あったかい心と冷たいサイフ
「つっっかれたぁぁぁぁ!!! マスター、お水!」
今日は真冬並みの寒さだと言うのに、居酒屋で一仕事終えた野ばらが欲しがったのはビールではなかった。「一気飲みするほど喉が乾く」時に、酒はご法度である。
「お花ちゃん、随分長いこと話してたね。」
「このクソ寒い中、クライアントにめちゃくちゃ仕事振って、めちゃくちゃ給料上げてもらった。」
まだ事業が軌道に乗っていないらしく、それほど予算が降りない中、投資の大切さを説いていたらしい。それにしたって、3時間も外にいたら体の芯まで冷えるだろう。飲み物もお冷だし、野ばらはガチガチ震えながらグチグチ言っている。ビートルズは、「まあ飲みなよ」と、アルコールについてのマイブームが強い野ばらが温まるように促す。
「カノジョも飲みなよ。」
「ありがとうございます。でも一仕事した野ばらに飲ませてあげてください。」
「いいからいいから。奢ってあげるから。」
「…では、芋を2合で。」
ちなみに、焼酎はこの居酒屋で1番高い。
百合愛も来るようになって、常連たちは大喜びであった。ただ、お年寄りが多いからなのか、両方とも名前が花だからか、百合愛は「カノジョ」と、呼ばれることが多い。多分「お姉さん」と呼ぶとセクハラになる風潮を、彼らなりに知っていて、回避しているのだろう。
升いっぱいの芋焼酎を飲んで、百合愛はなんとか、「カノジョ」ではなく、しかし「お花ちゃん」でもない愛称がないか、考えていた。
帰り道、相変わらずちゃんぽんしたというのにケロッとしている野ばらが、またしても仕事の通知を見て、うげ、と、顔を歪めた。
「どうしたの?」
「シナリオの回転率を上げるために提案したら、「野ばらさんのシナリオがいい」って言われた上に、ディレクター頼まれた。」
「アシスタント?」
「いや、ディレクターだな。この仕事内容。」
先程もディレクター業務、と言って、賃上げをしていなかったか、と、思っていると、野ばらは腹を括ったのか、またポチポチと返信を始めた。
「よし、この案が通れば、この界隈で俺が嫌いなタイプのシナリオが駆逐される。」
「あら、良かったじゃない。」
「モテるライターは辛いねえ。」
と、言っていたのが、1月の末であったのだが。
「野ばら!!カード止まるってほんと!?」
「ほんとだ!! 今止まらないように即日入金の仕事貰ってるとこ!!」
「目標額は!?」
「大まかに言えば1.8、安全圏が1.9!」
「OMG」
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