おこちゃまだから

 野ばらは絶望した。必ずやコロナを5類に移したことに伴う応用の効いた医療を取り戻さねばならぬと決意した。野ばらは法律が分からぬ。野ばらは腐教家である。

「野ばら! 野ばら起きて!」

「すみません請求書はいつまでですか!?」

「寝ぼけてないで!」

 仕事机で、契約終了にともなう中途半端な契約金の請求書を作り終え、うとうとしていた野ばらを揺り起こす。ハッと目を覚ました野ばらは、あまりの部屋の寒さに震え上がった。

「さ、さぶっ!」

「野ばらの良質なシナリオが高回転する訳ないんだから、それが分からない契約先なんか無視、無視! それより凄いよ、早く行こうよ!」

「待って待って。」

 すっかり冷えきった紅茶を一気飲みし、野ばらはぶるりと震えた。

「…トイレ行きな。」

「そーする…。ああさぶ。」

 まるで炬燵からのし上がったクマのように、寒さに体を丸めながら仕事場を出ていく。百合愛もそれに続き、野ばらかトイレに入っているうちに、自分は白湯を飲んだ。

「で? 用はなんだ?」

「お外行きたい!!」

「やだ、寒い。」

「いいから! 運動するように言われたでしょ?」

 そう言われると弱い。フリーランスには会社診療などないからだ。

 しぶしぶ外に出て、ホォ、と、野ばらはため息をついた。

 そして百合愛がしたいことを汲み取って、一緒に息を吸い込む。


「雪だー!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る