習い薬師】
所持金:大銅貨六枚
借金:10,000,000,000,000,000マレ(年内返済目標:100,000マレ)
『魔力感知』を取得した瞬間、世界に新たな色が追加されたような感覚を覚える。
俺は今まで存在すら知らなかった何かを身近に感じていた。
これが、魔力。
この感覚は、なんと表現するべきだろう?
俺が今まで使ってきた五感のどれとも違う感覚。
でも、はっきりとそれを感じ取ることは出来ている。
千変万化。
万物に宿り、あらゆる概念に姿を変えていく。
それは、俺の今の知識では、容易に表現することすら難しい。
俺は不思議な感覚に、暫くの間、呆然としていた。
「さあ。まずは下級回復ポーションの調薬から始めるよ」
そんなミメアの言葉に、俺は意識を取り戻す。
ああ、今はこの不思議な感覚に身を委ねている場合じゃない。
ミメアの調薬をしっかりと観察しないと。
頭では分かっているのに、感じる魔力が邪魔をして、目の前のことに集中できない。
情報量が多すぎる。
ちょっと『魔力感知』をこの状況で取得したのは、失敗だったかもしれない。
魔力を感じようとしなくても、周囲から膨大な量の情報が押し寄せてきて、休む間もない状態だ。
正直、集中云々言う以前に、ちょっとキツイ。
あ、やば。
気が付けば、俺の身体は床にぶっ倒れていた。
どうやら真っすぐ立つということすら、出来なくなってしまったようだ。
それでも尚、まだ厳しい。
そして……。
俺はまた、ルトのベッドの上で横になっている。
結局、肝心の薬のレシピを聞き逃してしまった。
また、改めて聞きに来ないと。
何だか最近、ぶっ倒れてばかりだ。
子供の身体に慣れていないせいだろうか?
一応、気を付けてはいるんだけどな。
ただ、今回は幸か不幸か意識を失うようなことは無く、ここに寝かされるまでの経緯は把握していた。
ミメアの指示で、ルトに運ばれてきたのだ。
あれから『魔力感知』のスキルに集中することで、少しずつ感知できる範囲を制御できるようになってきた。
その甲斐あって、今は頭の痛みも少し和らいでいる。
それでもまだ少し痛みはあるけど、起き上がることは出来そうだ。
だというのに、俺がまだベッドで寝たふりをしているのには訳がある。
ベッドの横で、ミメアが待っているからだ。
目を瞑っているから分かるはずもないのに、何だか視線が突き刺さっている気がする。
そうだよな。二度も目の前で倒れられたら、そりゃ不審に思うよ。
きっと起きたら、色々と聞かれるだろう。
いきなり、『魔力感知』を覚えたからなんて言ったら、おかしいよな。
ミメアに聞いた話によれば、そんな簡単に覚えられるスキルじゃ、無さそうだし。
どうやって、言い訳をしよう?
それを思いつかないから、俺は未だベッドで寝たふりをしているのだ。
でも、さすがにずっとこのままって訳にはいかない。
こうしている間にも、帰る時間が刻々と迫っているのだ。
覚悟を決めるか。
「……ミメアさん?」
俺は今、気が付いたという感じに目を開けると、ミメアへと声をかけた。
「ショーゴ、気が付いたのかい」
それからミメアは起き上がった俺に、二三、質問をする。
それらは全てが今の俺の体調に関することだった。
真剣な表情で質問を続けるミメアの雰囲気は、何処か医者を思わせる。
その雰囲気に流されて、俺は正直に答えていった。
薬師というのは、そういう知識にも精通しているものなのだろうか?
それからミメアは、暫く無言のまま悩んだ末に、口を開く。
「ショーゴ。お前、何か知覚系のスキルを覚えたね?」
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